50 毒の捜査報告
シーモア卿から、レオンと一緒に来るようにと言われたのでやってきた。
「リラ嬢の食事に薬を盛ったメイドは以前から情報を流していたようです。情報を受け取り、薬を渡したとされる男は身元不明で遺体として発見されていました」
シーモア卿がレオンに報告をする。
「おじい様、また捜査官の真似事を? お歳なのですから危ないことはやめてください」
人払いをしているので、お茶を淹れて二人の前に置く。
「レオン様も、あまり無理を言わないでください」
捜査機関にいたのは昔のことだ。国の後ろ盾がある状態と、今では話が違う。
「案じずとも、一人で調べているわけではない。どこかの誰かが聖なる方と仲がいいからか、王命を受けている」
リリアン様か……。
「そもそも、馬鹿な娘が行方をくらましたことがありましてな。その一環で色々と頼まれることに」
私のせいか……。
「その男以外からも調べを進めたいところ。単にリラ嬢を恨んでであれば、公爵邸のメイドを使うのは可笑しな話。ならばレオン様がリラ嬢と婚約することで不利益を得るものの仕業と考えるのが最も理に適っています。お心当たりは?」
単にメイドがただの準男爵が婚約者になるのが気に食わなくて、そういう可能性もあるだろうが、シーモア卿の考えは違うようだ。
「ロエム伯爵家へは捜査が入りましたが、毒の件は出ませんでした。残っていた婚約者候補の中ではカーディナリス公爵家は怪しいかもしれません」
「もう一つはそうでもないのですか?」
三つ、最終候補に挙がっていたと聞いた。
「……そうですね。互いに乗り気ではなかったので、その侯爵家とは両親同士の仲が良いので、その関係を崩してまで凶行に及ぶとは思えません」
「カーディナリス公爵家が怪しいとお考えの理由は?」
対面で座る二人とは別の、一人がけの椅子に腰かける。今日はお土産に焼いてきたスコーンを持ってきた。多めに持ってきたので自分でも食べる。シーモア卿のためにかなり甘さ控えめなのでジャムとクロテットチーズがたっぷりと必要だ。
「……あちらのご令嬢は、奇妙なほどに私の好みを知っていたり、夜会に出た時にまるで合わせたかのような衣装を着てきたこともありました。全て偶然や噂話で聞いたと言われればそれまでのことでしたが……内部に間者がいたのならば頷けますので」
「それは……ご愁傷さまですな」
シーモア卿が同情している。
気に入られるためや商売の関係で、情報を得ようとすることは普通だ。スパイまでは行かずとも、使用人や元使用人に小遣いを渡して情報を買うこともよくある。無論、ばれれば情報を売ったものは一発で首が飛ぶこともある。逆に、偽情報を流すために当たり障りのない事実を交えて売らせることもある。
貴族の世界では、ばれなければいいことだ。ただ、個人的な趣味を勝手に知られるのは気持ちのいいものではないし、好感度は逆に下がるだろう。
だが、実際に手を出したとなれば、よくあることでは済ませられるものではない。それも公爵家相手だ。
メイドの嫌がらせにしては度が過ぎていたが、同じ公爵家が裏にいるならばかなりの大ごとだ。
「証拠は難しいでしょうから、次がないようにしていただければ私は大ごとにせずともいいのですか」
やっかまれるのはわかっていたことだ。
「母上が、随分と気に病んでいます。再発防止はもちろんですが、重く受け取っていると示すためには正式な捜査をしてもらうことになりました」
「公爵家の恥を晒すことになるのでは?」
婚約者に毒を盛られたなど、外聞の悪い話だ。
「情報の流し方次第ですからご安心を」
跡取りだからそういうことも教育されているのだろう。今更だが、あまり敵に回したくない相手だ。
「リラ嬢、その後公爵家で毒など何か問題は?」
問いかけられて、一考する。
「毎食調べているわけではないです。魔力の無駄ですし。最初に絞めたのでメイド達も下手な事はもうしてこなかったですね。もう少し色々あるかと期待していたのですが……」
嫁いびりと言うのは、貴族の屋敷ともなると姑からだけではない。特に私は男爵家出身の娘なので、メイドの方が生まれがいいと言うことも多くある。そうなると、冬場に風呂の湯を水にされたり、着替えを洗濯に出されたり、食事を目の前で落とされたりと、色々やらかしてくる。
クララには目の前で料理を落とされたことはあるが、クララも食べる予定のおやつだった。失態と悲しみで泣いていたので、あれはいびりにカウントできないだろう。
「色々があれば、遠慮せずに報告してください」
二人して何か哀れなものを見るようにこちらを見ていた。あれは、やっている側の心理を考えると中々に面白いと思っていることは、口に出さないでおく。
「また毒を仕込まれる可能性がある。可能な限りは調べるようにしなさい」
「……最近、簡易の方法を考えているので、訓練がてらにやってみます」
面倒くさいとは思ったが、何かあってからでは遅いのもわかる。
「本来でしたら、こちらが調べられる者を付けるべきなのですが、今は父の方に同行していまして」
「そのような方も雇っているんですね」
前の公爵家は、そんな人はいなかったが、普通の公爵家となれば、そんなに事にまで気を付けるのか。
「正式なものではないですが、自分でもできますからお気遣いなく」
「普通の令嬢はそのような微細な魔力操作はできないものだ。あまり他所ではひけらかさないように」
シーモア卿が眉根を寄せる。
「最近は、魔法を使えないエセ貴族も増えている中、ここまで扱えるものは少ないだろう」
「魔法が使えないような貴族が?」
シーモア卿の言葉にレオンが首を傾げた。
「……流石に、公爵家はみなさん使えますかな」
「父はもちろん、母ももちろん使えます。使用方法は親から習うものでしょう」
「私の父はほぼ魔法が使えませんでした。最近の魔法を隠し、人前で使うことは品がないと呼ばれる理由は簡単です。跡取りが魔法を使えなくとも後を継がせるためです」
貴族は魔法を使えるものだ。そうでなければ平民になるか跡取りのサポートに回る。
「リラ嬢……書類整理が立て込んでいると聞いている。もう少し話があるからその間に頼めるだろうか」
シーモア卿から頼まれる。二人で話があるから私もここから出したいと言うことだろう。
王宮から捜査を任されているならば私に聞かせられないこともある。
「わかりました」
スコーンの残りを口に放り込んで立ち上がる。




