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パズル  作者: 宵待 黒
1/2

前編


彼はライバルでもあり、私のよき理解者でもあった。


一般的にパズルと聞いて何を思い浮かべますか?

多くの人たちは、ジグソーパズルを思い浮かべることが多いと思います。

しかし、そもそもパズルという言葉は、「困惑させる」「当惑させる」。

そんな言葉を含んだ言葉なのです。


世界中で興味のある人が1人もいないかもしれませんが、私の身の上話を聞いてください。

私の母親は、毒親です。そして、私の父親はいわゆるネグレクトをする人です。

こんな家庭で、こんな毎晩言い争いの絶えない家庭で私は成長しました。

こんな家庭は、世界にも少なくないと思います。そして私も例に漏れず、まっすぐとは程遠性格になりました。学校には友達の一人もおらず、そのほかのコミュニティに属することもなく、ただ一人で孤独な日々を送っています。

しかし、こんな、これほどまでに惨めな私にも唯一と言っていいほどの幸運がありました。

それは勉強ができたことです。まぁ、それしかすることがなかった、させてもらえなかった、そう言い切ってしまえばそれまでなのですが。

こんな世界のお陰で私は毎度成績発表の一番上に名を連ねていました。


そんなある日、いつものように成績発表を確認しに行った私は、驚愕という言葉を押しつけられました。

一番上にしか無かった私の名前が一つ、ただ一つ、しかしながら確実に下に記載されていたのでした。


毎日の登下校を金銭の無駄という親がいないお陰で毎日足を使って歩いている。そんな少しだけ強靱な足がなければ私は立っていることもやっとな状況だったでしょう。


一番上に君臨していた名前は「長谷川隼人」。

今までの発表ではほかの人間の名前を見ることなど無かったので、今まで近くにあったのか。遙か下から上がってきたのかすらわかりませんでした。


私に友達がいたのなら、即座に駆け寄り愚痴を漏らしていたことでしょう。しかし、幸か不幸か、周りにそのような人などいなかったので私は自分の教室、自分の席に沈黙を纏いながら戻りました。


そんな私に、ただでさえ暗い私が暗いオーラを纏っているときに、一人の生徒が近づいてきました。

彼はどこか緊張した面持ちで話しかけてきました。

会話の仕方をうまく知らない私はうまく話せていたのか知りませんが、どうやら彼が先の「」らしいとわかりました。

彼は、励ますような、元気づけるような台詞と、次も負けないように頑張るという主張をして去って行きました。

結局、励ましたかったのか、落ち込ませたかったのかわからないなと、そう感じてしまう私は、やはり人とのコミュニケーションは向いていないのでしょう。


それから、放課後に家に帰ることがいやな私が、居残りで勉強をしている日々の中で、彼を見ることが増えたように思いました。


帰り道も、いつもは記憶が飛んだように家に着いていることが多かったのに、ふと彼を探す時間が存在していたような気がします。


代わり映えのしない灰色の日々の中に、どこか絵の具をこぼしてしまったかのように色を感じました。ただ、その色はとても鈍く、暗い、鮮やかさの抱えらも感じられないようなモノでした。


次のテストの発表でも、私の名前は探していた場所の一つ下でした。


やはり一つ上にあったのは「長谷川隼人」という文字列でした。


どこか、足下が崩れ落ち始めていたような感覚に陥りました。

あぁ、私に残っていた唯一ともいえる長所は、長所と呼ぶには惨めなものだと、そう感じてしまうようになりました。


それからも、毎日のように教室で居残りで勉強をしていました。

一つ変わったことは、彼と少しずつ話をするようになったことです。


色々な会話を繰り返すうちに、彼は私が持っていないものをすべて手に入れているように感じました。

優しい家族、信頼し合える友人、自分を形作っているものは本当に彼と同じなのか、本当に私は人間なのか、本当に私は今生きていると言い切れるのか。


嫉妬、妬み、憧れ、尊敬ほかにも様々な感情が胸の内に現れては去っていきました。


いつしか、私の中で彼と話す時間を楽しみにしている自分がいることに気づき始めました。

私は、自分という存在がわからなくなり始めてもいました。


彼に対して、好意と同時に、それとは真逆の感情を抱くようにもなっていました。

愛憎、この言葉に対して、愛情と憎悪が同じタイミングで成り立つわけがないと考えていた。

けれど、心で同時に成り立ってしまう物だと感じ取ってしまいました。


彼に話しかけたい気持ちも、彼の顔すら見たくない気持ちも。

彼と言葉すら交わしたくない気持ちも、彼の顔を見てドキドキする気持ちも。

壊れてしまいそうだった。


目の前が暗くなっていくようだった。

海の波に揺られたように、どこか穏やかな気持ちにもなった。

このまま、緩やかにおぼれてしまえたら楽なのに。


気が付くと、私は、保健室のベッドにいました。

どうやら保健室の先生曰く、過労による熱で倒れたらしいです。

ここまで来た記憶がないので、尋ねたところ

名乗るほどじゃないと言う、とある長谷川君が運んでくれていた、と言われたのです。

次の時間が体育だったので胸元に名前があったのだと、笑いながら教えてもらったが、私は穏やかな気持ちに包まれていた事実を受け止めることができないでいました。





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