44 レオンの母達
「どっっ、どうしましょう。どうしましょう! レオンさんがとっても大切にしているのがよくわかりましたわ!」
興奮してしまったビオラを長椅子に腰掛けさせる。
「ああっ、女の子に興味がないから男の子が好きなのかしら、それはそれでおいしいけれど、孫は見たいという葛藤があったというのに。王太子の婚約者を愛してしまって、心を殺して過ごしていたのに、ご令嬢が失意に落ちてしまったのを見て、耐えられなくなるなんてっ、乙女小説、乙女小説としての出版はいつになるのかしらっ!」
早口で、私から見れば可愛らしく、一般評価は怖い笑みを浮かべている。
「わたくしも、息子の結婚にとやかくは言いたくなかったのですけど、レオンの言うように、最悪公爵様にはもう一人どこかで作ってきてもらわなければいけないと考えていましたから、健康そうな令嬢が輿入れしてくれて安心しました」
最悪の場合に備えて、レオンに弟を作ってレオンの養子にすることも検討していた。
「ええ、ミモザちゃんも可愛かったけど、遠くに行ってしまって寂しかったもの。あんな奇麗なお嬢さんがうちに来てくれてうれしいわっ」
にやにやを隠すために、扇子で口元を隠していたが、目元が笑っていた。興奮しすぎていると判断して、レオンは早々に下がる方向にもっていってくれてよかった。
「でも、男爵家が王太子と婚約……噂は聞いていましたけど、男爵家にしては随分所作がこなれていましたわね。何か理由があるのでしょうけど……」
多少のことは公爵家の力で黙らせることはできるけれど、何か問題があるのならば対処するためにも知っておきたい。
「レオンがあの子を好いているならそれで十分ですわよ! ああっ、どうしましょう。赤ちゃんの服を見に行きたいわっ。レオンもミモザちゃんも赤ちゃんの時から可愛らしかったものっ。ああ、でもその前に、歓迎しているとわかるように婚約者のお嬢さんに贈り物をすることから始めたほうがいいかしらっ」
隣に座って頭を抱え込むように抱きしめる。
「ビオラ、だめよ。少し落ち着きなさい。あなたは興奮すると魔力が漏れやすいのですから。それに体の負担になってしまうでしょう」
「仕方がありませんわ。あの三人から選ぶのかとうんざりしているのを見ていましたから、あの子自身が誰かを選べたことがうれしいのです」
レオンの婚約者候補は公爵家の長女と、侯爵の次女、それに伯爵家の娘がいた。家格や政治的な配慮から選ばれたものたちだ。
私たちの育て方が悪かったのでしょう。貴族然としたお嬢さんたちをレオンはどれも気に入っていない様子だった。若くきれいな令嬢を選んであげていたつもりだったけれど、親の悪いところを継いでしまったようだ。きれい程度ではなく、ずば抜けた別嬪でなければならなかったようだ。
「婚約中の妊娠はあまり外聞がいいものではありませんから、子供について今後は口にしないようにしましょう。レオンが三十になっても跡取りができなければ、本格的に考えればいいですし、プレッシャーもあまりよくありませんわ」
「そうですわね。今は二人の仲を育む時期。うふふ。あのレオンが、小説のような恋をして結ばれるなんてっ」
ぎゅーっと抱き着き返して、なんとも幸せそうだ。
少し誤解されやすくて暴走しがちなビオラのためにも、私がしっかりとレオンの婚約者を見極めなければ。
ビオラや公爵家にとって害があるのなら、悪役になってでも排除する。息子には悪いが、それは公爵様との総意でもある。爵位が低くとも、その逆境に耐え、且つビオラを害するようなものでない。それがこの家に入る女の最低条件だ。
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