46 公爵夫人たちとのお菓子作り
「お暇そうね」
扇子で口元を隠した第一夫人に問いかけられた。
「……今は、お菓子を作っております」
暇か暇でないかと言われれば、手は空いていないがそんなことをしている時間があるのならば暇だろうと言われれば暇だ。
「何のお菓子かしら」
レオンから、ふたりの取り扱いについて教えられた。
第一夫人がつんとしていても、別に怒っている訳でも馬鹿にしている訳でもないとのことだ。
「今日はクッキーとバターケーキを作っております」
「そう。ところで、どうして使用人用の厨房を使っているのかしら」
「料理を作るのが趣味ですので、定期的にお借りしています」
「こちらでなくても本厨房を使えばいいのではないかしら」
「あちらは、夕食の準備で忙しいですので、邪魔をするわけにはいきませんから」
大きい方の厨房を使っていない理由を問われたらしい。
「執務の休憩ついでに、少し見学してもよろしいかしら」
第二夫人がにこにことした顔で問う。
レオンからは、何か企んだり、私の排斥を行うとしたらこちらだと言っていた。レオンの生みの親の前で、絶対に第一夫人を馬鹿にしたり蔑ろにだけはしないようにとのことだ。
公爵夫人を蔑ろにするほど馬鹿ではない。
「もちろん構いませんわ。もしよろしければ、型抜きをされませんか?」
クッキー生地はできて今は冷やしている。見てるだけは暇だろう。
「………そこまでおっしゃるなら」
ちょっと、この人が第一夫人で大丈夫だろうかと心配だ。
「伸ばしますので少しだけお待ちください」
保冷庫から生地を取り出して一定の厚さに伸ばす。本当は適当に丸めればいいかと思っていたが、ご婦人方の暇つぶしにはいいだろう。
その間にメイドが新しいエプロンを出して、二人に着せていた。ちなみに私はキュロットズボンの作業用の服だ。それでもモリンガ男爵夫人が品のある感じに作ってくれている。
簡単に説明をして後は一歩引いて二人で作業させておく。二人のお付きのメイドが世話を焼くので問題ない。その間にバターケーキの様子を見ることにした。
正確には生クリームケーキだ。バターと牛乳の代わりに生クリームを使うだけでできるから技術が要らない。今日は適当にブランデーも混ぜた。焼き上がったらさらにブランデーを染み込ませる予定だ。世のブランデーケーキは酒気が少なすぎる。
貴族令嬢でも料理をする人はいる。貧乏貴族は特にそうだ。だがお金に困ったことのない貴族なら厨房に入ることなく一生を終えることも少なくない。
二人には目新しい事のようで、黙々と作業をしていた。意外にも第一夫人の方が器用だと結果を見れば一目でわかる。
恋人関係とはわかないが、少なくとも、仲がいいのはわかる。
「できましたわ」
二つのトレーにそれぞれの作品が並んでいる。
「では、一度冷やします」
私がせずとも、メイドがそれを保冷庫へ入れた。
「すぐに焼くわけではないんですのね」
「一度冷やしてから焼くとクッキーの角がしっかりとでるのです。そのまま焼くこともできますが、あまりきれいな形にはならないので」
自分で食べるだけなら、そのまま焼くが、最近はレオンが食べに来るので少しだけ見栄えも考えている。クッキーに関しては、メイドがハート型を絶対に用意しているので、片貫せずに作ることも多い。
侍女がさっとお茶の準備をして、木の作業机の上に真っ白なテーブルクロスをかけた。木椅子には、クッションが置かれる。
できるまで待つつもりなのは理解した。
この少し下にある☆☆☆☆☆をぽちっと押してもらえると大変喜びます。
もちろん数は面白かった度合いで問題ありません!
ついでにイイねボタンやブックマークをしてもらえると、さらに喜びます。
あなたの応援が作品の未来を変えます!




