シエラの記録 神の使者を用いた新計画について
3002年
陽炎の月 11日
ついに禁術が開始された。
明日から、神託の祠にて勇者が召喚され始める。
このガントレットにもようやく慣れてきた。
この国のため、この世界のために、一度の失敗も許されない。
歴史を繰り返してはいけない。
私とベルクが、影の英雄となり、世界を正す。
陽炎の月 12日
1人目の勇者が召喚された。
勇気の神カインケイノスにより選ばれし第一の勇者、
名をカインとする。
神託 無法の剣
自身の背丈ほどの大きさの、全てを例外なく切り裂く剣を操作する おそらくは視界の範囲内であれば自在に操ることが出来る。
戦闘結果 敗北
目眩ましにより、能力を一時的に無効化することが可能。しかし3秒後には復帰、以降は閃光は効果無し。おそらくは勇気の神の力の一部と推察。
歴代の記録から見ても、勇気の神の使者は異質な力を持っている可能性が非常に高いため、彼を処理することを最重要の任務とする。
陽炎の月 13日
2人目の勇者の召喚
力の神コクノロークにより選ばれし勇者、
名をローグとする。
神託 強制加速
自身と、自身が触れるもの全てを3〜5倍程度にまで加速させる。
戦闘結果 勝利
相手に触れることなく魔法で距離を取り戦えば、容易に勝利することの出来る相手。彼の神託と噛み合う武器があれば結果が変わる可能性有り。
陽炎の月 15日
3人目の勇者の召喚
創造の神レフリコースにより選ばれし勇者
名をレフレスとする。
神託 不明
戦闘結果 勝利
神託を使用した形跡無し。
とても大人しく、戦闘を開始した際も一切の抵抗無し。レフレス本人からの話によれば、どうやらキャンバスが必要とのこと。しかしそれ以上の情報は何も得られなかった。
陽炎の月 17日
4人目の勇者の召喚
進化の神キトリクスにより選ばれし勇者
名をトリスとする。
神託 不明
戦闘結果 勝利
神託を使用した形跡無し
戦闘技術は高く、鋭い反応を見せる
感覚が優れている様子。
こちらの会話は理解しているようだったが、トリスから理解可能な言葉は確認できなかった。
要警戒。
陽炎の月 18日
5人目の勇者の召喚
時の神ラシルクロウにより選ばれし勇者
名をルークとする。
神託 仮に、時を操る能力とする
戦闘結果 敗北
度々瞬間移動のような行動を確認した。ルークが瞬間移動した直後、こちらがダメージを負っている状況が合ったため、おそらく時を止めてその間自由に行動することが出来ると推察。時を止める時間は彼の瞬間移動の際の移動距離と、通常の移動速度から考えて5秒前後と考えられる。
戦闘開始から2分経過後、突如私の身体が爆発し戦闘が終了。彼は戦いの最中何かを理解したらしい。
ルークは卓越した頭脳と魔法の才を持っており、私が魔法の基礎を口頭で教えただけで、数分後には風の魔法を扱うことに成功した。
勇気の神を超える厄災の可能性有り。魔王討伐には大きく貢献するだろうが、手が付けられなくなる前に処理することも検討しなければならない。
陽炎の月 24日
6人目の勇者の召喚
慈愛の神ローズフィルートにより選ばれし勇者
名をリフェルとする。
神託 自動回復
戦闘結果 勝利
何度致命傷を負わせても即座に傷が癒え、即死させない限りは倒すことが出来ない。
彼女自身には一切の戦闘の意思を感じなかった。
他人を癒すことも可能。
うまく扱うことができれば、王国の切り札となり得る人間と評価。
陽炎の月 25日
今までの勇者6人のみで、十分に魔王を討伐することが可能と判断。指揮官殿に召喚の中止を提案した。
結果は続行。王は魔王討伐後、勇者の力で国を更に強化しようとお考えらしい。
間違っている。このガントレットでさえ、いくつもの奇跡が重なって最終的に王国が所持する切り札となった。そんな偶然はそう何度も都合よくは訪れない。
これ以上の召喚はリスクを上げるだけ。何時間も指揮官殿と話し合ったが、無意味に終わった。
せいぜい悪魔が生まれないことを祈るしか無い。
陽炎の月 26日
7人目の勇者の召喚
無の神ティルテウスにより選ばれし勇者
名をイルとする。
神託 不明
戦闘結果 不明
確かにガントレットは発動したはず。その形跡も残っているが、それ以外は何も理解することができなかった。
ガントレットの記憶消去の力は対象の生物にしか効かないため、その力を跳ね返すことが出来る神託の可能性有り。
イルだけが夢の記憶を持っている場合、直ぐにでも対処する必要があるが、どうやらその様子は感じられない。
彼に関しては未知数なことが余りにも多すぎる。
要警戒とする。
陽炎の月 27日
8人目の勇者の召喚
探求の神ジェドマイヤより選ばれし勇者
名をジンとする。
神託 サーチ
戦闘結果 勝利
周囲にある指定した生物、物体を探し出すことの出来る能力。戦闘中に何か気付いた素振りをしてから、突如としてパニックに陥る。それから先彼が戦闘の意思を見せることはなかった。
戦闘にこそ扱いづらいが便利な力と評価。
陽炎の月 28日
9人目の勇者の召喚
平穏の神クロアフォルテにより選ばれし勇者
名をクラフトとする。
神託 瞬間移動
戦闘結果 勝利
とても臆病な性格で、魔王討伐を唯一断った人間。ただし能力はとても強大で、複数の人間を同時にどんな距離だろうと移動できてしまう。
彼が存在するだけで全ての強固な守りの城は意味をなさなくなるだろう。
性格さえ改善できれば2人目の切り札となる勇者。
陽炎の月 30日
想定外の事態だ
魔王が討伐された
余りにも唐突に
魔王の根城をサーチで特定し、瞬間移動で勇者一行が現地へ向かい、そのまま戦闘、全ての過程を無視し魔王を討伐した
これは勇者を御し切れなかった王国の失態だ
魔王が倒されたのは喜ばしいことかもしれない
しかしこれでは、残された魔王の幹部連中はどうなる
主を失った魔族は、それぞれが自由に弔い合戦を始めるだろう
勇者達はどうだ
大体の勇者は元の世界に戻るために魔王討伐を行った
ここでは偽る必要などないので正直に記す
魔王を倒さずとも元の世界に戻る術はあるのだ
それは自身が死ぬこと
死ねば元の世界に帰れる
それを正直に勇者達に伝えて納得してくれるだろうか
こちらとしては、魔王の幹部連中を根絶やしにするままでは協力して欲しいところだが
嘘がバレてしまえばそれも期待できない
癒しの勇者ならまだ協力してくれるかもしれないが…
こうなってしまったのは禁術を用いて、異界の人間を騙し、利益だけを追い求めた王国への罰だろう
王国のため、世界のためにも
私達が、後始末をするしか無い
今すぐに、計画を練り直す必要がある