85 マービュリア国からの呼び出し
操舵室は四方が確認できる画面が設置されていた。三隻の中型船が進路に入ると、炎魔法を利用した大砲でこちらへ攻撃を始めたのがすぐに分かった。
万が一のために搭載されていたシステムで初撃は逸らすことができた。鳥が衝突するのを避けるためのものなので、何発もの攻撃になれば回避は難しい。そもそも、飛行船が航行するルートは事前に申請しているし、他国に行く場合はよりしっかりとしたルールがある。攻撃をされること自体が想定されていない。
風魔法を使えるものが攻撃に対して防御を始めたが、風魔法が比較的遠隔で使えるとはいえ、一点に集中して発動するとなれば話は別だ。
炎魔法で下手に攻撃を止めると、熱せられた鉄球が船を掠っただけで被害が出る可能性がある。俺ならば下の船を燃やすことはできる。だが、それをすれば国際法に触れる可能性がある。それだけ炎魔法の取り扱いは難しいのだ そんな中、水魔法で球が止められ、それを使った反撃が成された。すぐにリラが対応したとわかった。だが、流石に船を横転させるとは思わなかった。
かなり離れた距離の海水を操作したのだ。
魔力量、魔法の操作が規格外であるとは知っていたが、効果範囲までがあそこまで可笑しいとは思っていなかった。
ただ、弾を止めて落とすだけならばまだしも、横転させた船へ沈没の猶予を与えることなど普通はできない。
「複数で風魔法を起こした結果、船が横転したと思われる。夢中で対処していた結果、どう作用したのかは不明。そういうことだ。いいな」
着陸前に多くの船員が集められ、船長が言い含める。
リラは魔法を使っていない。船員たちも何が起きたのかわからないが、多分風魔法を一斉に使った結果、竜巻のようなものが発生したのだろう。ということにさせた。幸か不幸か、リラが魔法を使っているところを誰も見ていない。
推進を担う風魔法の技術者が疲弊しているのは事実だ。妹の領まで向かうことは不可能ではないが、魔力を使い過ぎれば命に係わる。一日休ませれば、大きく問題は起きないろう。直接の攻撃は受けていないが、止めるために使った風魔法で窓のヒビが報告されている。他にも重大な問題がないかの確認は必要だ。
一番近くの飛行船の停泊場所は、半島であるマービュリア国の海岸近くにある。
ソレイユ家が各所に金を出して作っている拠点のひとつだ。無論借地料は払っているし、この場所に関しては津波が発生した場合の避難場所として使えるように、相手国にも理があるように整備していた。
「こちらの対応はお任せを。明日の昼を目途に出発ができるようにしておきます」
整備と船長にいくつか確認をしておく。誰も、あれを誰が引き起こしたのか、問いかけも口にもしない。
魔法の研究をしている者たちは、あれを見ただけで理解しているのだ。口を閉ざしてみなかったことにするべきだと。少なくとも、他国では機密にすべきだと。
「ああ、俺はこのまま登城することになるだろう。問題があればすぐに連絡を寄こしてくれ」
確認と指示を終えるころには飛行船が着陸した。
着陸前に、上から見えていたことだが、一個小隊が下で待ち受けていた。通信で、海賊を撃退した勇敢な船員たちを城に招待したいという旨も聞いている。
固定されてから、最初に飛行船を下りる。整列している軍服の男たちの真ん中に、正装の男が立っている。
「レオン・ソレイユ様、わたくしネレウス・ウォータリスと申します。直接お会いするのは初めてですが、妹君のミモザ嬢の件ではソレイユ家とやり取りをさせて頂いていますので、初めましてというのが妙ですが……」
ミモザは色々とすっとばして輿入れをした。それに対して色々と助力をしたのがウォータリス家であることは知っていた。
「妹の件ではお世話になりました」
体裁を整えるために、妹の夫に土地を与えるまではよかったが、王族はあの厄介な土地を収めることを命じた。それでも比較的農業などに適した土地も含めるようになど彼が尽力してくれたのは事実だ。
「本日は海賊の襲撃に見舞われ、それを撃退してくださったと伺っております。あれらにはほとほと迷惑をかけられておりました。今回のご功績に対して陛下が是非とも直接お言葉をと申しております」
軍関係の要職についていたのは記憶している。事態からして彼が出てきてもおかしくないが、より断り辛い状況にしてきたのか。
「是非とも、皆さまでお越しいただきたいとのことでございます」
好意的な雰囲気だが、目が全く笑っていない。
「名誉なお招きを頂き大変うれしく思っております。ですが残念ながら、船員は襲撃の被害の確認がありますので」
「……では、レオン様とご婚約者様、それにお付きの方たちだけでも。ミモザ様にもこちらにお越しいただくように連絡をいたしますので」
「妹とはあちらの領地で会うことになっております。馬車では数日かかるでしょうから、着いた頃には私どもはもう経った後でしょうから」
「左様でございますか。お急ぎの旅路であるとは伺っております。誠に残念でございます」
わかっていたが、妹を人質に取られては命令に応じないわけにはいかない。それに、リラのことは伝えていなかったが婚約者として既に情報を得ているようだ。
相手はあくまでも海賊討伐への感謝を示したいと言っている。それを無碍にすることは難しい。
海軍も馬鹿ではないだろう。海賊を討伐に出た海軍は、捕らえた者たちから水魔法が使われたと既に知っているだろう。
妹から、マービュリア国は海神を信仰していて、水魔法を尊んでいると。だから炎魔法である妹が嫁いだ場合、相手は王位継承権を放棄したようなものになると。それをわかったうえで、王位争いから退けると結婚を受け入れられたと聞いている。
つまり、あれだけの水魔法が使えるものを見過ごすわけがないのだ。
リラのことは隠したかったが、ソレイユ家の跡取りが魔力暴走を起こしたのではとされる女性と婚約した。それはこちらでも知られていることだろう。
その内容が水魔法だったことを知らない方が難しい。
今回の襲撃がなければ、妹の領地に直接入り、そのままルビアナ国に迎える予定だった。まさか、海賊に襲われリラが対処すると想定できるはずもない。
「明日には出発することとなる事を了承いただけるのであれば、招待に応じることができます。折角お招きいただいたというのにこのような不躾な願い出をして申し訳がありませんが、我々は王命で動いている旨、どうぞご理解ください」
ルビアナ国と敵対している今、ブルームバレー国と相対したいとは思っていないだろう。
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