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40 レオンとのお茶会①


 公爵家に戻って次の日からまた仕事を手伝うようになった。シーモア卿の手伝いも構わないと許可が出て、送り迎えを条件に一人でも行けるようになった。リリアン様のところへも定期的に通っている。


 モリンガ男爵夫人からは、レオンが来ることを黙っていたお詫びにいくつもの新作が贈られた。詫びというよりはこれを着て王宮に行って宣伝をしろということだろう。王宮に着ていけるよう奇抜さを押さえたものもあった。


 そんな感じで、平和な日々が過ぎ去っている。


 いつの間にか婚約してから半年ほどが経ってしまった。


 公爵家のどこかで新しい金脈が見つかることも、レオンに新しい恋人ができてもいない。


「………おかしい」


「お菓子をお持ちしますか?」


 朝食後、お茶を飲みながらつい漏れた独り言にクララが反応した。


「お菓子は今はいらないわ」


 お菓子の話ではない。


 大体半年も経てば何らかの予兆なり、吉報が届くはずだ。


 その後、色々とあって正式な婚約破棄まで日を要するものだ。だが、平和であるものの、逆に言えば何の問題もいい事も起きていない。


 王太子から、もしかしたら私が祝福持ちの可能性があるから色々と確認をすると言われている。王太子とリリアン様をくっつけたのが私の祝福ではないかと真剣に悩む二人は可愛らしかった。


 私も、祝福か呪いかはわからないが、流石に十件を超えれば偶然ではないと思うようになっている。


 大金をライラック家に払ってでも、あやかりたいものが出るくらいだ。


 だから、そろそろ何かなければ、公爵家にいるのが申し訳なくって来ている。


 何のいいことも起きていないが、レオンの態度は変わらない。あえて言うなら以前より会う頻度が増えたくらいだ。それに対して面倒くっさいと女子としてはダメな心の声が漏れそうになる時もある。


 ただ少しばかり煩わしいとは思っても、苦痛ではない。


 今日も、お昼過ぎのお茶は同席の予定だ。幸い四六時中一緒というわけではない。なんだかんだとレオンは仕事や鍛錬などで忙しくしている。そんな中、私のところに来れるのは、私が仕事の一部を代行できてしまっているからだ。かといって、仕事もせずにただ飯を喰らうと言うのは性に合わない。


 クララが昼食後髪を整えて、レオンの執務室近くにある休憩室へ向かう。婚約者として相手の家に入る場合、両親の方針で婚姻するまで一切合わせない場合もある。そこまで極端でなくとも三月ほどはメイドなどが厳しく目を光らせ、隔離されつつ嫁教育をする家は比較的多い。三カ月というのは婚約者に先に種が仕込まれていないと確信するためだ。あまりにも下世話な話ではあるが、本当にカッコウ鳥のようなことをした家があったらしい。


 無論、誰かの目のある場で、婚約者との時間を取らせ、相性がいいかを確認する家門もある。ソレイユ家がその方針であると言うならば、従おう。


 休憩室の机は食事で使うのよりも小さな机が用意されている。お茶や茶菓子が置かれる程度なのでそれほど幅は必要ないのだろうが自然と近くに座ることになる。


 基本的には私が先について待つことになっている。席について、今日はどの話題かと少し考える。流石に、聞くべき話題がある。そろそろ避けていられないだろう。


 入ってきたレオンは、小さな木箱を持っていた。上級貴族は何も手に持たず、侍従に持たせたりするが、レオンは案外平気でこういうことをする。だから、跡取りではないと思ってしまうのだ。


 お茶が用意され、待つ間に仕事の報告を簡単にしておく。他愛ない会話をした後、テーブルに置かれた箱をレオンが開いた。


 横に番号が振られた小さな輪が並んでいた。


「今度、揃いの婚約指輪を頼もうと思うんですが……」


「半年も経って、ソレイユ公爵にお会いしたことがないのですが、どこかに監禁しているとかではないですよね」


 都合の悪い話が出たので、話題を変える。半年の間、レオンの両親とは会っていない。流石になぜか聞く必要があると思っていたのだ。


 もしかしたら、両親には内密に独断で婚約している可能性もある。


「ああ、知りませんでしたか。父と母達は、放蕩癖があるんですよ。おかげで領地管理を成人前からしていました。リラ殿が手伝ってくれて王宮の仕事に前より時間をとれるので助かっています」


 今日も金の髪が目に悪いほど輝いている。


「放蕩……よくそれで没落せずに済んでますね」


 同じ公爵家でも没落した公爵家を目の当たりにしたことがある。使用人は他に行き場がない高齢者ばかりで、老人施設のようになっていた。その中でも忠誠を誓っていると言っていた中年の執事は公爵家の金を使い込み、裏でがっぽり稼いでいた。


 使用人を信頼するなとは言わないが、人間誰しも楽して儲けたいのだ。雇用主として、楽ができないシステムを作る必要がある。その一つに、当主の目は有効だ。


「はは……俺が、こんな年まで婚約者の一人もいなかった理由のひとつですね。問題が出ないように必死にやっていましたから」


 最近、レオンはたまに俺と言う。どうもこちらの方が素のようだ。


 まあ、仕事量を考えるに、遊びに興じる時間はあまりなかったのは事実だろう。それでも社交も仕事の一環だから出会いがなかったとも思えない。


「女性の趣味が可笑しいからだと思っていました。これまでずっといなかったのに、私との婚約は一瞬で決められて、余程切羽詰まっていたのですね」


 女性は二十歳超えたら行き遅れ、二十五超えたら何か瑕疵があると噂され、三十超えたらいっそ尊敬される。


 対して男性は二十五までに結婚することが多く。跡取りでなければ三十を過ぎても結婚できないこともよくある。


 貴族の当主は一夫多妻が許されている。最近は魔法が使える人口の減少があるため、本妻の子が魔力持ちでなかった場合、お家存続の危機なので、離婚せずに合法的に子を作れるようになっている。ここについては色々とどす黒いドラマがあるが、男女の出生率はほぼ同じなので、結果として男が余るのだ。


 だが、レオンが公爵家の跡取りだと言うならば、とっくに結婚して子供の一人や五人いてもおかしくない。



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