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28 祝福か呪いか


 リリアンの元にリラが行方不明だから、居場所を知らないかと馬鹿な男から手紙が届いた。


 リラからは、しばらく会いにいけないけど落ち着いたらまた行くからと短い手紙が届いていた。けれど、所在は書かれていなかった。


「レオンが謹慎とはな」


 お茶に来ていたマリウスがため息をついた。


 魔力と魔法の法律はまだ勉強を始めたばかりだけど、公共の場で魔法を使うことは緊急時を除いて基本認められていないと聞いた。リラの水魔法はあきらかに危険な行為でない限り問題にならないが、レオンは炎魔法であるため、問題になった。それも制御されたものではなく一時的に暴走したという。


「魔力制御ができない方を、王宮に上げる訳にはいかないでしょう。そもそも、お手紙には書かれていませんけれど、お茶会で聞きましたのよ。以前リラとのお茶会にいた伯爵令嬢がレオン様とご自身が運命の相手だったのだと言っていると」


 出禁になったので他の令嬢経由だ。基本的に令嬢は噂好きなのでそんな話を聞いたら他に言わないわけがない。


「ああ、知っている。レオンから私への手紙だ」


「読んでもよろしいのですか?」


「リラに係わることを君に黙っていると叱られる。それに……私たち二人に関係があるかも知れないことだ」


 許可され、手紙に目を通す。私に対するものと違い、報告書のような書き方がされていた。文字は平民の時から学校に通わせてもらっていたからある程度は読めるが、生活に困らない程度のものだった。ここに来てから、手紙の書き方や読み方も習わされた。


 当日何が起きたのか。それについての見解。私でも問題なく読めるほど、簡潔に書かれていた。


「………リラが……呪われているか、祝福されている?」


 まるで反対の言葉に顔を顰めてしまう。


「聖女は、祝福の最たるものだ。この世に一人しか存在せず、その力は国の安定に不可欠だ。だが……リリアンにとっては、普通の生活を奪われたという意味で呪いだろう」


 この世の中には、七つの分類に分けられない特殊な魔法を使えるものがいる。私の、瘴気を払い、国を安定させる力はその一つで、あまりに特殊なので聖女と分類されている。


 本当に些細なものは無理やり七つのどれかに分類する。けれど、あまりにも効力があり、特殊なものは祝福と呼ばれる。制御できないもの、周りや本人に危害が出るものは呪いと呼ばれ、そうなれば幽閉や処刑の対象になってしまうはずだ。


「私が……マリウスを特別だと思い、あなたが私をそう思ったのが、リラの力によるものかもしれないというのですか?」


 レオンは、例の令嬢を見た時、多幸感と愛しさを感じたと書かれていた。感情が反発したのか、一時魔法の制御が取れなくなり、周辺に炎が出た。その後、体に負荷がかかり、倒れたと。


 私も、マリウス王太子に初めて謁見した時、この人と共に生きるのならば耐えられると思えた。一言も話していなかったのに。


「……それが、リラの祝福の効果だというのなら、とても、残酷ですわ」


「私がリリアンを生涯の伴侶として大事であることは変わらない。本当に運命の相手を導き出すものかもしれない」


 手紙を開いていた手に、マリウスの手が重なる。視線を向けると切実な目がこちらを見ていた。私も、彼をとても大切な相手だと思っている。それが作為的なものだとは思えないし思いたくなかった。


「伯爵令嬢は一方的に熱を上げているが、レオンはもうそういう感情はないらしい。それに、過去に何度も会ったことがある相手だ。私たちのような初対面でのことではない。何か条件があるのか、確認するためにも、これからリラの元婚約者たちにいても詳しく調査することになった」


「お願いします。そんな祝福……リラ以外だけが幸せになる呪いなんて、私は許せない。そのおかげで、あなたが私を好きなんて、辛すぎます」


 涙があふれた。


 やるせない。


 マリウスの心は放したくない。だけど、リラはこのままだと一生誰かの運命を繋げるだけの人生になってしまう。


 リラは、私が聖女として現れて、婚約者の座を奪っても何も咎めず、むしろ私を気遣ってくれた。どれだけ私の心を支えてくれたかわからない。


 レオンがリラに対して好意を抱いていたのは知っている。だから、リラが幸せになってくれたらと願っていた。


 聖女なんて崇められているのに、お友達の幸せを祈っても叶えることすらできない。それどころか、私のせいで不幸にしてしまったかもしれない。


「まだ、リラの祝福で私たちの関係があるとは決まっていない。それに、リラはそなたを不幸にしたのではないかと心配していたくらいだ」


「……なぜですか」


「リラの元婚約者たちは、何らかの幸運があった。だから私は聖女を見つけるためにリラと婚約していたのだ」


 リラは、元々婚約破棄の予定だったから気にしなくていいと言っていた。けれど、私が見つからなければ、どうなったかわからない。


 私が、聖女だと見つけられなければ、どうなっていたのかとふと考えた。


「……私が、見つからないままだったら……どうなっていましたか?」


「殺されていただろう」


 テーブルの上で握る手に力がこもる。


「リラが殺され、る?」


「リラではない、聖女である君がだ。……これまで、あまりにも長い聖女の不在。その理由は恐らく他国のものに殺害されていたからだと考えている。見つからなかった場合、リラとは予定通りに期限を満了して婚約破棄をしていただけだろう」


 言われて実感がわかなかった。


 もし、ここに連れてこられなければ、今も水汲みをしたり、学校に通ったり、老夫婦の手伝いをして暮らしているだけだと思っていた。


「飢饉までにはなっていないが、この状況が後五年も続けば国家として、かなり大きな損失になっていただろう。国力が落ちれば侵略はたやすく、食糧問題以外でも聖女の有無だけで国防にも大きな差が出る。我々が食料を買っていた国か、それとも他の陣営か、可能性はあまたにあるが、聖女がいなければ得をする国は多い。国内に共謀するものもいるだろう。リリアンには不便な生活を強要することになり、すまないと思っている。だが、君を亡き者にしたい浅ましいものがいる以上、自由よりも安全を選ばなければならないのだ」


 話として、私がいること、聖女がいることで国が安定すると学んだ。けれど、秘宝と呼ばれる聖遺物に魔力を与えるだけで実感がなかった。


 いつも食べるものは毒見を通してからで、自由に外出もできないと私は愚痴をこぼしていた。今の生活は何不自由ない。けれど自由はないと嘆いていた。


「私は、リラには感謝している。ただの偶然だったかもしれない。だが、リラと婚約をしたことで君が見つかり、今もこうして生きている。そして、リラは君のよき友にまでなってくれた。リラが何らかの祝福を持っている可能性は高いと思っている。それが呪いとなったとしても、可能な限り君と共に力になろうと思っている」


 リラはとても大切な友達だ。だけど、マリウスに対する感情はもっと特別なものだ。


 リラの祝福で相思相愛になっているのならば悲しい。けれど、まだそうと決まったわけではない。



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