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86 マービュリア城


 ザクロにめかし込まれてから、馬車に乗る。レオンだけでなくザクロも同じ馬車に乗った。


 ふたりとも、かなり深刻な顔をしている。


 海の近くに王都があるらしく、日が暮れて少しすると王城に着いた。


 白漆喰なのか、街は真っ白な壁に赤茶の屋根ばかりの街並みだったが王城も真っ白だ。波のような僅かな塗り斑のような模様が街灯の光で浮かんでいる。


「この度は急な招待に応じていただき、また、海賊の退治に尽力いただきありがとうございます。私はカスピアン・セーラムと申します。お見知りおきを」


 この国の政治的に偉い人が歓迎する。飛行船を下りてすぐに話していた相手とは別の禿気味の男性だ。因みに知り合いだと言う軍の人は私たちの馬車の後ろに続いていた。逃がさないという圧を感じた。


 海賊を退治した事を評したいという名目でこちらに探りを入れているマービュリア国と、面倒ごとには関わりたくないレオンという噛み合わない会話を聞きながら、一晩滞在することになる部屋へ案内をされる。


「それにしても、ご婚約者様とは仲がよろしいのですね」


「ええ、今回は妹への紹介のためもありますが、婚前旅行も兼ねていますから」


「このように美しい方と旅ができるとは、羨ましい限りですな」


 腹の探り合いと牽制のし合いを聞きながら、建物を見る。


 白漆喰のどこか温かみのある白。窓からは遠くに海が見えた。ブルームバレー国は海に面している土地もあるが、首都からは遠い。育った場所は海からはかなり遠い場所だった。


 これだけ水があれば、水問題で困ることはないだろう。無論塩水では作物は育てられないが、水魔法が使えれば、水だけを分けることは簡単だ。準男爵にはなれないが簡単な魔法が使える平民でもできるだろう。


 ライラック領の貯水池を思い出す。海を見たのは初めてだった。巨大だと思っていた貯水池が小さいと思えるくらいだ。


 あれができてから、ライラック領は豊かになった。あれができてから、そういえば体調を崩すことが減った気がする。


「こちらがレオン様、お隣にご婚約者様であるリラ様のお部屋を用意しております。準備が整いましたら陛下との謁見の迎えをこちらに」


「半日ほどしか経っていないというのに、お目通りを頂けるとは」


「それだけ、あの海賊には煩わされていたのです」


「マービュリア国王陛下にお会いする準備はできておりませんでしたので、この程度の品しか準備ができずもうしわけがありません」


 そう言って、侍従が何かをやりとりしている。


 私の役目は取りあえずべったりとレオンにくっついておくことなのでそれに徹する。


 いわゆる毒婦として、公爵令息を誑かした女っぽくしてみている。


 やり取りを終えて、とりあえずレオンの部屋に一緒に入る。ザクロは私の部屋の確認へ向かった。安全のため、レオンと一緒にいないといけないのだ。


「……室内に盗聴盗撮の仕掛けはないようです」


 侍従の一人が確認を済ませ報告をする。


 それを聞いてレオンから離れて座る。


「次からは、もう少し時間をかけて探索をかけてくれ」


「いいえ、仕事は早いに越したことはありません」


 こちらの会話に侍従が困ったような笑みを浮かべて仕事に戻る。


 公爵家令息が外国へ行くのだから侍従やメイドは複数連れていく。飛行船なのでかなり数を制限しているといっていたが、それでも合計で六人、ザクロを入れて七人いる。


 少ししてザクロが戻ってくるとレオンに耳打ちをする。


「何かありましたか?」


「あちらの浴室で水のトラブルがあるようで、部屋を代えるかと問われたようです」


「……お風呂だけでしたら、こちらでお借りすればいいのでは?」


 私とレオンの部屋は続き部屋なので廊下に出ずとも行き来ができる。


「……リラ殿がそれでいいならば、その間は、リラ殿の部屋で待たせてもらいます」


 レオンが困ったような微妙な顔をしている。


「ああ、一番風呂を寄こせとは言いませんよ」


 ソレイユ公爵家は自室に浴室があったが、そうでないことがこれまでの生活では普通だった。家長が最初の湯を使うのが当たり前だったし、湯が使えるだけありがたいと思えという家もあった。まあ、私は自分でお湯を作ればいいので最後に湯場を使える方がありがたかった。汚れた湯を捨てて新しいのを勝手に準備すればいいのだ。


「いえ……夕食後は先に湯あみをしてください」



 今回連れてきている侍従もメイドも厳選された者たちだ。ある意味でレオンに近しいものが多い。だからか、会話を聞いていた周りが何とも微妙な顔をしている。


 ここはレオンを立てたほうがいいのかもしれないが、本人がいいと言っているのを無碍にもしにくい。




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