第参話「悪食」
「下総に暴食の大蛇が居ると聞いたが……この辺りに根城があるのか?」
「……そこまでは分からない。お母さんを追いかけていたら、森の中で見失って……!」
村の近くには山林が広がっている。その中で見失ったのだとすれば、もう一度見つけるのは困難だろう。話していくうちに、圭三は自身の無力さを恨み泣きじゃくっていた。
「暴食の大蛇は『人を食っている』んだ……! もたもたしてたら、母さんだって食われて……!」
「……中々惨いことやってくれるやないか、暴食の大蛇め。 ――なあ小僧、時間が惜しいなら、ワイらに任せとけ」
タカは式神を何枚か操り、森の中へと向かわせると、呼吸を整え意識を集中させる。タカの体からは、鼓動のような力強い振動が伝わってくる。
「これは一体……」
「……今は静かにしていろ」
見たことのない光景だったのだろうか、異様なタカの様子に困惑する圭三。暫くすると、太鼓を鳴らしたような強い振動が響き、それ以降何も感じなくなった。
「――こっから東の洞窟、山賊どもが住んでた形跡がある。そこから地下に通路っぽいもんが続いてんな……しっかり妖気も残っとる」
「……泉さん、タカは何をしたんですか」
「式神と交信して、遠くにある情景を見る術――《共鳴探知》だ」
やがて幾つかの式神がタカの手元に戻ってくる。
「行くで泉はん、牡丹はん。道案内は任せとき。――で、小僧はここで待っとれ」
「……冗談じゃない。俺も行く」
すると、タカは表情を変え、低く鋭い声で警告する。
「なあ、これが冗談に聞こえるか? ――最悪、死ぬで」
タカの目は本気だった。圭三を冗談で置いていこうと言っているわけではない。あの夜、某が牡丹を連れて行こうとしなかった時よりも、威圧的な顔をしていた。
「…………っ」
「命懸けで母ちゃん助けて、その母ちゃんの目の前で死んでみぃ。……母ちゃん、どんな顔すると思っとるんや」
圭三は何も言い返せなかった。母親として、愛をもってして育ててきた大事な我が子が、自らを犠牲にして自分を助けてしまったとしたら。母親というのは、自身を犠牲にしてでも子を守ろうとする。それが出来なかったとすれば、後悔と絶望が一生、母親に付きまとうだろう。
「……急ぐで、二人共」
廃屋を後にする一行。牡丹が振り返ると、猟銃を抱えて悔し涙を流す圭三が座っていた。
一行が洞窟に向かっても尚、圭三は泣いていた。自分に力が――自己犠牲などしなくとも、大切な人を救える程の力を持っていたのなら。手に持った猟銃に残弾は無く、ただ圭三の涙で濡れていくだけだった。
「――誰でもいい! お母さんを助けられる力を……!」
その時、何者かが圭三の肩を叩いた。
*
村から少し離れた山の中。一行は、住処にした痕跡がある洞窟の前までやって来た。見覚えのある道を辿って、某は再びここを訪れた。……そう、嘗て村を襲い、某の怒りの儘に報復を与えた、山賊の根城だった。あの日感じた衝動が再び蘇る。それを抑え込むように拳を握り締め、洞窟の中へと入っていく。
「……泉さん、緊張しているのですか?」
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
そう牡丹には伝えたが、やはり感情を抑えるのはとても難しかった。深呼吸を何回か繰り返し、ようやく落ち着きを取り戻した。
「二人共。少し下がってくれんか」
タカは行き止まりの岩壁に向かって、一枚の札を貼り付ける。その札を抑え暫く待っていると、札はくしゃくしゃに丸まり、やがて霧散するように壁は消え、隠された部屋が露わになった。そこから溢れ出た妖気は、呼吸ができない程濃くなっていた。その部屋の奥には、箪笥で隠されていたであろう通り道が開かれたままになっている。
「……この奥から、暴食の大蛇の妖気が溢れているように感じます。気を付けて行きましょう」
牡丹は通り道から漏れる妖気を“暴食の大蛇のもの”だと確信している様子だ。以前戦った時に感じたそれと、似たような気配――そして、渓流で戦った龍童の気配とも酷似していた。となれば、少なくとも暴食の大蛇に関わっている場所だということは確かなのだろう。
「ああ、行くぞ」
通路は曲がりくねった一本道になっていた。道中、正体不明の骨が転がっていたり、口を開けた蛇が描かれた旗が立っていたりと、不気味な雰囲気を醸し出していた。行燈には灯がともっており、つい先ほどまで何者かがこの道を通ったであろうことを示唆していた。
「――! もう――やめて……!」
通路に啜り泣く声が響く。……この角の先に何かいるのだろう。某は息を潜めるように、二人に指示を出す。
「黙レ人間!屠殺サレタクナケレバ、ソノ赤子ヲヨコセ!」
直後、鞭の音が耳をつんざく。このまま黙って、暴力を見過ごすわけにもいかないが……この狭い道では、刀を振ることはできない。すると、タカが肩を叩いて、手元の式神を見せた。――なるほど、背後を取れば騒がれる前に、刀を振ることなく仕留められるか。某は頷き、静かに刀を引き抜く。タカが式神を飛ばし、奴が追いかけようとした隙を狙って――
「――ナッ?! ナニヤ――」
――一瞬で首を撥ねる。返り血はついてしまったが、作戦は成功した。
「……大丈夫か?」
見ると、牢に囚われた女性は赤子を腕に抱いていた。だが、泣いているはずの赤子は黙ったまま――息をしていなかった。
「……なんちゅう命の使い方しとるんや。今頃三途の川には、水子が増えてるやろなぁ」
「貴方達……人間、ですよね……! ああ、やっと助けが来たっ!」
感極まって、大きな声で泣き始める女性。先程の妖が持っていた鍵を差し込んで回すと、牢の扉が開いた。女性は感謝を告げ、血塗れの着物のまま走りだそうとする。
「待ってください!!」
牡丹が女性の腕を掴む。女性は驚いたように振り向くが、女性が向かおうとしていた先――そこには、一体の妖が向かってきていた。
「泉はん! こっちも向かってきとる……どうやら、挟まれたみたいやな……」
どうやら、こちらが向かう先からも妖が来ているようだった。十分に武器を使えない今、挟み撃ちは最悪の事態に等しい。
「……兎に角、この人を守りながら撤退するぞ!」
「ええ、行きましょう!」
牡丹は女性の腕を掴んだまま、一歩後退する。某は来た道を塞ぐ妖に刀を突き立て――
「失せろ……《紫電必殺》――!」
破裂音と共に、妖の頭部が砕け散る。屍を踏み越え、急いで出口へと向かう。幸いにも、道中に妖は居ない。麓まで護衛できれば、女性を生還させることができるのだ。しかし、山賊の住処まで辿り着いたところで、数体の妖が洞窟の出口を覆っていた。
「侵入者メ、生キテ帰レルト思ウナ! ソノ人間ヲカエシテモラオウ!」
ここなら十分に刀を使える。刀に手を伸ばそうとした時、悲鳴が響き渡った。
「泉さん……!」
振り向くと、牡丹が床に倒れ、助けた女性が、大きい図体の妖に捕まっていた。
「動クナ……コイツヲ殺サレタクナケレバ、一歩モ動クナヨ!」
女性は今にも握り潰されそうになっている。しかし下手に動けば、妖は更に力を込めるだろう。
「……何かないのか! どうすれば助けられる!」
動けないこちらを見て、雑兵の妖が襲い掛かってくる。刃が振り下ろされ、痛みが走る――直前。
「喰らえ――《静霊遠弾》っ!!!」
大きい図体の妖の額を、一筋の弾丸が貫いた。妖は力なく倒れ、意識を失っているが、女性は解放された。弾丸は意思を持っているように宙を移動し、時折加速しては正確に急所を貫く。
「今だ! 一気に片付けるぞ!」
某の合図で、二人も攻撃を開始する。何者かが放った弾丸のお陰で、数分も経たずに妖は一掃された。
――洞窟から脱出し、女性を見送った後、一行は廃屋へと戻ってきていた。
「小僧、ようやってくれたなぁ! 小僧が来んかったら、この人もワイらも死んでたかもなあ!」
<“にいに”はとっても凄いんだよ! で、“小僧”じゃなくて、“圭三”にいにだよ!>
あの時、自在に飛び回る弾を放ったのは圭三――そして、身体が透けてふよふよと浮かんでいる『圭三の妹』だった。
「ふふ、圭三さん、妹がいたんですね」
「……いや、俺も知らないし……こいつが勝手に名乗ってるだけ」
<む~……名前はないけど、実の妹に“こいつ”はないんじゃない?>
圭三の妹は頬を膨らませ、意地っ張りな態度をとっていた。
*
「――誰でもいい! お母さんを助けられる力を……!」
その時、何者かが俺の肩を叩いた。
<……にいに。圭三にいに。>
「――! だ、誰だお前……!」
振り返ると、半透明で宙に浮く――どこからどう見ても、幽霊の女の子が佇んでいた。さっき肩を叩いたのはこいつだろうか。
<誰って――そっか、にいには知らないんだよね。わたしは、圭三にいにの妹だよ>
「俺に……妹? ……いや、そんなわけない。俺を騙そうとして、何をする気だよ……!」
俺は恐怖のあまり、手に持っていた猟銃を落としてしまう。
<わたしは、にいにを助けにきたんだ。……このままじゃ、お母さんが死んじゃう。暴食の大蛇に殺されちゃうんだ>
「……!」
すると、妹と名乗る幽霊は落とした猟銃を拾い上げる。それを抱きしめたかと思うと、銃口に吸い込まれていくように姿を消した。猟銃からは淡い光が漏れていて、以前としてあいつの声が聞こえてきた。
<にいに。これを持って、洞窟に急いで。場所はわたしが教えるから>
恐る恐る猟銃を手にすると、猟銃には万華鏡のような筒が付いていた。試しに覗いてみると、山の奥に光の筋が続いているのが見える。
「……この、光の先に……?」
山道を走る。履いていた草履は紐が取れ、道中に片足を落としてきた。それでも振り返ることなく走り続けていると、山を登る妖の姿を見つけた。
<撃ってにいに! 後はわたしに任せて!>
「“任せて”ってどういう――あぁもう! 分かった!」
突然の指示だったが、疑問に思う余裕はない。空っぽの銃で奴らを狙い、引き金を引いた。すると、銃特有の破裂音が山にこだまし、無くなったはずの銃弾が――いや、本物じゃない、光を固めて作ったような弾が放たれた。それは奴らの一匹の脳天を貫いたかと思うと、光の筋を描きながら、意思を持ったように光速で動き始めた。こめかみを貫通し、頭に穴をあける。独りでに動く光の銃弾は、見える敵を仕留め終わったのか、再び銃の中へと戻っていった。
<次からはにいにが指示してね。じゃないと、味方も殺しちゃいそうだから!>
「……お前、なんなんだよ。――何者なんだよ」
<言ったよ? わたしは、圭三にいにの妹。……そして、にいにの銃弾だよ>
*
圭三の放った弾丸は、洞窟内部の妖を仕留めて回る。自分が使っている式神より、妖を倒すことにかけては優れている。正直羨ましいが……ないものねだりをしてもしょうがない。
<にいに、ちょっと休んでもいいかな?>
「……分かった。妖も残ってないし、戻っていいよ」
弾丸が自ら銃に戻る。話には聞いていたが、実際に目の前で見ても可笑しな話だと思う。使い捨てられる物が戻ってくるというのも変だが、それを幽霊が操っているのも奇妙だ。
「そういや、戦ってる時指示出しとるんやろ? 戦っとる間、声出してないでどうしとるん?」
「万華鏡越しに狙って引き金を引く。それだけで標的が伝わるらしいから」
「……何が何だか。ま、こっからも気ぃ引き締めとき」
妖の居なくなった洞窟内には、手と首を繋がれ、口を塞がれた女性が何人も捕まっていた。倒した妖共が持っていた鍵を鍵穴に差し込もうとしても、うまく入らず。何人かは助け出せたものの、まだまだ解放されていない人も多かった。
「母さん!」
「――! ――!!」
「……待っていてください、必ず助けに来ます。今、ここには妖はいませんから、待っていてください」
涙を流す女性――圭三の母親に、牡丹は優しく話しかけた。
「出入口は全部、結界で塞いどいたで。ちょっとやそっとじゃ妖は入ってこれんやろな」
牢獄の出入口の一つには、何処か遠くに直接通じている地下通路があった。この先に暴食の大蛇とその配下がいるのは、妖気の感じ的に間違いないだろう。
「結界が切れるまでどれくらいだ?」
「……精々あと一日ってとこやな。それまでに大蛇――それか、牢獄の管理者を止めんといけん」
「管理者……いるとすれば、この洞窟内部でしょうか」
すると、圭三が持っていた銃の先から、幽霊の少女がぬるり、と身を乗り出した。
<あっちだよ! あっちにまだ妖がいるの!>
少女が指差した通路の先には石壁で作られた廊下が続いている。何かしらの手掛かりを掴めそうではあるが――妖の体格に合わせているのか、人間の子供程の大きさしかなかった。
「この先――行けんことはない、けど……泉はんは無理やな、身長的に」
ニヤニヤしながら泉を見上げる。
「はぁ……行って来い、低身長」
「んだとぉ?! 黙って待ってろ高身長が!」
……だが、流石に自分だけで行くのも心もとない。この先に妖がいるのなら、もう少し戦力が欲しいところだ。
「……おい圭三、お前もこっちにこい。ここは泉はんと牡丹はんだけで何とかなるし、二手に分かれて行動した方がええやろ?」
圭三はひねくれることはなく、素直に頷いた。
「俺が行って、母さんが助かるならついていく」
「決まりやな。二人共、ここは任せたで」
そういう訳で、探索は自分と圭三、制圧した牢獄は泉と牡丹に任せることにした。
*
「――さっむ! 冬みたいに冷えとるなぁ……」
石で作られた通路には、外が夏とは思えないほど冷気が蔓延していた。俺――圭三とタカは奥へと進む。
「なあ、あの時みたいに紙を飛ばせば、この先がどうなってるか分かるんじゃないのか?」
「アホ言え、妖がおる場所で術なんか使ってみい、一発で警戒されるのがオチやぞ」
「……そういうものなのか」
「そういうもんや」
……『術』というのは、そこまで万能なものではないらしい。
「その銃に入っとる――妹やっけ。そいつを動かすのも、多分なんかしらの術を使っとる。無暗に出すなよ」
「……分かった」
数分くらい歩いただろうか、どんどん、と鈍い音が聞こえてきた。何かを叩いているのか、時々ぐしゃっと潰れているのが分かる。
「……ここの扉やな」
その音は通路の横にある扉から響いているようだった。
「なんかおるな……圭三、一気に片付けるで。嬢ちゃん、出てこれるか?」
タカは銃身にいる幽霊に話しかける。
<“嬢ちゃん”じゃない。わたしには『ツル』って名前があるの!>
「……俺は初耳だ。お前、名前あったんだな」
<あれ? 言ってなかったっけ。ま、いいや>
「……なんでもええ。行けるな? ツル」
銃がカタッと揺れる。今のは頷いたということだろうか。
「――おっしゃ行くで!!」
掛け声と同時に、扉を開け突入する。部屋の中には鍋や食材、そして調理する妖がいた。妖は突然の侵入者に驚き、手元にあった肉切り包丁を持って襲い掛かってくる。
「――《結界展開》!!」
タカが手を広げると、振り下ろされた包丁が半透明の壁にはじき返される。……これが『結界』というやつだろうか。妖がのけぞった隙に銃を構え、引き金を引いた――が、弾は妖の真横を通り過ぎた。普通なら残念がるところだが……俺らの場合は違う。
<にいに!! 指示をちょうだい!!>
「言われなくてもっ!!」
万華鏡を覗き、妖の頭を捕らえる。もう一度引き金を引くと、万華鏡から見た妖の頭には、一本の光の筋が貫通して見える。次の瞬間、弾は急に進路を変え、妖の後方から頭を貫いた。弾は勢いを失わず、そのままタカの足元に着弾した。
「うわっ! びっくりしたー……足に当たったらどうするつもりやねん!」
<ごめんね~ そこに立ってるの忘れてたよ~>
「こいつっ……つーか、弾の視野ってそんな狭いもんか……?」
<えっとね、前も後ろも全部見えるよ!>
「きもっ?! ゾッとするわぁ……」
部屋にいた妖は一体だけ。残されたのは煮込まれた鍋や散乱した骨や肉、そして南京錠が掛かった冷たい扉だった。幸い、鍵は先程倒した妖の腰につけてあった。
「……物音はしない。入っても大丈夫そうだよ」
この部屋――恐らく厨房の中を見回っていたタカは、扉の前までやってくると、持っていた鍵で南京錠を外す。少し扉が開いただけでも、凍てつくような冷気が漏れ出てくる。
「牢獄の鍵はここにはない――ちゅうことは、あるとすればこの先やな」
タカはゆっくりと扉を開く。その先には――おぞましい光景が広がっていた。
「これって――“肉”?」
……そこには、宙吊りにされて皮を剥がれた、何の動物か分からない肉の塊が並んでいた。
*
「――なるほど、そこで鍵を見つけて戻ってきた、と」
某はタカから一部始終を聞いていた。通路の先にはその部屋以外無く、牢獄の全ての鍵は、その部屋に保管されていた。部屋には“下総の城”までの道が描かれた地図もあったそう。
「大蛇は下総の城にいると見て間違いない。何枚か複製もあったしな」
「圭三さんのお母様、傷は大丈夫でしょうか……他の人たちも外傷はないようですが、とても疲弊していましたね」
牢獄に囚われていた女性たちは、全員解放された。今はひとまず、圭三と共に村まで避難して貰っている。
「『暴食の大蛇は人間を食べる』――考えたくはないが、料理も肉も、人間を食べるためだろう」
「い、泉はん。ちょっと気分悪なってきた……その話、辞めよか」
「……分かった。じゃあ一つ聞きたいんだが――倒した妖には、鱗がついていたか?」
「せやな。顔にびっしり張り付いとった……というより、生えてたな」
ここまでの情報で、暴食の大蛇は赤い鱗を温厚な妖につけ、飢餓を操り統率していた。目的は人間を食べること――と予想すれば、牢獄にいた女性に鱗が無かった理由にもなる。暴食の大蛇は人間を捕らえては“生産”し、その都度調理して食べていた。考えるのもおぞましいが、直ぐに殺さないのも、女性ばかり捕らえていたのも、その女性に外傷が無かったのも合点がいく。
「そういうことなら、すぐにでも下総の城に向かいましょう。こうしている間にも、別の場所でこういったことが起こっているかもしれません」
「牡丹はんの言う通りやな。泉はん、準備はええよな?」
「ああ、下総の城に行くぞ!!」
洞窟を抜け、村から続く街道の入り口へと向かう。後ろを振り向くと、圭三が銃を持って追いかけてきていた。
「待って! これを!」
圭三は息を切らしながら、持っていた銃を差し出した。
「……ええんか? 知らなかったとはいえ、妹がおるんやろ?」
「“あげる”とは言ってない。大蛇を倒して平穏が戻ったら、ちゃんと返してくださいね」
「……分かった。必ず返しに来る。それまで待っとれ」
タカは銃を受け取り、一行は足早に村を去った。遠くに見える下総の城――そこには、現世に散らばった七体のうちの一体がいる。