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73 王妃様からの命

新章始まります。


 レオンが調整するまでもなく、数日後には王宮への招待が届いた。


 今日は、リリアン様だけでなく王妃様も同席している。


「ご無沙汰しております、王妃様。先日の審問会では、大変に失礼いたしました。そして、ありがとうございました」


 席に座ってお茶をしている王妃に深々と頭を下げる。


「お座りなさい」


 今日は目元だけを隠すベールをしている。お茶を一口飲むと、そう言われたので席に座る。


 今日のリリアン様はいつものお茶会と違い、ぴしっと背筋を伸ばしている。


「あれは、非常に不快でしたけれど、マリウスに不名誉な噂が立たないためにも必要なことでした」


 王妃様はカップをソーサーに戻すときも、一切音を立てない。そして何者よりも優雅な所作だ。血の滲むような努力をした結果、もう動きが身に染みてしまっているのだ。


「それに……気になっていたのですよ。シーモア・サイプレス伯爵と、レオン・ソレイユ公爵令息は、とても仲がよろしいのね。二人で力を合わせ、あなたを救おうとしていたでしょう」


「正直申し上げまして、いつの間にあんなに交友を深めていたのかと驚きました。シーモア卿は気難しいところがございますから、余程気に入られたのでしょう」


 今日は中庭でお茶会だ。そして、その席が見えるテラス席で、国王とソレイユ公爵の姿が見えた。互いに会話の内容までは聞こえない。高貴な方々は大きな声で話さないので、会話しているかも不明だ。


「そう。あなたの縁談先が酷い方ばかりでなかったのは不幸中の幸いでした」


「シーモア卿とレオン様についてのお話は、また後日見解を伺う場を頂ければと考えております。いかがでしょうか」


「そうね。また別に招待しましょう」



 ソレイユ公爵のご高尚な趣味には驚いてしまったが、王妃様もまた、大変に高尚な趣味を持たれている。ソレイユ公爵以上に、内密にしなければならないことだ。なので人払いできる場に招待してもらった方がいい。今日はリリアン様も同席しているが、どうしても、あの日のことを話したくて仕方なかったのだろう。


 王妃様も、人であることを、人の業の全てを捨てることはできなかったのだ。


「お話を変える前に、レオン様シーモア卿というのがわたくしの見解でございます」


「……悪くはないわ」


 カップに手をやり、満足そうに口を付けられた。


 ゆっくりと噛み締めておられるので、そっとしておきリリアン様に視線を向ける。


「リリアン様も、ご心配をおかけしました」


「本当に……とても不快でしたが、それはリラに対してではありませんよ。リラは、ただ一生懸命なだけだったというのに……でも、レオンがリラのためにあそこまでできたことは満足しております」


 リリアン様は純粋にレオンの行動を評価した。


「でも、リラはどうして一度断ってしまったのですか?」


 脅されて断りを撤回したとは言えない。王妃様が代わりに答えてくれた。


「女性は、受け入れるだけではなく焦らすことも必要なのですよ。ただ追従するだけの女では舐められてしまいます」


「……そうなのですね」


 とても真剣な面持ちでリリアン様が頷いている。


「リラ、今日来てもらったのは大切な話をするためです」


 色々と気持ちを落ち着けた王妃様が切り出す。二人きりでなく、リリアン様も交えてと言うことは趣味の会話に付き合わせるためではないとわかっていた。リリアン様には、高尚過ぎることくらいは弁えておられる。


「あなたと婚約すれば幸運が訪れる。そのような藁に縋る想いで陛下はマリウスと婚約させました」


 本当に、私と婚約させてでもと言うほど王家は窮地に立たされていたと聞く。


 干ばつが目に見えて目立ちだし、収穫量も減り、飢餓を防ぐために穀物の輸入をしようにも足元を見られていた。聖女様のお力が途絶えて久しく、周辺国がこれを機に攻めてくるかもしれない。そんな危機も眼前に迫っていたのだ。


「今回だけであれば偶然でしょうが、あなたの婚約者は全員に幸運が訪れていました。これはもう、祝福だと言ってもいいでしょう」


「祝福ですか……」


 祝福と言うよりは、呪いのような気もする。


「祝福は、リリアン様のような聖女様に使われるもの。私のそれは、そこまで大それたものではないかと」


 特殊な魔法が使えるものもいる。だが、私は婚約者たちに魔法を行使した記憶はない。


「わたくしも、聖女様の発見がなければハッピー・ライラックなどと言い出したシダーアトラス家の言葉は信用しなかったでしょう。陛下とマリウスの勝手であなたと婚約をしたときは、腹も立ちましたが……結果だけを見れば、我々が最も必要としていた聖女様を見つける結果になりました」


 私の知る限り、まともな跡取り、まともな王様、厳しいがそれだけではない王妃様、貴族を御し、安定した政治を行っていた。王宮に足りないものは聖女様だけだったからか、数カ月ですんなりと聖女様は発見された。


 狙って幸運が訪れるかは不明だったが、結果としては希望通りになった。


「以前、準男爵が似たような触れ込みで私と婚約した際は、船が沈んだりして求める結果、お金儲けや出世はできませんでした」


「それは、審問会に出ていた者の話ですね。あの罪状を考えれば、逮捕を免れていた事実だけでも十分な幸運と言えるでしょう。余罪捜査のためにまだ刑は執行されていませんが、これまでの行いから極刑は免れないでしょう」


 狙った幸運が訪れる訳ではないから、祝福とまでは呼べないと言いたかったが、大儲けしても、死刑では元も子もない。確かに、そう考えれば幸運はあったのだろう。


「これまでの婚約者に何らかの幸運が訪れたことは事実。そして、審問会でリラに対して害をなそうとした準男爵はその幸運が剥奪されたように見えた事でしょう」


 別に幸運を与えようとしたわけでも奪い取ろうとしたわけでもない。全てはただの結果だが、聖女様が国を守るからか、迷信を信じる貴族は案外と多い。


「元婚約者たちは、それを恐れて害なそうと言うことはしないでしょう。シダーアトラス公爵のように婚約者であった事実を公表するものもいるかもしれませんが、ほとんどは口を閉ざすでしょう。あなたの気分を害して、折角得た幸運を手放したくはないでしょうから」


 いい家ばかりではなかったが、結果として問題が解決し、慰謝料をしっかりと払ってくれていた。定期的に連絡を取っている相手はシーモア卿くらいで、他の家門がどうなったのかはよく知らない。


 婚約破棄した相手と頻繁に連絡を取るのは未練がましく思われ、関係の邪推も出る。何よりも、興味がなかった。


「ソレイユ家がこれ以上繁栄するのを厭うものが何かする可能性。それに、もしもレオンとの婚約が破棄された場合、あなたを攫って無理にでも婚約を迫るものも出るかもしれません。あなたが授けた幸運は王族とシダーアトラス公爵家がお墨付きを付けたようなもの。欲しがるものは多いでしょう」


 シダーアトラス公爵家も元婚約者であると公表した。没落ぶりからの復興は有名な話だ。それに、王族との婚約では待望の聖女様の発見。そりゃあ、藁に縋る者は出てくるだろう。


「祝福には何らかの法則や対価が伴うことがあります。無論、聖女様のように対価ではなく制約だけの場合もありますが、それらが無意識であっても、どのようなものか知っておく必要はあるでしょう」


 そう問われても、相手に幸せが訪れるようになどと願いたくもないような相手もいた。私はただ嫁ぎ先予定の屋敷で暮らしていただけだ。婚約者とはほとんど接触しないままということだってあった。


「特別、何かをした記憶はありません。婚約という契約書を交わしたからといって、魔力的魔法的な効果が出るとも思えませんし、何か代償を払った覚えもないのですが」


 貴族の婚約契約はただの書類だ。魔法的な縛りがあるわけではない。


 代償は婚約破棄だが、すべての婚約破棄が悪いものでもなかった。不利益ばかりならばまだしも、そうでないこともあったので法則性が見いだせない。


「祝福は解明されないままだったものもあります。呪い持ちに関しては解明されぬままであることがほとんどでした。ただ、事実として、あなたと婚約したものは幸運が訪れる。それだけで、他のものにとっては十分な事実でしょう」


 呪いと祝福は分類としては一緒だ。


 触れるだけであらゆるものを腐敗させる子供の童話がある。最終的に流した涙が地面を腐らせ、沼のようになって子供もろとも一国を沈めてしまったという話だ。


 それを清めたのが聖女様であり、ブルームバレーの建国神話だ。


 人の役に立つものは発酵と呼ばれ、それ以外が腐敗とされる。人の役に立つ呪いだけが祝福と呼ばれるのだ。


「私にとっては……呪いのようなものですね」


「リラ」


 リリアン様にそっと手を取られる。


「私は、あのままであれば殺されていた可能性もあると聞きました……。あなたからの恩恵を受けた一人として、私はあなたに恩を返したいと思っています」


「リリアン様の平穏な生活を奪ってしまったのでは?」


 聖女と認められることが幸せである人もいるだろうが、ここで出会ったリリアン様は王宮の生活に苦しめられていた。


「最初は、辛かったですが。いまはリラと言うお友達もマリウス様もいますから」


 王妃様の教育プランが厳しいことは体感していたので、決してリリアン様が憎いわけではないとか、こうするといいという対処法を教えることができたのを思い出す。


 王太子との婚約期間中、王妃教育の教え方の練習相手として王妃教育を受けるというややこしい立場にいたお陰だ。


 今の国王の母親は聖女様で、それはそれはのほほんとした方だったそうだ。対して王妃様は聖女ではない。聖女でない王妃として完璧を求めたのだが、のほほんとした義母はなんの教育もしてくれずとても苦労したそうだ。その結果、同じ苦労をさせないためにと教育に力を込めすぎてしまい、リリアン様とは溝が深まってしまった。


 同席していてもリリアン様は緊張が見えるものの委縮しきっている様子はない。関係は良好になっているようでよかった。


「あなたに本当に祝福があるか、それを確かめるためにも、そしてレオン・ソレイユに公爵としての資質があるか確認をするためにも、ルビアナ宝国へ行き、交渉をしてきてもらいます」




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