第14話:過去が終わる、そのときに
六月の空は、青かった。
けれど、その青さは、胸の内を晴らしてくれるものではなかった。
「……ここだよ。父が事故に遭った現場」
千歳は、ゆっくりと立ち止まった。
人気のない旧国道沿い。ガードレールの一部が、今もわずかに歪んでいる。
「事故じゃ、なかったんだね」
彼女の声は、震えていた。
資料館で手に入れた古い調査報告書。そこには“事故”ではなく“証言に矛盾がある”と明記されていた。
そして、決定的だったのは、元校長だった竹原の証言だった。
──『君の父さんは、自分の研究を守るために、ある人間に追い詰められていたんだ』──
竹原は語った。
千歳の父は、地元の歴史資料を守ろうとして、ある有力者と衝突していたこと。
その人物こそ──現在の理事長、椎名重人。
「父が残した手帳……そこに“シイナ”って名前があった。やっぱり、関係してたんだ……!」
千歳は拳を握りしめた。
「でも、どうして今まで誰も……。どうして誰も、教えてくれなかったの……?」
その声は、怒りとも、悲しみともつかない、震えるような叫びだった。
俺は、彼女の隣に立ち、そっと言った。
「千歳……君がその真実を知るために、ここまで来た。俺は、君の味方だ」
言葉だけじゃ足りないと分かっていた。けれど、彼女の目が、俺の目を見返してきた。
「私……理事長に会う。すべて聞いて、決着をつける」
その言葉に、迷いはなかった。
過去を知った彼女は、もう泣いてばかりの女の子じゃない。
俺は強くうなずいた。
「一緒に行こう。千歳、もう一人で抱え込む必要はないんだよ」
彼女の手が、そっと俺の袖を握った。
細い指先の温もりが、決意のように伝わってくる。
そのとき、携帯が震えた。
竹原からだった。
──『椎名理事長が今夜、町の集会所で後援者向けの“非公式の講演”を行うそうだ。入れるよう手は回しておいた』──
「……行こう。もう、逃げない」
千歳は顔を上げ、青空の下を、まっすぐ見つめた。
──君の過去に向き合うことで、
きっと俺たちは、未来を変えられる。
次のページに続く感情が、すでに胸を高鳴らせていた。