プロローグ【1】 〜出会い〜
「失礼します。赤宮先輩はいますか?」
志田充は一人の少女を探して、特別棟の三階にある今は使われていない教室へとやって来ていた。
「赤宮は私だが、何か用かい後輩くん」
少女は読んでいた本に栞を挟んで閉じるとゆっくりと顔をこちらへと向けた。同時に腰の辺りまである髪が軽くなびく。
たったそれだけの動作でも充は十分に彼女の美しさを理解できた。
容姿端麗、成績優秀しかし運動だけは少し苦手な高嶺の花。そんな校内屈指の人気者、それが赤宮千鶴先輩だった。
「先輩が趣味で恋愛の相談に乗ってくれると風の噂で聞いて来たんですけど………」
「ああ、確かに私は恋愛相談、もとい恋愛推理をしているが……後輩の、それも君のような男子が来るのは初めてだ」
そういうと赤宮は少し微笑んで立ち上がる。
本を机の上に置き、充へとジリジリと距離を詰めると顎に手を当てて至近距離で顔を凝視する。
これには充も恥ずかしくなり、頬が赤く染まってしまう。
「えっと、あの……恋愛推理って何ですか?」
何か会話をして気を逸らそうと思い話題を振るが赤宮は充を凝視したまま会話を続け始める。
「私はね、恋愛はミステリーだと思っているんだよ」
「……ミステリー?」
「だって不思議だろ。何らかの確証があるわけでもなければ、明確な判断基準があるわけでもない。それでも人間はそれを恋だと自覚するんだ。全くもって理解不能だ。でも、だからこそ考察する余地が存在し推理することが出来るんだ」
赤宮は少し興奮気味で語ると、充の顔に見飽きたのか元々座っていた席に腰掛けると前の席を指さして座るように促す。
ようやく凝視される恥ずかしさから解放された充は促されるままに指さされた席に後ろを向いて座ると話の続きを始める。
「すいません。イマイチよく分からないんですけど……つまり何を推理するんですか?」
赤宮は机の上の本をもう一度手に取ると、栞を挟んであったページを開いて再び読み始める。そして視線は本に落としたまま充の質問の答えを返した。
「例えば、当人の感情が恋であるのか否か。自分が好きな相手は自分のことを好きなのか。この恋は成功するのか、そのための方法は何なのかとか……まあ、色々だよ」
「先輩はミステリーがお好きなんですね」
「別にそんなことはないよ。多少のミステリー小説は読んだりするが特別好きなわけではない」
「そうなんですか? 推理って言うからてっきりそういうのが好きなのかと」
「私も女子高生だからね、恋愛に興味があるだけだけだよ。単純に私は恋愛における思考の仕方が推理に似ていると感じてるから恋愛推理と呼んでいるだけだしね」
そこまで言うと赤宮は再び本を閉じ、視線を充へと向ける。
突然、目が合ったことに驚いた充は思わず視線をそらす。
学校の中でも五本の指に入る美少女といきなり目が合ったのだから照れないでいる方が難しいというものだ。
今まで近づくことのなかった先輩。視線を逸らす前に見えたそんな先輩の顔は遠くから見る時よりも当たり前ではあるが綺麗だった。
「それで、君は恋愛推理をしてほしくて私の所までわざわざ訪ねてきたのかい?」
「あの、わざわざって……校内なんだから来ようと思えばいつでも簡単に来れるじゃな……」
「そういう細かいことを気にする人間はモテません、以上。ほら、推理は終わったから帰りなよ」
赤宮は皮肉交じりな笑みを浮かべ、充が最初に入って来た扉を指さす。
「細かいこと気にしてすいませんでした!!」
「すぐに謝罪出来る人間はモテるよ……多分」
「多分って気になる言い方ですね」
「そんなことは気にしない気にしない。それじゃあ早速、聞かせてよ。私が君の恋愛、推理してあげるから」
これは赤宮千鶴の恋愛が解けるまでの物語。
『赤宮千鶴の恋愛推理(仮)』
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