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3 レオン・ソレイユ公爵令息




 レオン・ソレイユは私が幼いころから傍にいる家臣の一人だった。王太子とはいえ、自分はまだ十五。昔はやんちゃな子供で迷惑をかけてきた。


 これまでは、レオンに叱られたりすることはあっても、こんな冷たい目を向けられることはなかったので正直困惑している。


「レオンよ。何が不満なのだ。元々リラとは期限付きの婚約。相手側も承知の上だったではないか」


 リラ・ライラック男爵令嬢との婚約は、リラの十一番目の元婚約者からの提案だった。


 父上も、くだらないと言っていたが、十一人の元婚約者を調べた結果、何かしらの騒動が起きていた。単純に運命の相手が別に見つかって婚約を破棄されたこともあるようだが、行方不明になっていた跡取りが見つかったり、全財産を失ったと思ったら大犯罪を擦り付けられずに済んでいたりと、結果的に、幸運が舞い込んでいることが多かった。国の利益になった事件にかかわっていたことも今回判明した。


 偶然にしては多く。藁にでも縋りたいと父は王太子である僕がリラと婚約するようにと命じた。


「わかっております」


 まったくわかっていないレオンが淡々と返す。


 リラを婚約者として迎えるとき、正直にいって気乗りしなかった。十一度も婚約を破棄されるような女性だ。それも七つも年上だ。爵位も男爵家で下級貴族。部を弁えずわがままや本気で結婚を考えていたらと不安しかなかった。


 結果から言えば、とても教養深く、話していると楽しい人だった。何よりも、婚約者としては一切接してくることがなかった。むしろ、弟か生徒としか見ていなかったんじゃないだろうか。


 僕も、リラを気に入ってはいたが、恋することはなかった。


「はぁ、私とて、彼女には恩を感じている。あのような公衆の場で婚約破棄もしたくはなかったが、聖女の発見を知らせるためには仕方がなかったことだ。今後生活に困らないように補償金も支払っている」


 補償金については、聖女が発見された場合と満了時で随分額が違った。婚約時は随分と欲深いと思ったが、王族に婚約破棄されたとなればもう結婚は望めないだろう。それを思えば妥当な金額だと今は理解している。


「……準男爵の爵位を与えられ、実家に帰ることもできず、街の宿で暮らしていると言うではありませんか。ブルームバレー王国を救われるのは聖女様でしょうが、その立役者であるリラ嬢がこのような不遇な扱いを受けていることに、納得がいかないのです」


 レオンは、以前から妙にリラのことを褒めていたのを思い出す。


 男爵家だというのに優雅な所作だとか、あの薄紫の髪が本物のライラックのようで花の精のようだと言っていた気がする。


 普段女性を褒めることがなかったので、王太子である僕の婚約者だから気を使っているのだと思っていた。


「レオン、そなた……リラのことを好いているのか?」


 公爵家の跡取りであるレオンには既に三人ほどの婚約者候補がいる。どれも名家の令嬢だ。正式な婚約はしていない。公爵家ともなると、色々と大変なのだ。姑や、小姑が。


 男の方が婚期は遅いとはいえ、レオンはもう二十五だ。そろそろ本気で相手を決める年だ。


「………」


 男爵家の令嬢では釣り合わないと返ってくると思ったが、レオンはへの字に口を噤んでいる。


 僕よりも王子様っぽい金髪に、こげ茶の瞳を入れた切れ長の目。長身で日々鍛錬もしているので、鍛えられた体躯をしている。僕はまだ成長期だから許しているが、十年後に僕がこのままの身長だったら、家臣を外そうかと思っている。そんな公爵家でなくとももてる見た目をしていた。それでもまだ婚約してないのだ、この男は。


「其方は火の魔法だったな。これは口外しないでもらいたいが、リラは水の特性を持っているそうだ。残念だが、婚約者としては向かぬ」


「それについては、近年関係がないと証明されています」


 次は即答された。


 貴族の結婚は、階級と属性、それに年齢が重視される。属性の相性が悪いと子ができにくいとか、魔力を持たない子が産まれると言われているのだ。特に火と水はよくないと言われている。確かに、科学的ではないという意見も最近は出ているらしい。


「子のことは別として。……リラは、もう婚約は誰ともしないと言っていた。だから父は準男爵の位を授けたのだ。私との婚約も、兄のライラック男爵が勝手に進めたことらしいからな。これで、家長だからとリラに婚約の強要はできない。家門を分けることはリラが切望したから許可されたのだ」


「……」


 次の沈黙は不貞腐れたものではなく、驚愕していようだった。


「ですが」


 少しして言い淀む。その続きをレオンから聞くことはなかった。すぐに急用ができたと出て行ってしまったのだ。




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