36 婚約発表
少しトラブルはあったが、何とか予定通りに終われそうだ。
最後はデザイナーであるモリンガ男爵夫人と歩くことになっている。ピンヒールなので、一番歩きにくいが、披露目用に作られたひときは深いスリットが入っているドレスで、開きも大きいために足先までがしっかり出る。より脚を美しく見せるためにこの靴が必要なのはわかっているので歩きにくくとも受け入れよう。
「リラ様には、本当に感謝しております」
今歩いているモデルが帰ってきたら、入れ違いに出て、その後ろを全てのモデルがついてくることになっていた。
「わたしく、リラ様にも幸せになっていただきたいのですよ」
まっすぐに前を見たままそういうと、丁度モデルが戻ってくる。モリンガ男爵夫人が一歩進むのに合わせて前へ出る。背が高いので、私がエスコートするような形で腕を組んでいた。
進む間、司会がモリンガ男爵夫人ついて簡単な説明をする。
女性客ばかりの中、まっすぐに作られた道の先に、さっきまでいなかった男性が立っていた。反射的に逃げたいと思ったが、モリンガ男爵夫人が腕を掴んでいることに気づいた。これはエスコートではなく、捕獲だ。
そう思っている間に、止まることもできず、道の端まで誘導される。
司会が、待ちきれないとばかりにそのまま向かってくる男について説明を始める。
今回の披露目会は全面的にソレイユ公爵家の協力があったこと。そして、ソレイユ家の子息、レオン・ソレイユの婚約者がデザイン協力をしたと言い出した。
近づいたレオンが、腰に手を回す。それに代わって、男爵夫人が腕を放して一歩後ろへ離れた。
「今日はモリガン男爵夫人と私の婚約者であるリラ・ライラックが作り上げた新しい時代の服の披露目会に参加していただき感謝いたします。今日のドレスは少々刺激が強いものもありましたが、各ご令嬢に見合うように変更を加えることができるそうですのでご安心ください」
ユーモアを交えて話しているが、何人かの令嬢はぽかんとしていた。
私もぽかんとする側に入りたい。
「このような機会を与えてくださったレオン様、ご婚約者のリラ様に感謝いたします。今回お見せしたドレスの制作はもちろん、伝統的なドレスを始め各種取り扱いがございます。また、馴染みの店に頼みたい場合は、デザインの提供も可能ですので、一度ご相談くださいませ」
モリンガ男爵夫人が商売トークをしている間もいまいち頭が回らない。
これは、どういう状況だ。
運命の出会いがあったのだから、私と婚約を継続する利点はない。ソレイユ公爵家の財政は健全で、立て直しの必要もなかった。ならば、私を婚約者だと大々的に言う理由は何か。相手の令嬢はただ悠々自適に暮らし、私に公爵夫人の仕事をさせたいのか。
それに、いつから企んでいたのだ男爵夫人! と内心で叫ぶ。
あれだけ手伝ったというのに。いや、それだけの報酬も世話にもなったが。
披露目の間、顔を覆うレースを取られなくてよかった。客に対して、客と同じ間抜けな顔を見せることはできない。




