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99 ルビアナ国 ブルームバレー大使館


 国境を抜けて、日暮れには街道の宿で一泊し日が昇るころには出発する。そんな移動をして数日でルビアナ国の首都に到着した。


「今日はこのまま大使館へ向かいます」


 各国に大使館があり、貴族の次男や三男が派遣されているそうだ。


 優秀だが、跡取りにはなれなかった貴族の上手い利用法だ。跡取りは逆に領地管理などで忙しいため、長期間海外にいることはできない。


 爵位を継げずとも、貴族の一端には残れ、家門の影響力を増すこともできる。跡取り以外にも教育費をかけるようになることで、国全体の底上げにも繋がる。


 同じ港町だが街並みはマービュリアの白と違い、鮮やかな色が多い。雑多とも言えるが、カラフルな街並みだった。


「思ったよりも、原始的という感じではないですね」


 魔法に頼り切った国だと聞いたが一見するとわからない。ところどころにある街灯には魔法石らしきものがはめられているのが見えた。


「魔法を使えるものは貴族と一部平民と言うのは同じですが、動力源として使われる奴隷がいるという点が大きな違いでしょう」


 元婚約者の蛙が、ここに奴隷として売っていたという話は聞いた。だが、それがどんなものかピンときていない。


 物語に出ている奴隷は首枷や足枷をされ、ぼろ布を纏っているが、少なくともここに着くまでにそんな人は見なかった。


 小高い場所に城が建っているのが見える。その近くが上流階級向けらしく、ブルームバレーの大使館もその近くにあった。


「ようこそ、レオン殿」


 大使館は比較的大きな一軒家だったが、ものすごい豪邸と言うわけではなかった。要人などを呼んだり滞在はさせられても規模の大きな夜会は開くことが難しそうだ。


 出迎えたのは貴族の次男だとあらかじめ聞いたが、どこの家門だったかは忘れた。四十ほどの比較的若い男だ。


 レオンが儀礼的な挨拶をする横で婚約者として微笑んでおく。普通、公務にまだ結婚していない婚約者を連れてくるのはお飾りのためだ。特に大事な仕事を任せることもできないので隣にいるだけになる。別に主動して動く予定がないので作り笑いを浮かべてやり過ごす。今頭の中にあるのは、この人、名前なんだったっけだ。


「それにしても、お噂は伺っておりましたが、本当にお美しい婚約者だ。王太子が惚れられていたというのも頷ける」


 こちらへの挨拶に首を傾げた。


 一度レオンに視線を向けてから首を横に振っておく。


「いいえ、王太子殿下とは政略的な婚約でしたから、お互いに好意の類はございませんでした」


「……そうでしたか? いえ、こちらに伝わっている話では、王太子から求婚されたと……聖女様の発見で、婚約破棄をされたものの、よい縁談をとご自身の部下でもあるレオン殿へ紹介したと」


 この大使はポンコツか、礼儀がないのか、どちらだろう。レオンを前にしてしかも挨拶の場で言う言葉だろうか。


「かなり、間違った情報が伝わっているようです。どのような噂か、詳しく伺っても? こちらでどのように見られているかに関わりますから」


 レオンは不快と言うよりも、厳しい面持ちになった。


「はい。ご反応を見る限り、やはり悪意ある情報のようですね。お疲れかとは思いますが、荷下ろしの間、こちらで現状の説明をしましょう」


 ポンコツではなくポンコツに見せていただけなのか、神妙な面持ちで応接室に案内された。建物の中は王宮と似た作りをしていた。


 ザクロが給仕をして毒の確認が済まされたお茶を差し出す。


「つい最近……聖女様と結婚するため、婚約破棄がされたという一報が届きました。マービュリアの第一王子の息子が命じたという話だったのですが、今回やってくる使者が王族から婚約破棄された相手を婚約者としたというものと混同されていました。元々、ブルームバレー国で聖女様が見つかったことはこちらでも噂の的となっていましたから」


 ちょうど見てきたレレンという聖女? とリリアン様が混同されているのは許しがたい。


「一つではなく、先ほどの王太子から求婚したのに反故になったなどもあります。一部では、レオン殿が……王太子の婚約者を寝取ったというものも」


「……どうしてまたそんな事実無根が……」


 レオンが呆れというか、疲れた声を出した。


「ルビアナ国の王の政策の一部でもあるのでしょう。自分を上げるために、他国の者を落としているのです」


「その国王は、どのような方ですか」


「ジェイド国王は、レオン様より二・三歳しか年齢が変わらない方で、前国王の次男です。長男が即位前に病に倒れ、それを継いだ形になります。王にならないと本人も言っていたため、比較的自由生きている方でしたが、急に国王になることとなり、派閥もうまく動かず、かなり苦労していますね。何より派閥の長老たちが流行病で亡くなられているので、各派閥もまとまりがない状態となっています」


 なんとなく、シダーアトラス公爵家を思い出す。


 規模が国ともなれば悲惨だろう。


「魔法石の輸出については?」


「楽観視はできませんね。その……現在マービュリアとはかなり拗れています。そこにレオン殿の妹君が嫁がれたこともあって、そちらの派閥と解釈されているようです。今回も、陛下よりお話が来てから、謁見の申請をしているのですが、まだ通っていません。数週間かかっても不思議がないでしょう」


「そうか……」


「国ではそれほど被害が出なかったと聞いていますが、ルビアナ国では流行病でかなりのものが亡くなっています。少し景気は戻ってきていますが、悪感情は消えていません」


 レオンがこちらに目を向けた。


「リラ殿は、カクテル伯爵と知り合いでしたので、書状を書いてもらっています。それを王城に届けて様子を見ましょう」


「なんと……彼に対しては、病が収まってから個人として感謝状が贈られています。それでしたら、謁見はそれほど待たないで済むかもしれません」


 どうやら役に立つようだ。


 その後も色々と話し込み、夕食の時間になってしまった。夕食を取ってから、大使館に用意された部屋へ行く。


「普通婚約者の関係で泊まることは想定されていないようで、夫婦用の部屋になってしまったようです」


 レオンが申し訳なさそうに言いながら部屋へ入る。同じ寝室なら、流石にメイド用の部屋でまた寝るかと考えていたが、寝室や湯あみ場はそれぞれ別にあった。ただ、それぞれの部屋が扉で繋がっているのではなく、中心に談話用の部屋があり、左右にそれぞれの寝室や侍従やメイドの部屋があった。寝るとき以外は、自然と同じ部屋で過ごすことになる。


 移動の間色々な宿屋に泊まった。基本的は高級な宿ばかりだが、それぞれが特色を持っていた。今回のこの場が、一番長く使うことになる部屋だろう。


 嫌だと駄々をこねれば別の部屋を用意してくれるだろうが、特にこれまでと変わることでもないだろう。


「特に問題ないので構いません」


 深く考えずに了承した。




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