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23 シーモア卿への報告


 ソレイユ公爵家が正式な婚約者になったとは聞いていた。今日来ると言うので、念のために男爵家で変更した婚約書も持ってきてもらった。


 おそらく、公爵家の力を使って脅したのだろう。新しいものは、リラ個人へ賠償金を支払うことに変わっていた。リラからの婚約破棄は、かなりの少額で、これならば一括で払えるだろう。ライラック男爵が、このまま素直に引き下がるかはわからない。相手が公爵家となれば、男爵ごときが下手な手は打てないだろう。


「……」


 リラには、家同士の契約以外にも、婚約者とは個別に契約書を作りなさいと教えた。目から鱗がこぼれたとばかりに、納得して、毎回私のところへ持ってくる。


 今回も似たようなものだが、公爵家の子息はリラを不純な目で見ているのだとよくわかった。


「大切にします。リラ殿が信頼しているシーモア伯爵には、できれば認めていただきたいと思っています」


 まるで娘を嫁にくれとでもいうようだ。


「落ちぶれ伯爵家には過ぎたお言葉。それに、認めることができるかは、もうしばらく様子を見ないことにはなんとも」


 次こそ幸せになれるようにと、リラと婚約破棄をした後、友人の子爵の子を紹介した。無論、婚約相手も知っていた。今時見ないような好青年だった。相手方もリラを気に入り、大事にされていたが、一年が経つ前に婚約破棄となった。それまで女っ気のなかった男だったというのに、運命の相手に出会ってしまったという理由だった。こちらの面子をつぶされた形だが、リラは泣くでもなく、いい人だったから本当に好きな人ができてよかったと祝福していた。


 正直、まだこの男を信用はできない。運命とやらは抗えないものらしい。リラを気に入っても心変わりする可能性はある。


「リラ嬢。下にこれを届けてもらえるか」


「はい」


 座っていたリラに一階の受付へ使いを頼む。メモには少しでいいから足止めをいるようにと書いている。リラとは顔見知りだから、適当に話題をふってくれるだろう。


「リラ嬢は、王太子以前に既に十一人の婚約者がいたことはご存じですか?」


「……は?」


「婚約破棄は両家にとって汚点であるため、公表されていないことが多いので知らないのかもしれませんが、全て、一年以内に相手方の一方的な理由で婚約破棄をされているはずです」


「そんなことは、流石にないでしょう」


「なぜ男爵令嬢が一時とはいえ王太子と婚約できたとお思いですか? それだけの実績があったからこそ、リラが選ばれたのです」


 この顔を見る限り、ハッピー・ライラックなどというふざけたものを求めたわけではないようだ。


「……最低でも一年、本当に彼女のことを想うのであれば婚約期間を保っていただきたい。もし、爵位の高い令嬢と恋に落ちた場合、リラ嬢は正妻ではなく側室か第二夫人にならなければならないでしょう」


 誰かに幸せが訪れるだけならばいいが、誰かの幸せのためにリラが犠牲になる姿は見たくない。


「公爵家の力があれば調べればわかることです。王家の前はどこかの公爵家と婚約していました。これ以上は、個人情報のためにお伝え出来ませんが」


 リラが戻る前に手早く伝える。


 既にリラの個人情報の秘匿には抵触するだが、いずれわかることだ。


「……だから、リラは婚約破棄をずっと考えていたのですね」


 視線を落として、苦し気に言葉を漏らした。




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