2話。筋トレ
ハルコは、全力疾走で町の南側へ向かう。
これも筋トレだ。
1歩1歩踏みしめる度、自分のふくらはぎや太ももの筋肉の成長を感じる。
呼吸の度に、肺が鍛えられていく。
町の外へ出たら、草原が広がり、その遥か先に岩砂漠が見える。
「運命の女神の言った通り、少し走っただけで、身体が強くなった感じがする」
このまま走ろう!岩が転がるゴツゴツした砂漠を走り抜けよう!
草原に伸びる1本の道をひたすら走り続ける。細く伸びる道は、砂漠地帯を横断しているようだ。
とにかく脚力や体力が欲しい!
足を前へ前へ
地を蹴り、腕を振り、風を切る。
足を動かす速度、腕を振る速度はどんどん速くなる。
進めば進むほど
草原の草の長さがどんどんと短くなっていく。
地面が乾いていき、砂に変わり始める。
足元の小さな砂が跳ねる音が耳に届く。
すでに足は軽く、風を切る音が耳に心地よく届く。
青く広がる空に眩しく光る太陽。
その日差しの強さが強くなるのを感じる。
吸って吐いて、吸って吐いて。
呼吸が早くなり、心臓の鼓動も早くなる。
ふと気付くと、鼓動は静まり、ゆっくりと呼吸できるようになっている。
身体の速度と反比例して、ゆっくりとした呼吸に。
身体が進化していくのを感じる。
「走っても走っても疲れない!疲れ知らずの身体か!いや、進化しているのか!」
砂埃が舞い上がり、荒野に響く足音がどんどんと力強くなる。
「ついた!岩砂漠だ!」
目の前に広がる岩砂漠。広大な大地に砂と岩。
道は真っ直ぐと伸びている
「鍛えるために、岩を超えていく!」
道を外れて、岩でゴツゴツとした砂漠へと足を踏み入れる。
突き刺すような日の光が肌を焼く。
灼熱の暑さの中、岩から岩へ飛び移るように走っていく。
飛び移る際に岩にぶつかるが、その痛みを感じない。ぶつかった場所に身体の形がつく。
岩に身体をぶつける度に、身体が鋼のように固くなるのを感じる。
「全く痛くない!」
人間を超えているような気がする。
次第に暑さにも耐えられるようになっていく。
小麦色に焼けたと思った肌も元の白く綺麗な肌に戻っていく。
まるで、内から溢れ出す力が、無駄なものを全て洗い流しているようだ。
周りよりも高い岩に飛び乗ると
遠くにオアシスが見えた。
「昼過ぎだし、食べ物が欲しい。」
オアシスまで、走った。瞬く間にオアシスにたどり着く。
砂漠の荒涼とした景色から一転、目の前に豊かな緑と水の輝きが広がる。
水の周りには草木が茂り、背の高いココヤシの木が揺れている。
ココヤシの木にぶら下がるヤシの実。
ハルコは、垂直跳びで軽々とヤシの実を掴み取る。
ヤシの実を素手で軽々と割り、中のジュースをグビグビと飲む。
「美味い!!」
オアシスに響くハルコの声。
オアシスで休息する生き物達は驚き、身を隠す。
砂漠の生き物達は、ハルコの力に圧倒的され、遠くからハルコの様子を見守っている。
ハルコは、その視線に薄々気付いているが、自分に手を出してこないと分かっているから、気にせずにジュースを飲み干す。
ヤシの実の中身も食べる。
「美味い!!!」
ビクつく生き物達を気にせず、跳ね上がり、もう1つ、ヤシの実を採る。
2個目のヤシの実を食べ終わる
「食べた食べた!次のトレーニングだ!」
再び飛び跳ね、走り出し、景色がすぐに岩となる。
目の前にそびえる巨大な岩をハルコは見つめる。
ハルコの身長は170cm。
その岩は、ハルコ5人分くらいある大きさだ。
「パンチやキック力も鍛えたいな」
握り締めた右手を見る。
ズドン。
岩を殴る。
ハルコの右ストレートが岩にめり込む。
重い音が砂漠に響いた。
右手を岩から引き抜くと、華奢で白く柔らかい手。
傷1つ付いていない。
頑丈で巨大な岩はこれくらいでは崩れない。
ハルコは喜びを感じながら、岩に、ジャブストレート。
ドドン。
岩にさらに2つの拳の跡ができ、ヒビが広がる。
その衝撃に、砂埃が舞い上がり、周囲の空気が震える。
手は痛くない。むしろ、力がみなぎってくるのを感じる。次の一撃への衝動が止まらない。
「そうか、鍛え抜かれた心肺で、無呼吸連打もできるのか」
息を深く吸い込む
砂漠に一瞬、静けさが広がり、風の音が聞こえる。
ドドドドドドドドドドドド。
止まらない連打。
砂漠に響く轟音。
まるで大地が震えるような地響きの音が続く。
巨岩は削れ、ヒビが全体まで広がる。ついに割れ目も広がり始める。
穴を掘るような勢いで、ハルコの拳は岩の中へ、さらに深く沈んでいく。
「右手に力をっ!!」
右手を引き抜き、力を溜め、渾身の一撃を放つ。
殴る度に強くなる身体。
常に最高記録を更新していく身体。
そこから放たれる一撃は、巨大な岩を木っ端微塵に吹き飛ばした。
バゴン!!
巨大な衝撃音と共に、四方八方に散らばる岩の破片。
大量の砂埃が舞い上がり、視界が一瞬白く覆われる。
「ふぅ・・・。」
風が吹き抜け、砂埃が晴れると、ハルコが立っている。
目の前に広がる巨岩の残骸。
ハルコは満足気にうなずいた。
「やっぱり、鍛えれば鍛えるほど強くなる。この感じ、さらに力が湧いてくる。」
ふと空を見上げると、日が赤く染まりかけている。
「日が沈み切る前にリリィさんの宿屋に走っていこう!」
ハルコは、全力疾走で走った。
豪快に響く足音。
鍛え抜かれた身体で風のように走る。
途中、目に入ったオアシスのヤシの木。
ヤシの実を2つ掴み取り、走り出す。
「んー!美味い!!」
走りながら軽々と片手でヤシの実を割り、中のジュースを飲み干し、果肉をかじる。
全身に力がみなぎるのを感じながら、さらに速度を上げて走る。
ハルコは、夕闇へ消えていった。