31 過去の婚約者十二から九番目
謹慎が開けてから、正式にリラ・ライラックについて調べることになった。正式な命令ではあるが、内密に行う必要がある。結果として、婚約者の立場にある俺が、婚約者の身辺を調査する形になっている。
リラと王太子の婚約がなくとも聖女様が現れた可能性はあるが、十年間という異例の期間不在になっていた聖女が彼女と婚約して数カ月で見つかったのだ。偶然と片付けていいものか微妙なところだ。無論、ライラック男爵家が事前に聖女の居場所を知って、妹を利用した詐欺の可能性も調査されていたが、リラはもちろんライラック男爵家ともリリアン様は全く関係がない場で暮らしていた。
新しいものから調べた結果、王宮に紹介したのは同じ公爵家であるシダーアトラスの当主だった。
最近になって急に盛り返した家門であり、リラは当主の第三夫人になるため婚約した。我が家とはあまり仲のいい家門ではないため、王太子から問い合わせてもらったが、リラが来てから使用人の不正が発覚し、堀つくしたと思われた金山で新しい金脈が発見されたという。
落ちぶれていたので、まだ公爵家として恥じない生活ができているかと言えばそうではないが、貴族として恥ずかしくない程度に回復していた。
婚約破棄の理由は、王太子と婚約させるためだという。もし聖女が見つかれば、これまで失いきった名声を取り戻し、王家へ借りを作れる。馬鹿げたことだが、結果は見事に当たった。
シダーアトラス公爵家は運命の人と出会ったわけではないが。運命が幸運な方へ変わったのは確かだ。
公爵へはリラの兄であるアルフレッド男爵が話を持って行ったそうだ。婚約破棄時は多額の慰謝料を払うが、婚約破棄をしなければタダで使用人が手に入る。そして、ライラック男爵家は名ばかりであろうと公爵の爵位持ちと親戚になることができる。リラを除けばみなが幸せになる取引だ。
直接シダーアトラス公爵家とやり取りはしないものの、こちらでも裏は取らせた。第三夫人よりも使用人として扱われていた。帳簿の管理の手伝いでリラが不正に気付いたという証言が出ている。以前、リラがうちの帳簿を見た時に感心していたが、他家では色々とあったのだろう。
十人目の婚約者はシダーアトラスの屑と違い、最初はいい婚約だったようだ。実際に子爵家へ行き、話をすることができた。
婚約者は子爵の息子で、気が弱そうだが優しそうな青年だった。
「リラとは婚約者ではありましたが恋人のような関係ではありませんでした」
そういう男の横には、同年代ののほほんとした雰囲気の少しふくよかな女性が座っていた。
相手の女性は同じ子爵の三女で、初めての出会いは本屋で、趣味が合い、立ち話をする程度の仲になったそうだ。浮気がよくないと、出会ったことや話した内容は婚約していたリラには話していたという。
「リラさんは、婚約破棄を受け入れただけでなく、お仕事についても教えてくださいました。本当に、申し訳ない事をしたと言うのに……私たちのことを似合いだと」
女性の言葉は嫌味ではなく事実だ。子爵子息とこの令嬢は並ぶと対としてしっくりとくる。リラが並んでいる姿は合わないだろうと思ってしまう。
「父の古くからのご友人が紹介してくれただけあって、とても優秀で、自分のことも立ててくれていました。子爵として後を継ぐための領地管理の仕事では色々と助言もくれ、いい関係性を築いてはいました。あのままの婚姻にも否はありませんでしたが……この人と出会い、リラでは得られない安らぎを感じてしまったのです。このような状況で結婚してはよくないと、リラに相談すると、あまりにもあっさりと婚約破棄を了承し、仕事の引継ぎをするから家に連れてくるようにと言われました。私たちの両親への根回しまでしてくれて、円満な婚約破棄というとおかしな話ですが、我々ができるのは十分な慰謝料を払うことくらいでした。リラは不要だと言いましたので、代わりに生家に支払いを」
二人から聞き取りをし、裏をとれば嘘はなかった。ただ、生家の男爵家に入った金はリラには分けられていないだろう。子爵家としてはかなり奮発した額が実際に払われていた。
申し訳なくて、連絡を取ることはしていないが、元婚約者は今でもリラのことは友人だと思っていると言っていた。
リラが彼のことをどう思っていたかはわからないが、俺に対する態度と同じだったのではないかと思う。初めから、婚約破棄されると考えて、深くかかわらない程度に、婚約者としての義務だけで接していたのだ。だから、他に好きな人ができたと聞いてもあっさりと身を引けたのだ。そして、俺にも契約書には不貞を促す様に文言を入れるように勧めたのだ。




