7話。ハルコの道
夜明け前のトルヴァは、しんと静まり返っていた。
昨夜の宴が嘘のように、町は眠りについている。
空には淡い藍色が広がり、東の地平線がじんわりと赤みを帯びていた。
ハルコは軽く伸びをすると、軽く身支度を整えた。
驚くほどスッキリした目覚めだ。
「あれだけ飲んだのに、全然二日酔いしてない…。」
内臓も鍛えられ、進化しているかもしれない。
リリィの宿屋に戻ったら、まずはシャワーを浴びよう。
砂漠の乾いた風に吹かれながら、ハルコは静かな町を後にした。
草原に、白い光が差し始める。
心地の良い風が今日も吹いている。
ハルコは、リリィの宿屋の扉を開く
「おかえりなさい、ハルコ。朝帰りなんて珍しいね!今日は飲み過ぎって感じじゃないね!」
「トルヴァで、デーツ酒をたくさん頂きました。スケルトン問題を解決して、皆さんに宴を開いてもらいました!」
「ハルコは、本当に凄いね!誇りに思うよ!」
リリィは、ハルコの肩に手を乗せ、満面の笑みを見せる。
「シャワー使いますね。このあと、サンダリアの町長とお話してきます。」
「ガラッドさんのところに行くんだね。シャワーから出たら、ハルコに買った服、出しておいてあげるからね。」
「ありがとうございます。2着も買ってもらえて嬉しいです。」
「毎日、洗えるようにね。大事にしてあげて。」
脱衣所で、ハルコは服を脱ぐ
(本当に丈夫な服だ。あれだけの戦闘をして、傷一つない。少し汚れてるくらいだ。この服の魔法はすごいな。)
体からほのかにデーツ酒の香りがする。
ハルコは、シャワーを浴び、タオルで身体を拭き、新たな服を着る。
身支度を整え、ハルコは、宿屋を出た。
陽の光がサンダリアを照らしている。
町長の家へ向かう。
ガラッド町長の家は、町の中心に建つ大きな木造の一軒家で、堅牢な木材がしっかりと組まれている。
外観は素朴で落ち着いた印象を与え、石ではなく木を主に使っているため、温かみを感じさせる。
窓から見える景色も良く見える。
南を見れば、広がる草原と遠くに見える砂漠。
北を見れば、遠くに見える山々。
大きな家の前に2人の衛兵がいる
「町長にどのような要件ですか」
「トルヴァのスケルトン問題を解決し、宝石産業が復興するという話を報告にきました。」
「どうぞ、お入りください。」
扉を開けると、まず広間が広がっている。
広間の中央には大きな木製のテーブルがあり、町の役人たちが集まって話し合う時に使われる。
テーブルの周囲には、数脚の椅子が並び、テーブルの上には書類や地図が広げられている。
天井は高く、木の梁がむき出しになっていて、温かみのある雰囲気が漂っている。
広間の奥には、町長が座る木製の玉座が置かれている。
竜の骨や鱗が広間の壁に飾ってある。
その神秘的な存在感が、広間の雰囲気を引き締めている。
ハルコが玉座に座るガラッドの前に立つ
ガラッドの姿は、かつての冒険者らしいたくましさを感じさせる。
筋肉質で、深い色の皮の鎧が無造作に着こなされ、緑色の瞳は鋭く、まるで獲物を見据えているかのようだ。
肩には、緑竜の鱗が埋め込まれたマントが垂れている。
「話は聞いている。ハルコと言ったな。今朝、伝書鳥がトルヴァから来た。魔物とスケルトンに乗っ取られた宝石鉱山を取り戻したようだな。」
その声は低く、重みがあり、周囲の空気を引き締めるような威厳が漂っている。
「はい。トルヴァは宝石産業の復興に動きそうです。」
「なるほど。」
「そこで、許可を頂きたいのですが、サンダリアとトルヴァを繋ぐ道を広げてもいいですか。馬車や荷車の通りやすい、広くて安定した道を作りたいです。」
「お前1人でやるのか?」
「はい。岩を動かし、地を踏み固め、道を整えます。」
「どうやるのかよく分からないが、よろしく頼む。そういった事なら、何人か職人を寄越しても良いが、どうだ?」
「では、岩の除去と地ならしが終わり次第、頼みたいです。」
「分かった。その時は手配しよう。」
「トルヴァの町長に許可をもらい次第、始めますね。」
「そうか、ダリウスのところに行くのか。ついでに、これを渡してくれ。」
ガラッドは机の上にある封をされた手紙を手に取り、ハルコへ差し出した。
「分かりました。届けますね。」
ハルコは手紙を受け取り、リュックの中へしまう。
「頼んだぞ。」
ガラッドの低く響く声が、ハルコの背中を押すようだった。
ガラッド宅を出たハルコは、トルヴァへ走りだした。
草原を抜けた先に岩砂漠。
細い1本の道が続いている。
3人ほど並んで歩ける道幅。
これを馬車がすれ違ってもぶつからないくらい広い道にするのだ。
トルヴァに到着したハルコは、トルヴァの町長、ダリウス宅に行く。
「ダリウスさん、ガラッドさんから手紙を預かりましたので、お届けします。」
ハルコは、椅子に座るダリウスに手紙を差し出す。
「ありがとう。」
ダリウスは、手紙の封を切り、読み始める。
「なるほど、宝石産業の復興支援や魔法石加工についての使いは必要かどうかについての手紙か…。魔法石加工は、宝石産業の復興してから使いが欲しいところだな。」
ダリウスは、腕を組み、つぶやく。
「そういえば、ハルコ、何か用があってきたのか?」
「ダリウスさん、トルヴァとサンダリアを繋ぐ道を広く安定した道にしても宜しいでしょうか。ガラッドさんには、許可を取ってあります。」
「それは、頼もしい!よろしく頼むが、1人で大丈夫か?職人を手伝わさせようか?」
「道ができてから、お願いしようと思います。」
「分かった。楽しみにしている。」
「ありがとうございます!」
ハルコは、笑顔でダリウス宅を出た。
トルヴァとサンダリアを繋ぐ道。一本道だが、途中の岩砂漠が道を狭く不安定にさせている。
岩砂漠の先の草原地帯は、整っている。
ハルコの圧倒的身体能力があってこそ、一瞬で町と町を行き来できるが、他の人はそうは行かない。
「行くぞ…!」
ハルコは、トルヴァを飛び出した。
すぐに岩砂漠が見えてくる。
乾いた風が吹き荒れ、辺り一面にゴツゴツとした岩が散らばっている。
道は狭く、不安定だが、ハルコには関係ない。
次の瞬間、ハルコは猛スピードで岩砂漠を駆け抜けた。
走りながら、地面に転がる岩を拾い上げては、投げ捨て、道を広げていく。
轟音を立てて岩が飛び、周囲の岩が砕かれていく。
地面を踏みしめるたびに、大地が振動し、岩が砕け散る。
道を塞ぐ物は容赦なく取り払われ、広がる道が見えてくる。
瞬く間に、馬車が2台通れる程の広さを確保。ハルコの力によって、岩砂漠は次第に広く、安定した道に生まれ変わっていく。
無駄な力を使うことなく、スムーズに道を整え続けた。
ハルコは、何往復も新しく広げた道を走り抜けた。
踏みしめられた大地が、平らに踏み固められていく。
作業は昼前に始まり、今は、夕方になろうとしている。
広げられた道は、踏み固められ、歩きやすくなった。
夕日が砂漠を通る広々とした道を照らす。
「よし、だいぶ綺麗になった!帰ろう!」
ハルコは自分で広げた道を走り、リリィの宿屋に向かった。




