70 息子の婚約者の能力
リラ・ライラック準男爵について、妻であるビオラとラナンキュラスから話は聞いている。
父としては息子が決めた相手であれば文句を言うつもりはない。家格や条件に見合った婚約者候補は立てていたが、そのどれも気に喰わないならば自分で見つければいいと二十五までは放置していた。流石に、跡取りを考える必要があり、時期を定めたのがよかったのだろう。期日までに婚約相手を見つけてきた。
だが、流石に準男爵は想定外だった。
産まれは男爵令嬢らしいが、その男爵家も取り潰しか当主が変わる可能性が高いと聞いている。つまり、公爵家が得る利益も与える利益もないということだ。
貴族としては、伴侶選びを失敗したと言われてもおかしくはない。
昨日は魔力暴走疑惑での審問会まで開かれた問題児だ。
息子に爵位を譲った後、家門が傾いては困る。
妻たちの後押しもあり、婚約を承認する署名はしたが、まだ婚約だ。好いているのを引き離そうとは思わないが、愛妾で我慢をしてもらう可能性もある。
そんな事を考えていると、レオンが恋人を連れてやってきた。その少し後ろには幼いメイドがついて来ている。
「急にすまないな。あまり、屋敷に滞在ができないのでな」
「いえ、公爵様と同席できると聞き大変うれしく思います」
レオンが椅子を引き、優雅な所作で腰掛ける。
妻たちからは、男爵家が出身だが王太子と婚約中に随分といい教育を受けたようだとは聞いていた。
王太子が男爵令嬢と婚約したと聞いたときは驚いたが、まさかそれと息子が婚約するとは思わなかった。
「リラ嬢は、毒の検査ができると聞いたが、確認のために見せていただけるか」
屋敷内での問題も報告が来ている。手を付けずに毒の入った皿を見つけたという。その能力は、公爵家としてはよい武器になる。家門がないと言うのならば、本人に価値を見出しておきたい。
貴族にとって、魔法の強さや微細な操作を求められる時代ではないが、不可欠なものだ。
「わかりました」
了承を得て、食事とは別に用意させた毒を混ぜた皿をリラ嬢の前へ並べさせた。
私の後ろには、公爵家の毒見薬がリラ嬢を観察している。毒の検知は一種の特殊技能、祝福とは呼べないものの特殊魔法に分類できるものもいる。侍従やメイドよりも格段に給料は高いが、一度失敗しただけで自身の首にもかかわる責任も大きな仕事だ。
皿の上に手をかざし、ゆっくりと上を移動させる。一度真ん中の皿に手を戻した後、腕を下げた。
口に含んだり、直接触ることで毒を見分けるものが多い中、手すら触れずに毒の検査を行うものは見たことがない。
カーディナリス公爵家が毒薬混入に係っていたと聞くまでは、彼女の自作自演も考えた。今の姿を見ても、やはり毒の検査ができるのは虚偽ではないかと疑う自分がいる。
「……左の皿は致死性の毒、右の皿は軽い毒。真ん中は毒ではありませんが、体調がすぐれない時に食べるとお腹を壊してしまう可能性があります」
リラ嬢は少し考えた後、迷いなく答えた。
用意をした料理人に確認の視線を向ける。こちらや料理人の微表情を見て、毒の有無だけを判断することができないとは言えない。だが、程度までを当てるのは難しいだろう。
「毒の皿は正解ですが、真ん中には何も細工をしておりません」
「いえ、毒ではなく単に材料が少し悪くなっていたのでしょう」
「そ、それは失礼いたしました」
毒の皿が下げられ、改めて食事が運ばれる。
「どのような原理かお教えいただけますかな」
「……食べ物の水に魔力を通したときに、違和感があるかどうかです。細かくは少し説明が難しいので、申し訳ありません」
「いや、秘匿するのは悪い事ではない」
属性の違う魔法はどうせ使うことはできない。息子からは魔力量は公爵家に恥じない程度の量があり、魔法操作にも長けていると聞いていた。過大評価ではないことが分かればそれでいい。
この少し下にある☆☆☆☆☆をぽちっと押してもらえると大変喜びます。
もちろん数は面白かった度合いで問題ありません!
ついでにイイねボタンやブックマークをしてもらえると、さらに喜びます。
あなたの応援が作品の未来を変えます!




