47 第一夫人のリラの印象
リラ・ライラックについて、執事から報告があった。
第一夫人である私のところにそれらが準備されているのは当たり前のことだ。
屋敷内で、使用人に対してどのような態度をとっているか。これで大体の人となりがわかる。公爵家にきた客人は、メイドたちから細かく評価される。その評価の仕方でメイドたちも評価される。
リラは、魔力の使い過ぎで気を失った状態で家に運ばれ、最初の食事で問題が起きていた。それ以外で、リラがメイドたちに横柄な態度をとったことはない。基本的には男爵家から連れてきたメイドの少女に身の回りの世話を任せている。
公爵家にそんなメイドがいたことは恥ずべきことだ。そして家の管理ができていなかった私の責任でもある。
「……リラさんが、ご自分で料理をされるのは、やはり初日のことが関係しているのですか」
いつも口調がきついと陰口を叩かれているので、できるだけ優しく問おうと頑張ってみる。
「いえ、料理を作るのは好きなので厨房をお借りしています。料理人のような腕はありませんが」
レオンから、リラが作る料理は素朴な味がして美味しいとのろけられている。けれど、自分で厨房に立たなければならなくなった原因を作ったのは公爵家のメイドだ。
「そうですか。ならばいいのです。料理がお好きなら、専用の厨房を作らせましょう。使用人の監督ができていなかったわたくしの責任ですから、お詫びと思っていただければ結構よ」
「お気持ちはとてもありがたいです。もし、本当にレオン様と結婚することとなりましたら、お願いいたします。それまではこちらで花嫁修業として身を寄せる身ですので」
既に嫁に来たようなものでこの婚約期間はただの慣習だと言いたかったが、その前にラナンが口を開きます。
「では、結婚祝いに素敵な厨房を私たちからプレゼントさせてもらうわね」
「ありがとうございます」
リラが素直に礼を言う。婚約期間中に無理に押し付けないことが正解だったようだ。
少しして、冷やされたクッキーがオーブンに入れられる。
使用人用の厨房だけれど、ケチらずに改装をしておいてよかった。
「他に何か困ったことはないかしら? レオンはあまり女心がわからないでしょうから、困ったことがあれば気にせず教えて欲しいの」
「ご配慮頂き感謝いたします。レオン様には気を使っていただいていますので、困ったことはなにもございません」
ラナンの言葉にリラが丁寧に返す。
「でも、宝石商をまだ呼んでもいないと聞いているわ」
「宝石の類は、あまり詳しくありませんし、私には不要ですのでお断りをしています」
「公爵家に嫁ぐ女性が、宝石を身に着けていないとなれば、わたくしたちの品位が問われてしまいます。後日宝石商を呼びますから、ドレスに合わせていくつか頼みましょう」
「……その時は、色々と勉強させていただきます」
受け答えも、男爵家が出身の割にしっかりしている。これならば、男爵令嬢であったとしても、立派な公爵夫人に成れるだろう。どの家門出身でも、結婚して、跡取りさえ産めば盤石になれる。
ラナンも、リラのことは評価していた。家を空けていた間、レオンがリラに任せた仕事は慣れないはずなのにしっかりとしていた。これならば、将来安心だ。
しばらくして、クッキーが焼けた。とてもいい匂いがする。
火傷をしてはいけないからと、少し冷ましてから頂く。
「まあっ、とても香りが高くておいしいわ」
口の中にバターの風味が広がる。わずかにシトロンの香りが抜けて、甘いのにとても爽やかだ。
つい漏れた感想を聞いて、リラの顔が綻んだ。
レオンはきっと彼女のこういう表情に恋してしまったのだろう。
あの人に似て、これと決めたら譲らない子だから。




