64 レオンの申し立て
「魔力暴走と言われていますが、その点についても反論をさせていただきたく存じます」
ゴミとクズが回収されてから、そもそもの話に戻す。
「リラ殿、説明を頂いてもよろしいかな」
「はい。まず、魔法封じは名の通りに魔法の発動を封じるものです。効果範囲から外れている場合は魔法の使用が可能になります。私は拘束された上に、首枷型の魔法封じをつけられておりました。娘をお持ちの方々は想像してみてください。ご自身の娘が誘拐され、どこともわからぬ場所に閉じ込められている姿を。魔法を使えるのであれば、非力な女性でも脱出できる可能性がございます。わたくしは、足だけが効果範囲から外れることに気づき、必死に縄を切るように試みました。普段とは全く違う効率の悪い魔法の使い方です」
これはあくまでも仮説だが、私のせいじゃなくね、とさせればいいのだ。
「効果範囲外から無理に魔法を使ったからか、制御が効かなくなったことは認めますが、それは魔力暴走とは全く別の原理のものになります。魔力暴走とは、感情や能力の問題から本人では制御がとれなくなり魔力が溢れ、危険な状態になること」
まずは違いを確認する。
「今回の場合は、生命の危機を感じる状況下で、人為的に魔法化能力に負荷がかかった状況で起きた事故でございます。もちろん、国民に不安を与えたことは謝罪をしなければなりません、幸いにもわたくしの魔法は水を道に注いだだけで大きな被害もなかったと伺っております」
「だが、街が浸水していた可能性もあった! そのような者を市中に置いておくわけにはいかない!」
捜査官が、声を張り上げる。それに首を傾げた。
「国の捜査機関は、誘拐など、場合によっては殺される可能性がある状況下においても、被害者は一切、逃げる努力をしてはならない。もし、逃げる際に監禁場所の家屋を傷つけた場合は処罰の対象だ。そういう見解でよろしいですか?」
「なっ、それと、これとは違うだろう」
「いいえ、何も違いがございません。魔法が使える貴族であれば、逃げるために魔法を使用することは当たり前のこと、手元に刃物があるのに拘束されている縄を切るなとおっしゃるのですか?」
「被害が出たことを問題としているのだ」
バンと大きな音を立てて机を叩く。野生動物でも人間でも、大きな音で相手を威嚇するのは同じだ。
シーモア卿が前に出た。
「被害届の内容ですが、どれも大雨が降った場合に見舞われるのと同等かそれ以下となっています。また、それらの被害への賠償は全て示談が済んでおり、被害届は全て取り下げられました。よって、市民への被害はなかったものと考えております」
「そんな、馬鹿な話があるか」
「傷害事件ですら、金で済ませる者もいると伺っております。無論、リラ殿には今後再発の防止に努めていただく必要があります。ですが、魔力暴走として判例を作った場合、大きな弊害が出るでしょう。そもそも、今回真に断罪されるべきは誰か、誘拐されたリラ殿が悪いのですか? 誘拐し、魔法まで封じ、か弱い女性に恐怖を与えた犯人に咎がないとおっしゃるのですか? もしも、リラ殿の魔法で、人的被害が出ていたとしても、本来であれば誘拐犯、ひいては命じたものが責務を負うものだと私は思っております。皆様は、誘拐犯ではなく、被害を受け、懸命に生きようとしただけの女性を責めるべきだとおっしゃるのですか!?」
普段は必要事項以外喋らないシーモア卿の熱弁に、自然と拍手が起きた。先頭を切って手を叩いたのはレオンだった。
「私からは以上です。捜査官側が他に質問や証人がいないのであれば、魔力暴走を処罰すべきかの決を採ってもよろしいでしょうか」
進行係へシーモア卿が問うと、担当は国王へ視線を向けた。
「此度の審問会、そなたらがどのように考えるのか、とくと見させてもらうぞ」
一言付け加えられた言葉の後に決がとられた。全貴族の当主または代理が参加しているわけではないが、参加した全員が、魔力暴走事件は私に非がないと示し、咎めの一切はないものとされた。
これでどこかへ監禁しろと言えたら、貴族を辞めた方がいい。空気を読んで利を取らねばならないのだ。ここで反対すれば黒幕側だと宣言するようなものなのだから。
シーモア卿から、ここへ移動の間にとても悲観的な事を言われ続けた。
事前にメイドから馬車が盗聴されていると聞かされていたので、碌な打ち合わせもできず、下手な芝居をさせられた。少々嘘くさかったのではないかと思っていたが、今回の結果を見るに勝ちを確信していたようだ。
なんというか、おじい様を敵に回す捜査官がいたとは……余程彼は馬鹿なのだろう。
勝利の余韻に浸ってエールが飲みたいと思っていると、王族の席に近い上座側に座る一人の貴族が手を挙げた。
「陛下、お騒がせをしましたが、もう少しだけ時間を頂いてよろしいでしょうか」
手を上げ、王に言葉を発したのはレオンだった。流石公爵家だけあって、このような場でも発言することが許されるのだろう。
「……よい、申せ」
「先日、カーディナリス公爵家のロベリア令嬢より私とリラ男爵令嬢の婚約は無効だという指摘を頂きました」
「ほう……王太子よりそなたとリラ・ライラックが婚約したと聞いていたが?」
この場で名を出されたカーディナリス公爵は作り笑いを浮かべたままだがわずかに口角が引き攣った。
「父の署名がない場合、公爵家の跡取りの婚約は認められないのだそうで、改めて、婚約書を作成し、父の署名を得ております。ただ現在、リラ殿は一時準男爵の爵位も停止され、ライラック家当主も……少々問題がございます」
そういうと、私ではなくシーモア卿をレオンが見た。視線を受けた、シーモア卿が一歩前へ出る。
「国王陛下、わたくしも以前、リラ殿とは婚約関係にございました。とある準男爵からの保護のためでしたが、今では孫のように……娘のように思っております。伯爵家は甥に譲ることが決まっていますので、形式的なものではありますが、リラ・ライラックを私の養女にしたいと考えております」
「その上で、シーモア・サイプレス伯爵をリラの父として婚約の承認を頂きたいと考えております」
ちょっと待って欲しい。本当に、待って欲しい。
どこかで、レオンが婚約を再度申し込みそうだとは思っていた。だが、断ると決めていた。なのに、一度、シーモア卿の養女になれと。
「は、はは、ソレイユ家の当主殿は、本当に許可をされているのですか? 普通は、男爵家の……それもあのような状況の家の娘……妹との婚姻を」
そうだ言ってやれと言いたいが、それを言ったのは、カーディナリス公爵だった。お前が口を出すなと言いたい。
「ああ、ロベリア令嬢も、近く婚約をされるかもしれないので、手続きを調べ勉強されていると伺いました。きっと私のように公爵家にとって価値のある婚約を選ばれたのでしょうね」
そう返されて、今回は頬がしっかりと引くついている。
公爵二人がバッチバチの中、カーディナリス公爵の隣の人物が手を挙げた。
「爵位が問題であれば、我がシダーアトラス家の養女にしてからでも構いませんよ。私にとっても、リラ嬢は娘のような存在ですからな」
変な髭……もとい、特徴的な口髭の40くらいの男が言う。誰だったかと思ったが、その引っこ抜いてやりたいと思わせる髭と、シダーと言うところで思い出した。
王族へ私を売り込んだ王太子と婚約する前の元婚約者だ。
財政がマイナスなのに贅沢はしたい。使用人は雇いたくない。ならば給与を払わなくてもいい爵位の低い嫁を増やそう。そんな存在として第三夫人になるために婚約した相手だ。ついでに若い女で何やらいいことも起きるらしいと言うことで婚約をした。
「わたくし、娘になるならシーモア卿以外は考えられませんわ」
多分、娘になったら、タダで働かせられる存在として外に出さずに抱え込まれる。
つい返すと、レオンが嬉しそうな顔でこちらを見た。
「……」
これは、婚約を了承したということになるのか……。
「リラ・ライラックが微妙な立場であることは理解した」
王が王太子から何か耳打ちを受けた後、言葉を発した。
「リラ・ライラックを罪に問わぬ以上準男爵の爵位を戻し、後継人としてシーモア・サイプレスを指名する。今後、リラ・ライラックとライラック男爵家は無関係とする。後のことは当人同士で話すといい」
そう言ったのに、王族どもは立ち去らないので、貴族も立ち去れない。特に、リリアン様がこちらを興味津々で見ているのが分かる。安全のため、王妃と同じく顔を薄布で隠しているが、感情が駄々洩れである。これは教育のし直しが必要だと冷静な私が言う。王妃様のように人形のように佇めとは言わないが、王妃様は自分にも厳しいように他人にも厳しいのだ。
もう、帰りたい。ブルストとエールで乾杯したいと現実を逃避していると、貴族席からレオンが下りてくる。前回はモリンガ男爵夫人に捕まったが、今回はシーモア卿の圧で逃げられない。
レオンが前に来て、片膝をついて手を差し伸べる。公爵家の跡取りが、一介の準男爵にする姿勢ではない。
「リラ・ライラック準男爵。結婚を前提に、婚約してください」
「ぉっ……お断りしますっ」




