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82 リラ吸い



 普段は寄ってこない猫が、膝に乗ってゴロゴロと喉を鳴らしているような心地よさがあった。


 実際はぶるぶると震えていたのだが、抱きしめ返すどころかぎゅっと抱き着いて、背中や頭を撫でても一切嫌がられない。


 これで震えていなければ完璧だったが、怖がる婚約者をなだめると言うのもいいものだ。


「現在、マービュリア国とルビアナ国は仲が大変にこじれた状況となっています。レオン様の妹君がおられる国境付近は互いに警戒を強めていますが、ブルームバレーの公爵令嬢が嫁いだということで、直接的に危害を加える事態とはなっておりません。代わりに、海上の使用制限をかけてきています」


「それを見越して、元々土地を持っていなかった妹の結婚相手に領地を与えたようだからな」


 半ば押し掛けて結婚した妹のミモザを思い出して頭が痛い。


 ソレイユ公爵家は国内だけでなく外国にもよく出向いているために顔が利く。ある意味でブルームバレー王国よりもソレイユ公爵家を敵に回す方が厄介だという判断は正しい。


「そのような中、マービュリア国経由で向かっても問題、ありませんの?」


 うるんだ瞳でリラが問う。


「マービュリアというよりも、妹とは関係が良好で変わらず後ろ盾であるという牽制のためと、ルビアナに行くには一番効率的な方法ですから。ルビアナ国にも経路については既に報告、了承を得ています」


 ルビアナ国からは海上への停泊は許可すると来ていたが、飛行船は海への不時着はできるが航海ようにはできていないので断った。飛行船事業は比較的新しい分野だ。安全性を考えれば警戒されて当たり前だ。当初は国内ですら反発があったと聞くくらいだ。


「ルビアナ国は魔法が発展している国です。我々の国は、魔法を使えるものの人口の減少もあり、科学技術を併用した開発に力を入れています。あまり他の文化を国に入れたくない排他的なところがありますから、馬車で入国する方が無難なんです」


 この飛行船も、基本原動力は炎と風の魔法だが、精密な調整は機械化がすすめられている。電気魔法に関しては似た事象を科学的に発生させることに成功している。


「魔法だけで、生活ができるものですか……?」


 補助的に魔法や魔法石を使って生活をしているが、すべてのエネルギーを魔法で生活するのはコストが高すぎる。貴族が魔法を大っぴらに使わなくなったのもあって、国では脱魔法の傾向は加速している。


「バカマが魔法を使える者をルビアナ国の商人に売っていた記録があります。あちらも、魔法を使えるものは減少していると考えられるので、こちらの技術を売り出す代わりに売られた国民の保護ができればいいのですが」


 王太子からは、可能であれば買い戻しをできるように交渉して欲しいと言われている。


 誘拐や親から売られたものもいる。聖女様が不在で、多くの餓死者などが出なかったとはいえ、口減らしはあった。孤児院に預けられる子供は増えていたはずなのに、なぜか一定以上にならない事案も報告があり、捜査されている。孤児院が販売元であった可能性があるのだ。


 全てが国の責任とは言えないが、国家として、国民を保護するのは義務だ。それは特権を与えられている貴族が果たすべき義務でもある。



「あの時、シーモア卿が逮捕できていれば、犠牲は減っていたでしょうに……」


「そうかもしれません。けれど、リラ殿の責任ではありません」


 堪らずにリラを更に強く抱き寄せる。


 リラと婚約していたために逮捕を免れたと言われれば、事実だけを見ればそうだ。だが、リラが何かしたわけではない。知っていれば、リラは捜査に協力していただろう。


 元々違法薬物と武器の密輸入での捜査だったが、人身売買組織も運営していた。今回の捜査で全容の解明がされている。


「もし、リラ様との婚約中に逮捕できていたとしても、結果は変わらなかったと思われます。ルビアナ国にある犯罪組織の子会社のようなものでしたから、すぐに他の支社ができていたかと」


 淡々と、王妃様のメイドであるザクロが続ける。


「国によっては法律も変わるため、完全に違法という訳でもございません。ルビアナ国は魔法を使えるものは特権階級か労働者、もしくは奴隷に区分されているようです。リラ様は特権階級として扱われますが、王妃様も心配されていました」


「気を、つけます」


 風で船体が少し揺れると、リラが更にひしっと抱き着いてきた。


「……」


 一生、空の上でもいいと頭をよぎる。


 抱きしめるのは許可されることが多いが、口づけはあれ以来許可されていない。新しい契約書には、エスコート中など必要時は許可がなくてもいいことにしてもらった。それに、いくつかの項目を無断でした場合は罰金で許してもらうようにしている。そしてリラからは申告はもちろんこちらからの許可は不要としている。むしろこちらが金を払いたいくらいだ。


 そうはしていても、リラから抱き着いてくれることなど皆無だろうと思っていたというのに、なんだこの可愛い生き物は。


 髪に顔を近づける。なんというか、いい匂いがするとは思っていたが、多幸感を感じる。


 魔法で強制的に恋仲にされかけた時とは違う、もっと緩やかで、ぬるい湯につかるような感覚だ。


 よくできたメイドは一歩下がって自分の仕事を始めている。


 次いつあるかわからない幸運を、俺はできるだけ長く噛み締めることに専念することにした。




サブタイトルは猫吸いからリラ吸いとしましたが、

猫を吸うことを嗜むことを猫吸いだと知らない人がいる事実を知りました。

猫を吸うとストレス値が下がるように、レオンはリラを吸うと癒されるようです。

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