39 聖女様と王太子の祝福
「リラ。私とマリウス殿下に、祝福をかけてはいませんか?」
リリアン様とのお茶会に、今日はマリウス様も同席している。そんな中、リリアン様が切り出した。
「……祝福ですか?」
首を傾げる。
「リラと婚約すれば、婚約者は幸運を得る。そんな触れ込みで婚約をした。実際、こうしてリリアンが見つかり、そして思い合う関係にまでなれた。私たちの関係に、リラの祝福が影響している可能性はないだろうか」
マリウス様が問いかける。
今日は侍女が一人室内にいるだけで、他は人払いがされていた理由が分かった。ちなみにいつもマリウスの後ろにいるレオンも今日はいない。
「これまでの婚約者の何人かは、素敵な女性と恋に落ちましたが、元々相性がいい二人が出会っただけです。そもそも、お二人の関係に何らかの祝福が関係しているとしたら、それは私ではなく王族の血ではないかと」
二人が見つめ合うそれと、あの時のレオンの表情がダブって見えた。だから、私はあれが恋に落ちたものだと判断したのだ。誰かと強制的に番わせることができるかと言われれば、無理だと答えるほかない。
「私の血だと?」
なんとも心外だという顔をされた。
「なぜか、王族だけが聖女と結婚できる。ただ聖女を抱え込むための逸話かとも思っていましたが、むしろ王族は聖女のために存在する血族で、何らかの祝福が継承されていると考えると合点がいきます」
王太子の婚約者と言っても、実際に王妃になることはないと決まっていたので、王妃教育も大したことはなく、時間を持て余して王宮の書庫に入らせてもらっていた。
自分が婚約するたびに相手に利益があるという状況は多少不可解に思っていたのでそういう事例がないか書庫で調べていたのだ。
「だが、聖女は血によって継がれないものだろう」
「聖女様については謎が多くてわかりませんが、過去の聖女様は王族の誰かが結婚することがほとんどでした。独り身を貫いた聖女様は片手で足りるはず。聖女様と王族に何らかの結びつき……それこそ王族に聖女を娶れる祝福でもあるのでは?」
他国の王族は幼いころから婚約者を定め、長く王妃教育を施し、政治的な関係で外国の姫を輿入れさせる。だが、ブルームバレー王国の王子は中々婚約者を決められない。
過去、聖女様が未婚を貫いた例は、噂では意中の王族が既に結婚し子もいたため身を引いたとされている。
聖女が望めば離婚は容易いが、聖女様は大抵お美しく心根まで優しいのでそんなことを求めないのだそうだ。
聖女の子はただの王族でしかない。聖女が聖女を産んだ例はないのだ。だが、王族以外と番えば聖女の能力は消えてしまい、新しい聖女が産まれるのを待たなければならない。今回のようにすぐに見つからない可能性を考えれば、王族から伴侶を探してもらう必要があるのだ。
「……」
二人が何とも言えない顔で見つめ合っている。まだ少年少女である若い二人だ。人目のある場でしか会えない不健全なくらい健全な関係を強いられているが、仲がいいのも事実。
「聖女様の無事の発見が私の祝福によるものかはわかりません。ですが、お二人が私の前でいちゃつくのをわたくしのせいにされるのは心外です」
指摘されて見つめ合っていた顔を二人して逸らした。
リリアン様が王宮に連れられてきたとき、申し訳ないと思った。だが、支えてくれる相手がいて本当によかったと思っている。
「私……リラに申し訳ないと思ってしまっていたのですよ」
少し意地の悪い物言いをした仕返しに、リリアン様が可愛らしく怒っている。
「リラには絶対に幸せになっていただかないと、わたくしは許しませんからっ」
「リリアン様とお友達になれただけでも十分に幸せですわよ」
そう返すとぷーっと頬を膨らましている。王妃様が見たらため息をつきそうだが、とても可愛いと思う。リリアン様の横で王太子がうっと可愛い攻撃のとばっちりを受けている。
リリアン様には申し訳ないが、私が望む平穏はリリアン様が考える幸せとは違うだろう。
今回、レオンとの婚約は継続となったが、それも時間の問題だ。それまでに一人で生活できるだけの貯えを作れればと思っている。それで一人静かに暮らせれば、私は十分に幸せだろう。
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