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1話。冒険の始まり

暗い闇の中に意識がある。


目も耳も指先も、何ひとつ感覚が働かない。


ただ、確かに自分がそこにいるということだけが分かる。


「ここは、どこだ?」


その時、不意に光が生まれた。

柔らかな白い輝きが、果てない闇の中で瞬く。

やがて、それは光をまとう女性の姿を形作った。



「私は運命の女神。勇者ハロルドよ、あなたは一度命を落としました。」

穏やかな声が、闇に溶けるように響く。


「あなたは悪魔と契約し、魔王討伐という偉業を成し遂げました。その後も強さを求め、冒険と魔物退治を続けていましたが、あなた自身の手で、その命を絶つことになります。」


その言葉と共に、胸の奥に鈍い痛みが走る。



「世界が勇者の復活を望んでいます。英雄を求めています。」


運命の女神の言葉に、ハロルドは何も言えずにいた。


「あなたは、新しい身体とともに目を覚ますことになります。そしてその身体は、鍛えれば鍛えるほど強くなります。そう、無限に。人智を超えた力を手に入れることもできるでしょう。」


その言葉にハロルドの心が激しく反応する。

これまで感じたことの無い、力強い引力が自分を包み込むように感じた。


「ただし、人の命を奪う事だけは決して許されません。

人智を超えた力は、命を簡単に奪う事さえできます。

その事を忘れないようにお願いします。」


ハロルドの胸の痛みがさらに強くなる。



「それから、性別も顔も今までと異なるから、よろしくね!これからは、ハルコとして生きてね!」


運命の女神が、今までの厳かな雰囲気と打って変わって、フランクな言い方をするから、ハロルド、いや、ハルコは呆然とした。



「これもまた運命(笑)」


運命の女神がニヤリと笑って姿が光に包まれ、薄く消えていく。


遠のく意識。



目を覚ますと、知らない天井があった。


見慣れない部屋。

どこか冷たい空気が漂っている。


自分が最後、どこに居たのかすら覚えていない。


「ここは・・・?」

呟く自分の声に驚く。

違う。自分の声じゃない。


視線を下に向けると、胸が膨らんでいる。

胸筋のような硬い膨らみではなく、柔らかな丸みを帯びた膨らみ。


手を見れば、ゴツゴツとした指ではなく、華奢で白い指先。



自分の身体が全く別のものに変わっていることに気付く。


「運命の女神が言っていた事が本当なら、鍛えれば鍛えるほど強くなると聞いたが・・・」



不意に部屋の扉が開き、恰幅の良い女性が元気よく入ってきた。


「気が付いたかい?」

朗らかな笑顔を浮かべながら、ベッドのそばに近寄る。


「昨晩、あたしの宿屋の前に倒れていたんだよ。酔い潰れてね。危ないから部屋に運んだのさ。」


「酔い潰れて・・・?」

そんな記憶は全くない。


「そうさ。しかも、手ぶらでね。荷物も何も持って無かったよ。」


彼女は椅子に腰を下ろし、じっとこちらを見つめる。


「でも、今は大丈夫そうだし、よかったよ。」

安心したような顔を見せた


「ああ、君、名前はなんて言うのかい?」

彼女は首をかしげた


「…ハルコ。」


「ハルコって言うのね!ここら辺で見ない顔だけど、やっぱり冒険者さんかい?」


ハルコは一瞬考え、口を開く

「…はい。あ!あの、お代はどうしましょう。」


「宿代は気にしなくて大丈夫だよ。大した世話もしてないし。ほら、お水飲んで。」


彼女が持ってきたグラスの水を差し出す。


ハルコは水をゆっくりと飲み干す。


「落ち着いたかい?あたしの名前は、リリィ。宿屋のオーナーさ。記憶が無くなるほど飲んじゃったんだね。」


「この町の名前は?」


「ここは、サンダリア。周りに草原が広がっていて、酒場と市場と冒険者に向けた道具屋と宿屋がある町さ。」


「サンダリア・・・町の周辺の地理とか教えてもらえます?」


リリィは、顎に手を当てながら言う

「えーと、今いる場所がサンダリア。サンダリアの南側は、岩石砂漠地帯が拡がっていて、オアシスを中心に小さな町や集落がいくつかあるね。ハルコの服装的に、そちらの方角から冒険してきたのかもね。」


ハルコは、気が付いた。

この身体は、冒険者か南の町の住人。

サンダリアに来て、意識を失い倒れるほど飲み、亡くなってしまった。

その身体にハルコが乗り移ったのだと。


「この町を出て北東に続く道を行くとミストベインという鉱山と鍛冶屋の町があるね。」


「あと、この町の遠く離れた北に、アラルティアという都市があるけど、直接行くことができないのよ。昔は繋ぐ道があったんだけどね。」


ハルコは眉をひそめる

「それは、何故ですか?」


「ある日、竜の巣ができたのよ。竜の王が統べる竜達の縄張りがあるの。荒れ地になっていて、空を飛びでもしなければ、踏み込むのも困難な場所。竜がたまに町の近郊の平原に現れることがあるから、冒険者さんに頼んでもらっているの。」


「竜の骨や鱗などの素材で町は潤っているけど、被害もたまにあるからね。困ったものよ。」

リリィは無力そうに肩をすくめた。



ハルコは閃いた

(運命の女神は、鍛えれば人智を超えた力を手に入れられると言った。竜の王ですら超える力を手に入れることだってできるはず)


「もしも、竜の王を討伐できれば、アラルティアへの道が作れるということですか。」


「倒せればね。これまで、何人も冒険者が挑んできたけど、手下の竜にすら苦戦しているのが大半。熟練の冒険者でさえ、命を落としてしまうよ。町にくるのは、手下の手下の鉄砲玉みたいな竜さ。その竜に10人がかりで冒険者が挑むのだから、竜の縄張りの竜の王にすら近寄れない状況さ。アラルティア側からも冒険者が挑んでいるみたいだけど、なかなか上手くいかないみたいね。」


「この町で救われた命、恩返しをします。」

ハルコの目は輝き、リリィを見つめる


「あまり無理し過ぎないでね。あたしの宿屋はいつでも開けてるからね。」

リリィはハルコの肩に手を置き、ウインクをする。


「この部屋を自由に使っていいからね。ハルコからは何だか不思議な力を感じるわ。」


「ありがとうございます!では、行きますね。」


ハルコは、勢いよくベッドから飛び出した。

礼を言い、階段を駆け下り、宿屋の扉を開く。


外は、すでに朝日が眩しく輝いている。


朝の空気を胸いっぱいに吸い込む


「さあ!筋トレだ!!!!」


ハルコは、町の外へ全力疾走で駆け出した。

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