61 聞き耳
被告人が専用の馬車で搬送される。それにシーモア・サイプレスも同乗すると言い張った。弁護人として許可が下りたが、見方によっては都合がいい。最後の確認をする音声が聞ける。
被告人の自殺防止策として、搬送車の音声は記録することができるのだ。
『元気そうで何よりだ』
忌々しいサイプレスの声がした。
『優秀なメイドをとある方がつけてくださいましたから』
女の声は淡々としている。
本来であれば拘置所で対応を済ませたかったが、目論見は失敗に終わっている。無茶はできない状況だったため、成功すればいい程度の策ばかりだったが。
『それで、裁判の首尾はいかがですか?』
『よい状況とは言えぬ。既にソレイユ家との関係も解消されてしまったからな。援助も期待はできない』
『お話は、聞きました……』
重い空気に口角が上がってしまう。
ソレイユ公爵家は貴族の中では最上位のクラスにある家門。あれを完全に敵に回すのは流石に避けたかった。
『知り合いに議決の協力は頼んでいるが、既に冬だ。貴族の多くは自分の土地へ戻っている。楽観視はできない』
『お兄様は……なんと。ご自身の罪を認めてくだされば、釈放されるのではありませんか?』
『こちらから接触はできなかった。リラ嬢が領地の手伝いを断ったことが原因だ。怒りを収めろと言うほうが難しいだろう』
『そんな……』
悲壮な声に対して、サイプレスが呆れたような声を出した。
『こちらとしても、このような勝負が決まっている裁判は避けたかった。こうなったのは貴公にも責任はある。何か言いたいことがあるならば止めはしない。手は尽くすが……期待はしてくれるな』
『……罪人として処罰されるのですね』
『そうなるだろう』
『処罰はどうなるのですか』
『……それは、今はまだ考えずにいよう』
魔力暴走を起こした貴族は、一般的に領地内に幽閉される。令嬢には可哀そうだが、サイプレスが肩入れしていた相手がそうなるのは仕方ないことだ。
『不愉快な思いをするだろう。くれぐれも魔力を使わないように』
『……頑張ってはみます』
数日前に会った時は、勝ちを確信していたような顔をしていたが、本心はやはり負けとわかっていたらしい。
今日の審問会は、見ものになるだろう。




