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41 レオンとのお茶会②


「あ、デリケートな話ですが、最近まで跡取りではなかったとかですか」


 名前からして、第三夫人の子や三男坊くらいだと思っていたくらいだ、兄がいたのかもしれないと聞く。


「……私に興味を持ってくれるのは嬉しいですが、ちょっと両親が変人気質なだけで、比較的普通の家ですよ。産まれた時から長男で、妹がいますが外国に嫁いだので滅多に里帰りもしません」


「妹さんについては気になるので、また伺いたいですが……。それなら尚更、どうしてこれまで結婚できなかったんでしょう。公爵家となれば嫁ぎたい令嬢は掃いて捨てるほどいるでしょう」


 候補はいたと聞いたが、候補以外にも色々といただろう。それこそ男爵家出身でもいいならば選り取り見取りだったはずだ。


「いましたし、見合いのような形をとったこともありますが、どの令嬢も……微妙で」


「例の……何とか伯爵家の令嬢も婚約者候補だったと言っていましたよね」


 レオンの運命の相手だと思った令嬢は、実際婚約者候補の一人ではあったらしい。ただ、私と婚約したのでそれらは自動的になかったことになっていたそうだ。


 令嬢の名前は聞いたのだが、忘れた。


「選択肢がなければ、候補として残っていた三人の誰かと婚約し、結婚したと思います。ただ………マリウス殿下の婚約者として王宮に入ったリラ殿を見た時に、なぜ彼女が私の婚約者でないのかと、頭をよぎったのです。あなたに会う前は、貴族の義務として、結婚することも跡取りを作ることも仕方ないと考えていました。婚約破棄となった日を逃せば、私も別の女性との婚約の話を進める必要があったので、リラ殿に話を通す前に飛びついてしまったのです」


「……そんなこと考えていたんですか」


 リリアン様が、前々から怪しいと思っていましたと言っていた。聖女様が発見されて、ある程度人前に出せるようになる間、私とマリウス王太子は言わば婚約破棄は決定しているが、リリアン様待ちの状況だった。その間、マリウス王太子の近くに控えていたらしいレオンは私のことをめっちゃ見ていたとリリアン様は言っていた。


 私は、特技の顔と名前を覚えないが発動されて、覚えていなかったのに。この場合、リリアン様が周囲を観察できて偉いのか、私がだめなのか。いや、リリアン様の立場上、公爵家の顔は覚えていて当たり前か。


「申し訳ないことをしましたが、時間を戻しても同じことをすると思います。そうでなければ、他の男があなたの婚約者に定められていたでしょうから」


 じっと見てくる相手が誰か、今は名前も顔も覚えている相手になった。


「まあ、下手に金持ちの準男爵に売られるよりはよかったと思います」


 わずかに、レオンの眉が動いた。


「……ああ、私の過去のこと、流石に調べましたか」


 調べたのに、婚約破棄をしないとは、変わった人だと思う。目的が純粋に結婚するための婚約ならば、なおのことだ。


「あなたが、何度となく婚約を強要されてきたことと、全員ではありませんが、八人目からシダーアトラス家までは、ある程度の事情を知っています」


 おそらく、八人目が金はあるが品のない相手だったので、思い出して思わず眉を顰めたのだろう。


「シーモア卿と、シーモア卿の紹介先は別に強制ではなかったですので悪しからず」


 他にも何件かはいい家もあった。


「まあ、公爵家が嫁になるかもしれない相手を調査しないわけがないので別に怒ったりはしていません」


「では、あなたを監禁した準男爵を陥れても余計なことだと言いませんか」


「二人目も準男爵でしたが、そちらは比較的いい家でしたから、何かされるのは困りますが、もう一人の方は別に。本当であればシーモア卿が逮捕したかったのでしょうが、そうなると私が証言台に立つことになるので、避けるために逮捕できなかったと記憶しています」


「リラの関係で、逮捕できなかったのですか?」


「物的証拠があるにはあったのですが、最終的に私の証言で有罪になるかの瀬戸際だったようで。そうなると、相手は私を殺してでも無罪になろうとするでしょうが、無論、私の殺害に関与した証拠が出れば、それで捕まえることもできたかもしれませんが」


 色々あって身の安全のために伯爵位を持つシーモア卿と婚約した。


 逮捕をあきらめた理由が私の身の安全だったと知ったのは後のことだったが、直接聞いたわけではない。他にも理由はあったろうが、強行しなかったのは私のためだろう。


「今はごりごりの権力者である公爵家の庇護下ですし、どうせ新たな犯罪に手を染めているでしょうから気兼ねなく刑に処してください」


 金がなくて残飯のような家はあったが、金があるのに残飯を出したのはあの家だけだ。


 なんか、肥満だったくらいしか覚えていないが、その恨みは忘れない。


「……その、監禁以外、手荒な事をされたりは」


 聞きづらそうに問われる。


「殴られたことはありました」


「……それ以外は」


 虐待を受けている子供を見つけてしまったような顔で見られている。何度も色々聞かれるのも面倒なので、これまでの婚約者の屑行為を思い出す。


「その商人に特化したことではないですが、貧乏でごはんがまともになかったり、タダ働きをさせられたりもありました。ああ、酷い事といえば、子供がいない子爵家へ跡継ぎを産むための第三夫人として婚約したことがあるのですが、正妻が本当に子を産む能力があるのか先に確認してやると間男? をけしかけられたことがありました」


 今となっては笑い話なのだが、あまりにもつらそうな表情を返された。


「ああ、安心してください。男の急所を潰して逃げました。十二回も婚約しておきながら、いまだに生娘ですから、病気の心配はありませんよ。まあ、経験がないので妊娠できるかも証明はできませんが」


 貴族社会において、子供は義務だ。もしこのまま結婚にでもなったら重要な事なので知らせておく。ただ、とんだあばずれだと噂はされることになるだろう。それを嘘と証明することは中々に難しい。


「……あれに手を付けられていないと聞いて、喜べばいいのか。あなたの強さに感心すればいいのか」


「以前、炎の魔法は危険だと言っていましたが、水魔法も使い方が上手ければ、人を殺すことができる魔法です」


 空中に、水球を作り上げる。




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