9話。初めての竜狩り
次第にぽつりぽつりと雨が降り始め、大粒の雨が降り始める。
ハルコは、雨降る平原を走り抜け、山の麓に来た。
ゴツゴツとした岩山だ。空を見ると黄竜が緑竜を5匹連れて飛んでいる。
ハルコは、それを見るや否や、垂直跳びをする。驚異的な脚力で地を蹴り十数メートルの高さまで飛び上がり、1番後ろを飛ぶ緑竜の目の前に飛び
出る。
手刀で一閃。首を切り落とした。
絶命した緑竜と共に落ちていく。
ほんの一瞬の出来事に、4匹の緑竜は気付かず、最初に黄竜が気付いた。
落ちていく緑竜を見た黄竜は、口から電撃を放ち、4匹の緑竜を感電させる。
電撃を帯びた4匹は、ハルコに向かって飛んで行った。
緑竜の落ちる音が大地を震わせるように響く。
ハルコも着地し、上を見ると4匹の緑竜が急降下してくるのが見える。
4匹が同時に火球を口から吐き出した。
ハルコは、飛び上がる。
強烈な爆発に地に落ちた緑竜の亡骸が遠くまで飛ばされた。
「仲間諸共か。黄竜も手段を選ばないな。」
火球だけでなく、火炎放射も飛んでくる。
近付くと危ないと思われているのか、遠距離からの攻撃を旋回しながら同時に繰り返してくる。
黄竜もさらに離れた場所から口から電撃を飛ばしてくる。
ハルコは、電撃にかすってしまう。
「ぐっ。」
少し体が痺れたような気がする。
なんともない。雷も打たれるうちに慣れるだろう。
「それよりも、服大丈夫かな?」
炎や雷で服が燃えることが心配だ。
炎や雷がかすった時、燃えなかった。
ハルコは気付いた。
自分の無限の成長の力を服に付与することで、服の魔法がさらに強くなり、燃えたり破れたりすることがなくなると。
空を旋回する4匹の緑竜が同時に火球を放ち、黄竜が電撃を放った。
その同時攻撃をハルコは大の字で受けた。
爆発音と雷の落ちる音が鳴り響く。
巻き上がる爆煙が晴れると無傷のハルコが立っている。
服に汚れ1つ付いていない。
自分の力が着ている服にも影響を及ぼしたのだ。
「なるほど。また1つ成長できた。」
ハルコは、飛び上がり、空を飛び続ける緑竜を仕留めていく。
1匹の首を落とし、落ちる緑竜を足場に飛び上がり、2匹目の首を落とし、3匹、4匹と首を落としていった。
「竜は、首を落とすだけで倒せるから楽だな。」
最後の緑竜を足場に高く飛び上がり、その上を飛び逃げようとする黄竜の首を落とした。
ハルコの服は返り血すら弾き、汚れ1つ付かない。
全ての竜が地に落ちた。
雨は、大地に流れた血を洗い流すように降り続いている。
ハルコは、黄竜の頭を右肩に担ぎ、首を左腕で抱えた。
黄竜の頭は、人間の胴ほどあり、体は人間4人分の長さがある。
「よし!持ち帰ろう。」
黄竜を軽々と引きずりながら、走ってサンダリアに戻るハルコ。
途中、冒険者と衛兵の連合討伐隊とすれ違った。
「今、黄竜を倒してきました。」
頭と首から下の黄竜を見せるハルコ。
鎧に身を包む衛兵達や様々な冒険者達が唖然としていた。
「黄竜の連れていた5匹の緑竜の亡骸が山の麓のところに落ちてますので、あとはよろしくお願いします。」
ハルコは、衛兵達の返事を待たずに、黄竜を引きずりながら、サンダリアに帰っていった。
サンダリアの町に着く頃、雨は止んで、空から光が差している。
ハルコの帰還を祝福するように、虹がかかっている。
町の北側を守る衛兵が、ハルコと黄竜の亡骸に驚き、慌てる。
ハルコは町の前に、黄竜を置いた。
ドシンという重厚な音が鳴る。
ガラッドがこちらに来た。
「ハルコ、まさか、1人で?」
ガラッドが目を丸くしている。
「はい。山の麓で戦いました。黄竜が5匹の緑竜を引き連れてましたが、全部討伐しました。」
「おお。素晴らしい。ハルコは英雄だ!」
「討伐部隊の皆さんに、緑竜の確認をお願いしてきました。」
「分かった。討伐隊が帰ってくるのを待とう。それにしても、この黄竜、ほとんど傷がないな。一撃で首を落とすなんて、まさか…」
「そうです。これで、黄竜の素材をより多く利用できることでしょう。」
「有り難い。滅多に黄竜の素材が手に入らないから、この素材は町の発展と冒険者の支援のために使わせてもらおう。ハルコがまず必要な素材を教えて欲しい。」
「全て差し上げます。私には、鍛えた身体があり、リリィさんのくれた魔法の服があります。他は必要ないです。」
「有り難い。では、全て頂くとしよう。そして、ハルコの功績を讃え、今夜は宴を開きたい。」
ガラッドは、魔法拡声石を取り出して話す。
「サンダリアの町民に伝える!たった今、英雄が帰ってきた!町に恐怖を与えた黄竜と緑竜は、今、討伐された!付近には暫く現れないであろう!そして、それを成し遂げた英雄がいる!ここにいるハルコだ!」
町中から歓声と拍手が鳴り響く。
「ハルコの活躍を讃え、今夜は町全体で宴を行う!」
町は、恐怖と悲しみから一変。喜びの声で溢れかえった。
「ハルコ!!」
リリィがハルコを抱きしめた。
「ハルコ、すごいよ。仇を取ってくれてありがとう。」
リリィの体が震えている。ハルコの肩が落ちてきた涙で濡れる。
「私にとって、リリィさんは命の恩人です。そして、まだ終わりではありません。これからです。竜の恐怖を終わらせる旅はこれからなのです。」
「ありがとう、ハルコ。頑張ったハルコのために、今夜はいっぱい盛り上がろう!」
その頃、討伐隊は、山の麓にたどり着いていた。
緑竜の綺麗な亡骸が4匹。損傷の激しい亡骸が1匹。
冒険者達は、緑竜の素材を剥ぎ取っていく。
「こんなに綺麗な鱗や甲殻が手に入るなんて!」
大喜びで竜の素材を持ち物袋にしまっていく冒険者達。
衛兵は呆れたような顔で見ていた。
夜。場所は戻りサンダリア。
町はお祭り騒ぎだ。
冒険者や町の人達の楽しい声が響く。
ハルコは、リリィの宿屋でシャワーを浴びて、町に出た。
町の中央にテーブルが並び、酒場の料理や酒が並んでいる。
冒険者達が肩を組んで歌っていたり、町の人達も喜んでいる。
ガラッドが魔法拡声石を手に取り話す。
「ハルコの黄竜討伐を祝して、乾杯!!」
乾杯の声が響き渡る。
ジョッキに注がれたビールを飲み干すハルコ。
「ありがとう、ハルコ。ハルコの活躍で、道が作られ、これからサンダリアとトルヴァの交易がますます盛んになる。さらに、黄竜の討伐で、町に平和が訪れた。」
ガラッドは、ハルコに近付く。
「まだ、竜の巣は残ったままです。次は、竜の巣に行き、黒竜を討伐します。」
ガラッドは固まった。
「黒竜を・・・。いや、ハルコなら、できるかもしれない。今は、宴を楽しもう。」
顔色を変えたガラッドだが、すぐに明るい表情になった。
ハルコは、肉を食べ、ウイスキーをストレートでぐびぐびと飲んだ。
(お酒たくさん飲んでも大丈夫だよね、飲めば飲むほど、食べれば食べるほど強くなれる。)
酒が体内を巡り、瞬時に分解されてエネルギーに変わる。肉もまた、すぐさま吸収され、力となる。
「お!英雄ハルコじゃん!すごい飲みっぷりだね!」
冒険者が話しかけてきた。
「今日は主役だからね。飲めるだけ飲むさ。」
そういいながら、またジョッキのウイスキーを飲み干した。
「ハルコのおかげで、緑竜の素材がたんまりと手に入った。これで装備を作れる。ありがとう。」
「どういたしまして。」
ハルコは、肉を食べるのに夢中だ。
皆が祝う中、ハルコはひたすら食べている。
宴が終わり、静かな夜になる。
打って変わってリリィの宿屋は、大盛況だ。
ハルコは、自分の部屋に戻り、ベッドに沈む。
「今日もたくさん飲んだ。また、明日も筋トレだ。」
大騒ぎの宿屋でも、深く眠りにつくハルコ。
ハルコの道が完成し、交易が盛んになるまでの1週間の間にハルコは、黄竜を1人で討伐したという伝説を残したのだ。




