76 旅行計画
私が王妃様からルビアナ宝国へ向かうように命じられた時、ソレイユ公爵も王からその話をされていたそうだ。レオンが国を離れる間は公爵家を管理する必要があるのでそちらにも根回しが必要だったのだろう。
レオンは王太子から話をされたと言う。
上位貴族ともなれば、王命で特使として外国に向かうこともあるのだろう。
「どこかで保養をとは言っていましたが……、このような形になってしまいすみません」
「以前、私と言う藁に縋って聖女様を勝ち得た結果もあるでしょう。王妃様からは、祝福の効果があるのかを確認したいが、狙って効果が出るものでもないとはご理解いただいています。レオン様は成果を求められるでしょうが、私は無事に帰ればそれでいいとお言葉を頂いていますから」
王妃様とリリアン様は、私に対して好意的だ。だが相手はどちらも格上と言うことすら失礼な雲の上の方々。こちらも好意はあるが、その加護を期待しすぎるのはよくない。立場が上の方は、権力があるからこそ、心のままに行動することが許されないのだ。
今回の依頼と言う形の命令も、本来は王妃様の望むところではないだろう。
聖女様のお気に入りであり、何かと都合のいい私が長期でどこかに行くことは避けたかっただろう。聖女様はまだ十代半ばの少女だ。慰めが必要なこともある。
「それに、旅行には行ったことがなかったので……少し楽しみです」
大事な命を受けた仕事ではあるのだが、外国に行けるのも楽しみだ。
婚約者家族がどこかへ行く場合、私は留守番だった。現地のおいしい地酒を飲みたい。
「リラ殿が、楽しめるように努めます」
「いえ、それよりも仕事を優先してください」
帰りの馬車の中、妙な方向に行きそうなレオンに言っておく。
「今回、マービュリア国に寄ることになります。ルビアナ国へは飛行船で直接入ることはできませんから、ルビアナ国の隣国で妹の嫁ぎ先でもあります。いい機会ですから妹にも紹介をしたいと」
「マービュリアですか……妹さんはそちらに嫁がれたのですか」
外国に嫁いだ妹がいるとは聞いていた。
婚約破棄する相手なら、わざわざ会わなくてもいい気はする。世界地図を思い浮かべ、ルビアナ国へのルートを考える。
ルビアナ国は内海を挟んだ国で、陸から行くならばかなり大回りをして何か国かを通過しなければならない。対して船や飛行船で海を渡れるならば直接ルビアナ国へ行くことはできるが、飛行船の受け入れがされないならば、半島であるマービュリアに着陸し、隣接するルビアナ国に入るルートが一番早いのは確かだ。
「妹の結婚相手は一応王族ではありますが、王位継承争いからは退いています。色々と難しい立場ですが公爵家とは円満であると示すことで牽制をしておきたいという理由もあります」
「わかりました」
なるほど、そういう理由ならば挨拶をすることになっても仕方ないだろう。
「ルビアナ国については出発までに資料を読むつもりですが、マービュリア国についても何か知っておいた方がいいことがあれば教えてください」
残念ながら私は博学ではない。色々な婚約者の家で学んではきたが結構偏りがある。外国についてはいくつかの国には詳しいが、今回の二つはあまり知らない。
「我が家の面倒ごとに巻き込んでしまう形です。極力、安全には配慮しますが、無理はしないでください」
「無理のしようがありません。今回は婚約者として同行させていただくだけですから」
本当に幸運があるならばいいが、大きな失敗にならないようにだけ気を付けよう。
「それと」
荷造りと資料の確認をしなければならないなと考えているとレオンがどこかもじもじとしている。
「マリウス殿下から王妃様とリリアン様が夏に私たちの結婚式を開くと息巻いているそうです」
「……伺いました」
帰国後に婚約破棄をしても間に合うだろう。そう言いかけたがレオンがじっとこちらを見ている。
「女性は、結婚式にはこだわりがあると伺っています。本来であれば、リラ殿の意見を優先したものにしたかったのですが……聖女様と王妃様が主導することで王族が祝福していると心証付けたいとのことです。私の力では、それを止めることができず、申し訳ない」
「そうですね。内々に済ませる式が一番ありがたかったですが……」
それならば土壇場で中止しても大きな問題にはならないだろう。
王宮主催となると、多くの貴族に招待状が送られるかもしれない。出発前に、多数の前での式典は流石に勘弁してほしいと手紙を送っておこう。
「確かに……厳かな、静かなものがいいのですね」
「まあ、そうですね」
「わかりました」
これまでの婚約で私は結婚式の準備をちゃんとしたことがなかった。姑や他が準備をしていたことはあった。他は正妻ではないので簡易の式か、ただ婚姻届けを出すだけの予定だった。そもそも婚約破棄予定だったことも多い。
準備をしてくれるなら楽でいいが、中止になったらリリアン様にどう謝ろうかと気が重い。
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