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34 急な代役


 色々と問題は生じたが、何とか形になった。


 平民の娘たちへのモデル指導、自分用だけでなく各種体格身長別の新作。モリンガ男爵夫人の夫である男爵がモデルにちょっかいを出そうとした修羅場……。そして和解。


 世の男が誰かに一途と言うのは幻想だ。モリンガ男爵家は夫人がなんだかんだで実権を握っているのでまだましだが、一般的な貴族だと夫人は女を解雇していただろう。


 お披露目会は王都の中心部にあるサロンの一つを借りて行われる。見取り図から配置については相談も受けていた。実際の場所に来る予定はなかったのだが、急な呼び出しがかかった。最後の最後も問題があったらしい。


「………ここ」


 馬車を下りて、思い出してぞっとした。


 奇しくも、直近の元婚約者が運命の相手と恋に堕ちた場である。


 貴族向けに貸し出される場所だったのだろう。今回使う場所は少し奥の場所なので気づかなかった。


「リラ様、こちらへ! 急いでください。もうすぐお客様がお見えになられます」


 モリンガ男爵夫人がいつもよりも余裕なく言う。お針子さんに背を押され、急に触られたからか背筋が一瞬ぞわっとした。


 すぐに収まって、会場に使う部屋よりも更に奥へ連れ込まれる。着くと早々に服を脱がされる。


 奥の部屋は、男子禁制で、私が鍛え上げた動くマネキン役の女性や少女が同じようにほとんど下着に近い状態で並べられている。役割分担をされたお針子さんが、そこにドレスを装備させていく。十名ほどのモデルは、披露目から戻るとすぐに別の服に着替えなければならない。特訓に耐え抜いた精鋭はレース越しでも色のわかる化粧を施され、戦闘服をまとっていく。


 呼ばれたのは、モデルの代役のためだ。


「申し訳ありませんっ。先生っ」


 名前を名乗りたくなかったので、先生と呼ばせていたが、一人の少女が涙すら流せない悲壮な顔で座っている。


「それ、大丈夫ではないでしょう! どうして病院に行かないの」


 明らかな腫れのある足を見て、唖然とする。骨が折れている可能性が高い。


「いいえ、ここで見届けさせてください! お願いします」


 痛みは相当なものだろう。だというのに、懇願する。


「最後の披露目会が終わったらすぐに病院へ連れていきます。今は先に準備をっ」


 モリンガ男爵夫人が厳しい口調で言う。


 転倒したとは聞いていた。ここまで酷い怪我だとは。


「わかりました」


 今は彼女の心配をしている場合ではないことはわかる。そちらに気を取られて失敗すれば、余計に気に病ませることとなる。


 タオルを一枚借りて、水魔法で湿らせて患部を包み込んだ。周りに沿う形で魔法を固定し、ゆっくりと、流動させる。


「あんまり、冷たくなるようだったら、取ってね」


「はいっ」


 ようやく、涙を流して、一番背が高いモデルの女の子が返事をした。


 私と同じくらいの長身で、似た体系だ。猫背だったのを矯正して今では美しく歩けるようになった。背が高いのにさらに高いヒールを履かなければならなかったので、こけてしまったのだろう。今度、靴についても改良させよう。


 お針子さんに引っ張られて、大急ぎでサイズを調整する。


 ほぼ同じ体系だが、私の方が胸がないのだ。


 幸い、胸元が大きく開くドレスは担当ではないので、補正下着の中に布切れが詰め込まれた。


 裏での準備とは別に、表での準備も進む。客である貴族が到着し始めたようだ。



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