4話。買い物
「おかえり、ハルコ!今日は、真っ黒!機械油だらけだね!石鹸たーっぷり使っていいからね!シャワー浴びておいで。綺麗な肌が泣いてるよ。」
サンダリアの宿屋の女将リリィが微笑む。
「ありがとう、リリィさん。すぐ浴びてくるね!」
脱衣所で黒い油まみれの服を脱ぎ、シャワールームに入る。
鏡に映る全身。
白い肌には、黒い油がついている。
「髪や身体についた汚れも綺麗になる進化して欲しいなあ。望めばなるのかな。」
ふん!!
力を込めると腕にまとわりついている黒い油が溶けて、流れ落ちる。
「あ!排水溝が詰まっちゃうし、しっかり石鹸で洗おう!」
炎の魔石が輝き、シャワーからお湯が出る。石鹸をしっかり泡立てて、白い身体を綺麗に洗う。
しっかりと身体と髪を洗い流し、シャワールームも綺麗に掃除した。
脱衣所で身体を拭き、リリィのお下がりの服を寝間着として着る。
「ハルコの服、ボロボロだから、明日、一緒に買いに行こうか!あたしも市場で魔石や食材を補充したくてね!」
「ありがとうございます!実は、スケルトン退治のお礼にいくつか宝石をもらったのです。これで買い物したいです。」
「え!!スケルトンを倒してきたのかい!すごいじゃない!いいよ、飛びっきりいいもの探しに行こう!」
(戦闘したら、服はボロボロになるし、安い服でいいけどねぇ)
ハルコは思うも
「はい、明日は宜しくお願いします!」
笑顔で答えた。
「それじゃ、おやすみなさい」
リリィが見送る。
ハルコは2階の部屋に戻り、ベッドに入る。
(明日は買い物やリリィさんのお手伝いをしよう。たくさんお世話になっているし、恩返しもしてあげたい。)
宿屋に冒険者が何人か入ってくる音が聞こえた。
楽しそうな声。今日も戦果をあげられたのだろうか。
小鳥の鳴き声。朝日が窓から差し込む。
ハルコは、ベッドから出て、窓を開け、外の空気を吸う。
草原地帯の朝の空気は美味しい。
階段を降り、リリィと会う。
「おはようございます、リリィさん」
「おはよう、ハルコ。支度したら、買い物行こう!留守番は、妹のアリアに任せるから安心して!」
アリアは、細身で真面目な性格の女性、綺麗好きで、掃除や洗濯もそつなくこなし、受付もスムーズに行う。
支度を終え、アリアに留守番を頼んだ2人は、市場に向かう。
生活魔法道具の店や食材の売られた店、冒険者の防具屋や武器屋、道具屋など、様々な店が並び、朝から冒険者や住人達で活気に溢れていた。
「リリィさん、冒険者たちは、どこから来るのですか?」
歩きながら聞くハルコ。
「ハルコみたいに、南の砂漠地帯の方角から来る人もいれば、サンダリアの北東にある鉱山と鍛冶師の町ミストベインから冒険者が来るんだ。」
「ミストベインは、中央都市アラルティアの東側にある町で、竜退治のためにサンダリアに遠征に来るのさ。あとは、サンダリアに防具や武器を届けてくれたりするよ。」
リリィの話をハルコは、うなづきながら聞く。
「ミストベイン産のミスリル鉱石を使った魔法鎧だよ!竜の炎にも負けず、熱さを防ぐ一級品だよー!」
大きな声の方を向くと防具屋の店主が、冒険者たちに翡翠色に輝く防具を見せながら、自慢げに声を張り上げている。
周囲では、新鮮な果物を売る声や、道具屋の客が値切り交渉する声が飛び交い、朝の市場はお祭り騒ぎだった。
「冷凍魔法や冷蔵魔法の進歩、冷蔵魔法石、色んなもののお陰で、新鮮な食材が流通しやすくなっているんだ。今日は、宿屋の冷蔵庫に入れる冷蔵魔法石も欲しいね。」
「便利ですねえ。」
「まだ砂漠地帯の方だと氷魔法の維持が難しく魔法石の生成も少ない上、道の悪さから、あまり流通してないから、不便な地域もあるかもしれないね。」
(砂漠への道を広く、安定した道にしたり、魔法石の生産量を増やせれば、トルヴァみたいな町ももっと豊かになるのかなぁ)
ハルコは思った。
竜狩りのために作られたような巨大な剣を背負った冒険者や魔力のクリスタルが埋め込まれた杖を持ちローブを着た冒険者、軽装備な冒険者や鎧甲冑の冒険者、様々な冒険者とすれ違う。
巨大な剣を背負った男が連れ歩く魔法使いの女に話している。
「サンダリアの北西の山に緑竜が飛んできたらしい。手負いのまま戻ってきた冒険者もいる。お前の魔法で足止めして、俺がトドメをさす。俺たちの手で仕留めるんだ。」
ハルコは冒険者達の会話に耳を傾けていた。
「リリィさん、竜は何種類くらいいるんですか?」
「何種類か分からないけど、サンダリアの付近で見かけるのは、緑竜と黄竜かなあ。緑が黄色の手下さ。竜の縄張りには、赤竜や茶竜、竜の王の親衛隊の縞模様の竜、そして、竜の王、黒竜。そんな感じかなあ。」
「緑竜でさえ、冒険者10人がかりで仕留めたりする。剣を弾く硬い緑の鱗に全身は覆われていて、空を飛び、空から爆発する火球や火炎ブレスを吐いて攻撃してくる。柔らかい関節や弱点を狙うために、複数人で魔法をかけたり、攻撃しないと仕留め切れないのさ。」
「その緑竜を従える程の強さを持つ黄竜はさらに強い。黄竜はほとんどここら辺じゃ見ないからいいけど、緑竜を何匹か連れて行動しているから厄介だ。衛兵軍隊が必要になるレベルだね。」
「昔ね、あたしの宿屋の常連の冒険者が居たんだ。緑竜を1人で狩れる程の剣士だった。いつものように緑竜を狩りに行ったところ、雷が鳴った。複数の緑竜を連れた黄竜に遭遇した。黄竜は、雷のような攻撃をし、電流で緑竜を凶暴化させて襲わせるという噂を聞いた事がある。彼は帰ってくることはなかった。その話を町長から聞いて唖然としたよ。あんなに強い冒険者でも帰らぬ人になるなんて。」
「ハルコのことは、強い冒険者だと思っているけど、無理だけはしないでね」
リリィは少し目を伏せて優しく言った。
「あなたが無事で帰ってくることが、1番大事だから。」
リリィの瞳が少し潤んでいた。
「さあ、ついたよ!ここで買い物する!ハルコは、宝石売ってお金にしても良いし、好きな物買ってね」
生活魔道具店に着いた。
中に入ると、店内には様々な魔法石や道具が整然と並べられていた。
棚に並ぶ炎の魔法石は、微かな赤い光を放ち、冷蔵庫に使う氷の魔法石はひんやり冷たく感じられる。風の魔法石は、半透明な翡翠色をしていて見るだけで涼しさを感じる。
魔法陣の描かれた石は、どれも微かに震えているような気がした。
様々な形や大きさの石が置いてある。
今の店内には、リリィとハルコと店主だけだ。
リリィが買い物かごに入れる魔法石を吟味している。
ハルコは、カウンターにたたずんでいる髭の生えたローブを纏う店主に声をかけ、ポケットから宝石を出す。
「おお!これは、上物だね、高く買取るよ。200ゴルドでどうだい?」
「ありがとうマスター、お願いするよ。」
100ゴルド金貨2枚をカウンターに置く。
竜の紋章が裏に描かれ100と書かれた金色の硬貨。
その金貨を取ってポケットに入れるハルコ。
(そうだ、財布や道具入れを買いたい!あとは、救助する時のために回復の魔法石も欲しいな。道具入れに回復の魔法石を入れよう。)
「あの、魔法石を入れるための道具袋や財布って置いてます?」
「ああ、あるよ、あっちの棚に。」
店主の指さす先に、袋の陳列してある棚がある。
「ありがとうございます。」
ハルコは棚に近付く。
丈夫な革素材でできた財布。
魔法石を入れるための袋は防護魔法がかけられているようだった。
財布と背中に背負う道具袋のリュックサックを手に取る。
それから、回復魔法石を3つ手に取って、カウンターに置く。
「合計、130ゴルドと34シルバになるよ。」
先程、交換した100ゴルド金貨を2枚出す。
「はい、お返しは、69ゴルドと66シルバね。」
カウンターの小銭置きに、置かれる硬貨達。
50ゴルド硬貨1枚
10ゴルド硬貨1枚
5ゴルド硬貨1枚
1ゴルド硬貨4枚
50シルバ硬貨1枚
10シルバ硬貨1枚
5シルバ硬貨1枚
1シルバ硬貨1枚
硬貨を丁寧に数えて、買った財布の中に入れ、財布と回復魔法石をリュックの中にしまう。
財布34シルバ
リュック100ゴルド
回復魔法石1個10ゴルドを3つ
という計算だ。
ハルコの買い物が済む頃、リリィは、色んな種類の魔法石をカウンターに置いた。
買い物が終わり、買い物袋に入れて店を出る。
「今夜は、ハルコにご馳走作るよ!」
「わあ!ありがとうございます!ヤシの実食べて生活してたので、助かります!」
太陽が真上に登ろうとしている中、2人は市場を歩いている
「良い買い物ができたみたいだね!丈夫な荷物袋に財布も素敵ね!あと、ほら、ハルコの服買ったよ。動きやすいように布でできているけど、防護魔法がかけられていて、破れにくいのさ。」
「わあ!ありがとうございます!嬉しいです!」
「さあ、アリアが待ってるし、食べ物買って、帰ろうか!」
市場の賑やかな雰囲気を2人は楽しみながら歩いていった。