101 二番目の婚約者 後
あの家にと言ったが、私はあの商家は結構気に入っていた。馬車馬のように働かされたが、それだけの給料が出ていた。まあ、しっかり働いたので、あまり働かない息子よりも評価されてしまい、それがストレスになっていたのもわかっている。
こちらではちゃんと働いているようなので、私では改心させる技量が足りなかった。ならばいい相手を見つけて婿入りしたともいえる。
その現嫁は、ずらりとテーブルに宝石を並べた。
「公爵夫人二人と、レオン様の妹君への贈り物、あまり高価過ぎないものですね」
こちらの要望を再確認する顔は、もう顔を青くして謝罪している姿はない。仕事に切り替えたのだろう。
「ええ、公爵夫人たちは自身で好きな宝石を買えますから、値段よりもこちらの特産の珍しい宝石がいいです」
色々と見せてもらった結果、公爵夫人には青紫の揃いのイヤリングにする。それぞれ紫と青の瞳なので、その間くらいの濃い色のものだ。同じ原石を分けて作られたものなので色味がよく似ている。金色の不純物が混じっているが、夜空の星のようで綺麗だった。
「正直に申し上げて、石としては二流品ですが、美しさだけで言えば透明度の高いものにも負けていないと思っております」
若女将が言うように、宝石は純度の高いものの方が高いが、二人が選んだものを身につけているのを想像すると似合っていると思うので購入を決めた。
レオンの妹へは、腕輪を買う。ネックレスやイヤリングは子供が幼いと危ないかもしれない。貴族の場合、育児は全て乳母に任せることもあるし、できるだけ一緒にいる人もいる。
にこやかにほほ笑んで値段交渉をすると、ほぼ原価で購入ができたので、本当の意味で、これで手打ちにしよう。
「こちらが、レオン様からご依頼いただいていた魔法石になります」
お茶が出され一息ついてから新しい宝石箱を持ってきた。
「大変に失礼ですが、魔力が強い方が持つと効果が発生してしまうことがございますので、近づかれないようにお願いをしております」
並べられたものは七つほどで、最後に無色透明の宝石が置かれる。それだけはガラスのケースに入れられていた。
「こちらが、新しい鉱脈で見つかった魔法石になります。特徴としては、一切の魔法特性がない事、ただ純粋な魔力のみを吸収します」
「話には聞いていましたが……魔力のみですか」
レオンが実物を見てわずかに眉を顰めた。
リリアン様に見せてもらったのは、白濁したものだったが、元は透明だったということか。
「属性が出ないというのはそれだけ珍しいことですか?」
魔法石は大きくわけて二種類。属性別にさらに分かれる。一般常識くらいは知っているが、専門的なことまでは知らない。
「そうですね……一般的な使用ですとあまり使用用途がないですが、魔法の基礎研究には革命が起こるかもしれません」
高尚な研究は素人が聞いてもわからないだろう。
リリアン様の聖力は特殊魔法に分類される。それらは魔法石にはないものだ。聖女様がどのような魔法を使っているのかはわからないが、もし魔力から特殊であれば、それが何かの役に立つのかもしれない。
「ソレイユ公爵家は魔法の研究にも熱心だと伺っております。今回は国の命令もあるでしょうが、公爵家のためにもお越しになられたと伺っております」
聖女様のお力が保存できるかもしれないからというのを隠すためにも、ソレイユ家の子息を出向かせたのか。
他国にとって聖女がいない方が都合がいいのだ。聖女様が不在でもしばらくは問題なくなるかもしれないということは、知られるのを避けなければならない。
「これ以外の魔法石も輸出が禁じられ、国内の魔法石には元々保証書番号がついていましたから、定期的な確認がされています。国内での売買はできますが、所有者の変更手続きが必要になりました」
「聞いてはいましたが、かなり厳しいですね」
「はい。許可なく販売した場合、商売ができなくなる可能性もあります。国外の方に売る場合は、国の機関を通しての販売になるため、個別の審査の手数料もかかります」
国によっても違うのだろうが、法律関係は本当に面倒くさい。商売関係の申請も多少は学んでいる。規則が必要なのはわかるが、ちゃんとしないと罰金や信用にかかわるのでしなければならないが、面倒くさいのだ。
「ちなみにこれを購入できるとなったらいくらほどですか?」
めまいがするような額が提示され、それを真剣な顔で悩むのを見て、レオンは生粋の金持ちだと妙に実感した。私が結構頑張って買った夫人たちへの贈り物などゴミのようではないか……。
「これ以上のサイズはありませんか?」
「審査に通られた場合、ご対応はできるかと」
明言は避け、そもそも資格を取れと言う。
世の中は、庶民の感覚では理解できない高額取引があるらしい。それこそ、財政難のシダーアトラス公爵の散財が可愛く見えてしまう。




