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18 王太子とレオン


「理解ができません」


 レオンが、愚痴る。


 王太子に愚痴る内容かと言いたいが、元婚約者である女性のことで、レオンが婚約した理由の一端が僕にあることは理解しているので聞いてやることにしている。


 リラとの婚約は聖女を見つける可能性を少しでも上げるためのものだった。彼女のことは嫌いではない。感謝もしている。実際、噂の通りにリリアンを一目見た時、すぐに彼女が聖女だとわかった。


 運命の出会いなど信じていなかったが、まるで運命のように、彼女だけにライトが当てられていた。


「私も、リラとは個人的に婚約書は交わしていた」


 王家が購入したものは全て所有権を放棄すること。個人的な贈り物の場合は別途譲渡契約を交わすようになっていた。贈ったものを返せと言うほど狭量だというのかと問えば、過去の経験上であり、僕に対しての信頼かどうかではないと言われた。


 それと、互いにエスコートとしてのふれあい以上を強要しないこと。


 婚約期間で子供ができる貴族は案外多い。無論すぐに婚約から婚姻へ変え、結婚式を早急に済ます。結婚式よりも披露宴を盛大にすることが多いのは、出産後に行うからだろう。結婚前の出産は恥ずべきことだが、貴族間の結婚で不妊は死活問題だ。離婚の理由としても認められる。なので家によってはあえて妊娠できたら結婚するという場合もある。


 結婚しないことが決まっていたので、万が一にも子供ができたら大変なことになる。なのでもちろん了承した。リラが野心家で妊娠しようと考える可能性もこちらとしては否定できなかったので、会う際は絶対に人を同席させるようにこちらから契約書に盛り込んだほどだ。


 それもあって、僕はリラを信用した。


 ある意味で友人関係になれたが、それは僕がリラを娶るつもりがなかったからだ。


 だが、目の前の男は違う。


 娶る気満々で結婚を申し込んでいる。なのに、性的接触をした時点で賠償金を払い、今後一切接触しないと書かれていたのだ。そりゃあ落ち込むだろう。


「婚約期間は、無論、子を作るまでは行かずとも、互いを知るために触れ合うこともあるでしょう」


 これまで婚約者を取らなかった男がそんなことを言う。


「レオンよ。私からできるアドバイスは一つだ。接吻や、服の外に出ている素肌までは触ることは許容するという文言を入れてもらうことだ。こういうとは一般的に女性ばかりが損をする。それを理解して尊重していると示すことはとても大事だ。相手をそこまで思っていると示すことができるからな」


「……」


 どこか不服そうだ。


 思春期の男子か。本物の思春期男子である僕だって、リリアンとは手を繋ぐまでしかできていないというのに。


「リラはこれまで色々な経験をしてきた女性だ。自己防衛を考えるのは仕方ないことだ。そもそも、本人の了承前に婚約書を作った相手なのだから、これくらいは仕方ないだろう」


「わかってはいます。それに、彼女は浮気を推奨するような文言を入れるように勧めたのですよ」


 十一……十二回も婚約破棄されればしたないだろう。僕は浮気ではないが、リリアンを見た時に心を奪われた。その時点で、いくら破棄を予定していたとはいえ浮気ともいえる。ならば初めから許容してしまった方が楽なのだろう。


「そもそも、婚約破棄ではなくどうして公爵家へ連れて帰ったのだ? 意にそぐわぬ婚約となれば嫌われて当然だろう。家同士の義務でもないというのに」


 貴族の結婚は基本政略結婚だ。無論、恋愛の末の婚約もある。だがそれも互いの家が納得できればの話で、政治的な敵対勢力であればただ悲恋として終わる。


 リラは準男爵を得た。無論男爵家の娘であることは変わらないが、親兄弟に婚約者を決められずとも好い地位を得たのだ。結果として爵位が下がったので、公爵家は雲の上の存在と言っていい。


「……リラ殿の魔力と魔法をご存じですか」


 それまでとは違う深刻な顔でレオンが問う。


「水魔法だろう。見せてもらったことがある」


「……国防にも係るためお伝えします。リラの魔力はおそらくマリウス王太子以上です」


「何?」


 王族が王として君臨できるのは聖魔法との相性と、魔力量にある。


「巨大な貯水池に水を貯めているのを見ました」


「ライラック領に作られたものか」


 ライラック男爵領が豊かになった理由に挙げられるのが先代の男爵が作った貯水池だ。湧き水が見つかったため水位を保てていると言っていた。王宮からも視察に行っており、報告書を見た記憶がある。かなりの規模の貯水池だったはずだ。


「魔法で作った水は、魔力を通し続けるか、他の物体に安定させなければならないだろう」


 魔法で水球を作っても、魔力を切れば空気中に戻る。大地に撒けば、そちらに吸収される。池に水を貯めても、術者が魔力を止めれば、貯まった水は空気中に戻る。僕はそう習った。


「魔力の使い過ぎでリラ殿が気を失った後も、水位は変わっていませんでした。馬で貯水池の周りを走っている間水位の変化を確認しています。あの池は湧き水ではなく、リラ殿が水を作ることで成り立っていたと考えるべきかと」


「なるほど、リラを守るためには、取り急ぎ公爵家で保護しなければならなかったのか」


 準男爵になったとしてもライラック男爵の実の妹であることは事実だ。最悪、ライラック領の安定のためとなれば、強制できなくはない。貴族はその特権にいる代わりに義務がある。


「ソレイユ公爵家の婚約者となれば、男爵家ができる手立ては多くないだろう。我々も彼女には世話になった身だ。だが、貴族の娘に産まれた以上、負う義務を免除はしてやれぬ」


 ただの運のない女であれば、まだよかった。運のない利用価値の高い女というのが厄介だ。


「助けるためにしても、ソレイユ公爵夫妻がよく準男爵との婚約を認めたな」


「………」


 レオンがそっと顔を背けた。


「……そういう勝手は、誰も平和にはならないのだぞ」


「緊急事態でしたから。それに、貴族であればいいと一任されていましたから」


 最初の婚約も、ある意味であのタイミングでなければ他に話が言っていたかもしれない。だが緊急ではなかった。


「……円満だと思っていたが、少し問題があるかもしれないな」


 公爵家公認だと思っていたが、違うのであれば、今日の茶会は大丈夫だろうか。




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