51 ライラック男爵からお手紙着いた
どの婚約者の時にも、兄からの手紙は定期的に届いていた。今回も例に漏れず手紙が届いた。
アルフレッド兄様からの手紙は、そろそろ一度帰郷してはどうか。公爵家の暮らしは問題がないかという、心温まる内容だった。
それに対して、爵位の違いが大きいため、学ぶべきことが多く帰郷の余裕はない。公爵家のみんなが優しいので心配しないで欲しい旨を書いて送り返した。
次のお手紙は、婚約期間中は定期的に実家に帰るものだ。そのような一般常識も知らないように育てたと公爵家に見られては恥ずかしい。馬車を待たせるのでそれに乗って帰るようにとあった。
レオン様が、一時でも離れるのが寂しいと帰郷は正式に結婚してから一緒に行こうと言ってくれている。来年には向かえるかもしれないが、もっと遅くなるかもしれない。お体に気を付けてと、待っている馬車の業者に渡した。ちなみに牢馬車ではなく男爵家として恥ずかしくない馬車だったそうだ。クララだと誘拐されそうなのでメイド長にもっていってもらった。
三通目は、最近雨が少ない。領民たちが心配だと書かれていた。
面倒くさくなってきたので、魔法で貯水した場合の見積もり書を同封した。割引で半額にするクーポンを付けておいた。
「もうすぐ雪が積もるかもしれませんね」
四通目の手紙を持て来たレオンがどんよりした外を見て言う。
これまでの手紙は届いた分も送る分もレオンが目を通している。失礼だとは思うが、あの状況を見て心配だから確認をしたいと言われた。別に見られて困る内容ではないので見せている。兄もその可能性を考慮して丁寧な言葉を選んでいるが、貯水池の水量がだいぶ減っているのだろう。
「男爵領は、雪も積もらないんですよね。なので雪解け水もあまり期待できません」
手紙を受け取って、中を確認する。
すぐに帰らなければ、婚約破棄されても家へは受け入れない。貴族の義務を放棄して、領民を見殺しにするのかという言葉が、少し崩れた字体で書かれていた。
「堪忍袋の緒が切れたようですね」
いつの間にか隣に座っていたレオンに渡す。
「この返事は私が書いてもいいですか? 送る前にリラ殿も知っていると確認のサインを書いてもらいますが」
「それは面白そうですね。公爵家の嫌味力を見せてください」
そう言った次の日には手紙を持ってきてくれた。
まず、季節の挨拶が長く続いた。その後、私の容姿を褒め、性格を褒め、大事に扱っている旨を伝えていた。ついで、貴族の義務について書かれている。それによると、跡取りでないリラは他の貴族に嫁ぐ時点で充分に義務を果たしていて、水源の確保は当主の義務であり、それらを全て何の権利も持たない妹に追わせている時点で男爵家の当主の義務を果たしていると言えるのだろうかと書かれていた。今後も婚約破棄の予定はないので、妹君のことはご心配なくとも記載されている。
「分量の多さと言うのも、時には武器になるのですね」
つい、短い文でいかに嫌味を詰めるかを考えてしまうが、数枚に渡るお手紙は、読むだけで精神が削られそうだ。流石公爵家、こういう教育まで受けているのか。
「もう少し、照れてもらえるかと思ったのですけど」
少し不満そうにレオンが言う。
「ああ、流石に兄への嫌味のために書いていることを真に受けたりしませんから安心してください。そこまで美人でも心が優しい訳でもないのは知っています」
ある程度見れる顔ではあるのだが、愛想がないと言われる。愛想笑いや作り笑いはできるがそれだけだ。それに、性格も歪んでいる自覚がある。
「はぁー。リラ殿の顔は、ほぼ左右対称です。それに黄金配置と呼ばれるのに近い顔立ちをしていて、むしろ、人形のように整っているので、近寄りがたい雰囲気はありますが、それだけ美人だということです。それに笑った顔はとても愛らしいですし、リリアン様と過ごされている時にはよく可愛らしい顔をしていました。なによりも、リラ殿は優しいです。リラ殿がいない間、リラ殿の話を聞きました。使用人のクララにも親切で、とても慕われていました。他にもあなたが思っている以上に、私はあなたのことを素敵な女性だと評価しています。ひと時も離れたくないのも嘘ではありません。本当は、あなたがどれだけ優秀かも書きたかったのですが、そのような利用価値まであると知らせたくはなかったので書きませんでした」
体の向きを変えて、諭すように言葉を紡がれる。
「……レオン様は、詐欺師ではありませんよね」
「嘘つきに見えますか?」
こげ茶の瞳が少し拗ねたように細まる。
「……私も、お礼に褒めないといけませんか」
「それは、いい案ですね。ぜひ」
冗談というか、嫌味のつもりだったが、ぱっと明るい表情で返された。
「………レオン様は、顔がいいとは思います」
「リラ殿の好みですか」
「嫌いではないですが、正直人の顔の区別をつけるのが苦手なので、区別がつく顔ではあります」
「他には?」
「……仕事はちゃんと学ばれているようで、しっかり領地管理ができていて偉いと思います」
仕事ができないで、偉そうなだけの貴族もいる。この点は素直に評価したい。当たり前だが、当たり前のことを当たり前にできるのは大事だ。
「ただ、女性の趣味はちょっと変だと思っています」
ストーカーまがいの令嬢がいるということで、女性嫌いになってしまったのかもしれない。二人の母親が恋人というのも、仲が悪いよりはいいが、趣味に影響を与えているだろう。
「ふっ」
と、レオンが表情を綻ばせた。
「俺が、君を好きだと自覚をしてくれているみたいでよかったよ」
「……」
そういわれて、微妙な気持ちになる。
私と婚約した人には幸運が訪れる。だが、私には同じだけのものは期待できない。また、新しい婚約者ができるだけだった。
「私が好きになるかは別の問題です」
「ああ。もちろんです」
満足そうな顔をされて、どう返せばいいのかが分からない。こういう時、とても面倒くさいと思ってしまう。
この少し下にある☆☆☆☆☆をぽちっと押してもらえると大変喜びます。
もちろん数は面白かった度合いで問題ありません!
ついでにイイねボタンやブックマークをしてもらえると、さらに喜びます。




