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5話。リリィのご馳走

太陽が真上にある。


リリィとハルコは宿屋に帰ってきた。


「ただいま、アリア。留守番お疲れ様!」


「おかえりなさい。4人くらいの宿泊者を見送ったよ。」


「はあい、ありがとうね!お昼ご飯作るよ!3人で食べよう!」

リリィは、腕まくりをする。



リリィが買ってきた魔法石をアリアは宿屋の設備に設置したり、補充する作業に入る。


リリィがエプロンを着け、水の瓶から大きな鍋に水をたっぷり入れる。



鍋をコンロ台に置き、炎の魔法石を起動する。


魔法石が真っ赤に光り、鍋を温める。


リリィがその間に、まな板の上に塩漬け豚肉を置き、1cm幅に切る。2週間塩漬けされた綺麗な脂の肉が細く均一に切られていく。



ハルコは、食事スペースのテーブルを濡らした台拭きで拭いている。


ピカピカになったテーブルにフォークとコップを並べた。


(意識が戻ってから、ココナッツと水だけの食事だったから、フォークなんて久しぶりだ!)


久しぶりの温かい食事へ胸を踊らせながら支度をする。


リリィは、次に、ニンニクをみじん切りにして、唐辛子を輪切りにし、種を取り除いた。



鍋の水が沸騰している。

リリィは、鍋に塩を入れ、乾麺パスタを入れた。


グツグツと煮えるパスタ麺。


底の深いフライパンに刻んだニンニクと唐辛子、オリーブオイルを入れて焼く。

コンロ台に鍋を置ける場所は3つある。

2つ目の魔法石を起動し、真っ赤に光る。


オリーブオイルにニンニクの旨味が出る頃に、塩漬け豚肉を加え、肉の旨味を溶かしていく。


台所から香ばしい香りが漂ってくる。


「わあ!いい香り〜!」


ハルコは、満面の笑みになる。


魔法石の加熱を止め、リリィは、左手にフライパンを持ち、鍋のパスタをトングで取って入れる。



フライパンを愛を込めて振り、オイルソースがパスタ麺にしっかり絡む。


3つの皿に盛り付けて、完成!


リリィ特性のパスタだ!

テーブルにパスタが置かれると

ハルコは、水差しの水を3つのコップに注ぐ。


「おーい!アリアー!できたよ〜!」


「はーい!」


作業を終えて、アリアが食事スペースに戻ってくる。


3人は、食卓を囲んだ。


「食材に感謝を込めて。いただきます。」



ハルコはフォークを手に取り、皿に盛り付けられたパスタを勢いよく巻き取り、口に運ぶ。


「ん〜!!!!」


ハルコの目は輝いた。あまりの美味しさにうなる。


思わず左手を頬に当てる。


「美味しい!リリィさん、ありがとうございます!」


ハルコのはしゃぎ様にリリィは笑顔で応える


「いい子ねえ。たくさんお食べ。」


ハルコは、夢中になってパスタを食べる。

塩漬け豚肉の旨味とニンニク、唐辛子のピリ辛さ。

口の中いっぱいに幸せが広がる。


それだけではない。身体の変化を感じた。

食事をとるたびに成長を感じていたが、肉を食べるとさらなる身体の成長を感じる。


リリィの愛を感じる。


「午後、お手伝いをしたいのですが、何かする事ありますか?」


「そうだねえ。あ!そうだ、シャワーの水タンクに水を汲んでもらおうかな。それくらいかな。宿屋の隣に井戸があるからね。そこから汲んでね。」


「はい、分かりました!」


「水タンク、そろそろ空っぽだったから助かるよ。今日は暑くて大変かもしれないから、休み休みやってね。」


「あと、終わったら、好きにしてていいけど、日が沈む前に帰ってきてね!今日は、とびっきりいい肉のステーキと自慢のシチューを作るからね!」


「ありがとうございます!」



3人は、パスタを食べ終わる。


「ごちそうさまでした。」


ハルコは食器を下げるとすぐに外へ出た。


輝く日差し。草原の香りが風に乗ってくる。


桶を持ち、宿屋の隣にある井戸に行く。

井戸にも魔法石が活用されており、水のろ過や消毒を行う魔法石がある。


アリアが取り替えたのか、ピカピカと魔法石に刻まれた魔法陣が青く光っている。


綺麗な水を汲み、桶に入れ、タンクまで運び入れる。


これもトレーニングだ。より早く丁寧に水をこぼさないように。物を壊さないように。



ひとつひとつの動作を的確に素早く行い、水をこぼさずに速度を出して運ぶ。


水を汲む作業は肉眼でもかろうじて見えるが、水を運ぶ作業は、まるで複数人に見えるほどの速度である。


行動する度に最適化されていく。


(これで終わり!今夜も気持ちいいシャワー浴びるぞ!)


リリィが皿を洗い終えるまでに、シャワータンクへの水の補給が終わった。


「リリィさん、終わりました!」

宿屋の中にハルコが入りながら言う。


「あら!早いね!さすがだねえ!」


皿を拭きながら、リリィが満足気に笑う。



「気持ちよくシャワー浴びられるようにトレーニング行ってきます!夕方までには帰りますね!」


「はい!気を付けて行ってらっしゃい!」


見送るリリィの視線を背中に感じながら、ハルコは走った。



サンダリアの町を南に抜ける、全力疾走で岩砂漠を目指す。


踏み出す1歩1歩は、大きく、さらに大きくなり、風よりも早く。即座に岩砂漠地帯へたどり着く。



「そういえば、スケルトンの残党が居るかもしれない。トルヴァ周辺を見て回ろう」



ハルコは、また走り出した。


トルヴァの近くのオアシスにたどり着く。



「あ!お姉ちゃん!」


あの時助けた少女がいる。近くに数人の衛兵もいる。


「こんにちは!元気にしてる?」

ハルコは微笑む。


「お姉ちゃんが、スケルトンの集落を倒してから、スケルトンが減ったんだ!それでも、不安があるってことで、衛兵さん達がオアシスにも来るようになったんだ。」


「それなら、安心して水汲みできるね。」


(トルヴァにも井戸を掘ったり、井戸の魔法石を定期的に供給したり、道を作ったり。色々してあげたい。)


ハルコは、目標を胸に色々と考えを巡らせる。


そんな中、衛兵の1人がハルコに声をかける。


「以前は、ありがとうございました。何度もお願いするようで申し訳ないのですが、トルヴァの東側にある、宝石鉱山で、スケルトンが出現するようになり、宝石採取が出来ない状態にあります。力を貸していただければ嬉しいのですが…」



(宝石か…。そうか!宝石だ!宝石や鉱石から魔法石に加工することが出来る。宝石産業を発展させつつ、魔法使い達を誘致出来れば…!)



「分かりました!スケルトン達を宝石鉱山から追い出しましょう。」


ハルコは、にっこりと笑った。


(とはいえ、今日中に鉱山のスケルトンについての調査は終わらなさそうだ。明日の朝に攻略しよう。今は、準備だ。道だけでも覚えておきたい。)


オアシスを後にし、宝石鉱山へ向かう。


トルヴァから伸びる細い道を走りながら、かつて労働者が歩いて踏み固めた道だと思いを馳せた。


しばらく走ると鉱山に着いた。


周囲を見回すハルコ。

鉱山は寂れている。


ガシャン、ガシャン。


鉱山の入口から、ハルコの気配を察知したのか、スケルトンが5体現れた。



以前戦ったスケルトンとは異なり、人間の皮膚を纏っていない。

剥き出しの機械の身体、その胸部には手のひらに収まるくらいの大きさの宝石でできた魔法石が埋め込まれている。


(なるほど、スケルトンの動力として、この鉱山の宝石が利用されているようだ。)



襲いかかるスケルトンを受け流し、瞬時に動力の宝石を抜き取る。


宝石を失ったスケルトンは、慣性に従って倒れ込み、動きを止める。


残り4体のスケルトンの胸部の宝石も瞬く間に取り除く。



バラバラに破壊する必要はない。動力さえ無くなれば、動かなくなる。


宝石を抜く際、魔力の反動があるが、ハルコには傷ひとつ付けることはない。


(宝石鉱山の位置は確認できた。一度帰ろう。)


5つの魔法石をリュックにしまい、全力疾走でトルヴァへと戻る。



砂漠の町トルヴァにある町長ダリウスの家は、乾いた風を遮るように頑丈な石で作られており、外観は無駄がない。


その家はどこか荘厳で威厳を感じさせる。


ハルコは、ダリウス宅の扉を開いた。


内部は広々としており、広がる空間がどこか温かみを与えている。

荒い石に囲まれ、しかしどこか居心地の良さを感じさせるシンプルな装飾が施されている。


ダリウスの椅子は大きく、背もたれが高いもので、まるでその人物の存在感を際立たせるように、堂々とした佇まいをしている。


部屋には、彼が過ごしてきた長い年月を感じさせる古い書物や、砂漠の風景を描いた絵画が飾られている。


ダリウスは、広大な砂漠のように、余裕と深みを持って話す人物だ。強靭な体つきと、優しさと力強さを内包するような表情は、まるで砂漠そのものを、見ているようだ。



ハルコは、リュックから魔法石を取り出し、ダリウスの前に置いた。静かな空気の中で、ハルコは報告を始める。


「宝石鉱山が、何者かにスケルトンの動力源を作る場所として利用されているみたいです。」


ダリウスは、少し沈黙し、困惑した表情を浮かべた後に、重々しく口を開いた。


「なるほど。そういうことか。」


「また、明日、宝石鉱山を取り戻しに行きます。」


ダリウスはほっとした様子で頷き、ゆっくりと語る。

「ありがとう。ただ、本当に1人で大丈夫なのか?」


「私1人で充分です。むしろ、仲間がいると犠牲が出るかもしれません。」


ダリウスは深く息をつき、力強く言った。

「分かった。明日、頼んだぞ。」


「はい。それでは失礼します。」



ハルコは再び全力で走り始めた。



やがて、サンダリアの町が見えてきた。


空はすでに赤みを帯び始めている。


日が落ちる前に、リリィの宿屋に辿り着いた。


宿屋の外からは、ステーキとシチューの美味しそうな香りが漂っている。



「リリィさん、アリアさん、ただいま帰りました!」


「おかえり、ハルコ。ちょうど出来たところよ!手を洗っておいで。」


ハルコは洗面所で手を洗い、食事スペースに行く。


「わあ!すごーい!」


テーブルに並ぶ、チーズと野菜たっぷりのシチューと牛肉ステーキ。


「今日のお手伝いのお礼さ。食べましょ!」



「食材に感謝を込めて。いただきます。」



ハルコはスプーンを手に取り、シチューをすくい、口へ運ぶ。


「野菜の旨みとチーズの濃厚な味わいが最高ですね!」


身体に染み渡る野菜の旨み!


人参、ブロッコリー、玉ねぎ、ジャガイモ。ゴロゴロと具材の入ったシチューを楽しむ。


さあ、メインだ。


右手にナイフ、左手にフォークを持ち、ステーキを切る。

口に肉を運ぶ。


「ん〜!!!」

ハルコの目がキラキラと輝く。


「最高です!美味しいです!」



リリィは、幸せそうに食べるハルコを見て満面の笑みを浮かべる。

「奮発した甲斐があったよ。これからもハルコが活躍できるようにね。」


肉を口に運び、飲み込む度にたびに、体の隅々まで喜びが広がっているのを感じる。体が肉を求めているようだ。


ニンニクと玉ねぎのソースがたっぷりかかったステーキが湯気を出している。



ハルコは、感じた。

より良い食事を摂ると成長をすると。

大切な人と食べる食事はさらに自分を強くしてくれると。


皿についたシチューの残りとステーキソースをパンで拭き取るようにして食べる。



あっという間に食べ終わる。


「ごちそうさまでした。」


最高のご馳走だった。

幸せそうな笑顔で、ハルコはシャワールームに向かうのだった。


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