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漫画剣士バキとスクランブルハンター  作者: ゼルダのりょーご
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一章…005 【十年前の出会い】


「ことの発端は、このところ各地で相次いでいる大きな地震に関するものかもしれないのじゃ」


 無人の国境を遠慮なく越えて、2人は歩き出した。

 その様子を静かに目で追い、敬礼をする兵士に見送られるように。

 現時点で持ち得ている詳細な情報を、一口に語るのは難しいようで、ルクの表情には険しさが浮かぶ。


 横目にルクの言葉を聞くと、直近に起こったことを思い返そうと、バキの視線は宙を見る。心当たりがあるような、ないようなどっちつかずの返事をルクに返す。

 

「そういや、どっかで揺れていたのかもね」


 まるで他人事のように言い、そこに実感がこもっている様子はほぼ見せない。

 ルクも、そんな気がしていたと言わんばかりに、バキの目を見た。


「まあ鈍感とまでいわんが、魔物相手に狩りを楽しんでおったのじゃろう」


 バキは素直に肯く。そして言葉を繋げた。


「戦闘で屋外を走り回ってると、地鳴りなんて気にしちゃいられないんだよな」


 剣士としての己を磨くこと以外に楽しみがないような若者。

 それが、バキだとういうことを改めて胸の奥に刻みこむようにしみじみとした口調で、ルクは、さほど悪い言い回しをしなかった。

 早朝から日没まで必死に剣の道を貫く。冒険者の大半が強さに執着するのは、大きな収入に有り着きたいからだ。レベルアップは生活の質に大きく差が出るのがこの世界の常だ。

 

「お前さんの相手はいつも、上級ばかりだ。その敵さんが怒り狂って牙を剥きゃあ、魔法の階級も一層ド派手に跳ね上がる。唸りをあげた爆音が地上に叩きつけられりゃ、自然の地鳴りとの区別などつくはずもないがな」


 バキの戦い振りを回想する。ルクは、なんだか楽しそうな口調になり、顔をほころばせた。


「俺は、()()()から魔法なんてものには縁がない。あんたと相まみえたときは、さすがに面食らっちまったが。魔法攻撃は躱すほかは手立てがないから、バトルになりゃ、いつでも運動会だよ」

「……あの日か。10年前の出会いの、あの日じゃな」


 2人の記憶はいま、10年前に飛んだ。


「わしもお前さんに出会ったときは、その強さに驚かされたもんじゃ」


 戦いの話題から、ふと出会いの日の思い出に話が飛んだようだ。


 2人の10年前となると、バキは8才。ルクは15才ということになる。

 その2人が出会い、まさか本気で戦ったというのか。いくらなんでも勝敗は見えているような気がする。

 しかし、ルクはいま、「その強さに驚いた」といったのだ。

 そのルクの言葉が最高の誉め言葉に聞こえたようで。バキは陽気な口調で返礼でもするように当時を振り返った。


「おっさんに出会ったのは、ゴブリンの巣窟だったな。そこにおっさんともう一人、王宮の戦士だっけか」

「ああ。任務でな、一時的に組んでおったやつじゃが」

「そっか。俺は強くなりたい一心でゴブリン連中を全滅させるつもりで、そこに潜り込んでいた」

「うむ。じゃが誰が見ても、お前さんはさらわれてきた不運な子供にしか見えなんだ。早う救ってやらねばと近づくと、こともあろうかゴブリンと互角に渡り合っておったわい」


 懐かしい出会い話が飛び出てきて、2人は溶け合うように笑った。

 遠い日の記憶を辿るうちにでてきたルクの一言がさらにテンションをあげる。

 

「聞けば8才。当時、わしらでさえ苦戦するゴブリンの巣を一掃するのだと言い放ち、『俺の獲物を横取りすんじゃねえ!』などと、叱られてしまいましたなぁ」


 ルクの発言に、2人は同時に哄笑した。ルクは腹を抱えんばかりに笑い声をあげた。

 バキも頭を掻きながら、それを言うてくれるな、という顔で笑った。

 そこから何だかんだとあったな、とルクは一旦、話を止めた。

 一拍置いてから、ルクが話題を切り出した。


「なんの因果か、その身から魔力の性質が消失してしまうとは。剣の腕を上げるならザコではなく強者を打つしかない。速攻で切り込み、秒でねじ伏せるしかのう」


 剣士タイプの成長法を常に目に入れて来た。傍で味方を強化をし、回復をして前衛の援護をするのが魔法使いのルクの役どころでもあるからだ。


 一発でも大魔法の攻撃をその身に浴びれば、致命傷となる可能性は高い。

 ましてや当時、バキは8才の少年だった。早く強くなり、ダメージに耐えうる体力を養う必要が彼にはあるのだった。

 その理由は単身(ソロ)であったこともある。しかしそれは他者も同じだ。


 バキには他者に当てはまらない、由々しき理由があったのだ。

 それこそいま、ルクが言った「魔力の性質を失くした体」それに尽きるのだった。

 魔法の才がない者は悲しいことに、魔法具の恩恵にも預かれないということなのだ。つまり魔力を有する装備品からは、例に挙げれば耐性などの効果が何も得られない。そればかりか、魔法での大幅な回復を受けられない。強い魔力が体内に内包されると逆に体力が消耗するという、謎の呪いのような現象が生じるらしいのだ。


「もしもあの時、魔法使いのおっさんと手を組むのを拒んでいたら俺は……いまだ王宮になんて出入りする身分でもなかったんだろうな」


 バキが一瞬、過去の陰に囚われたようなセリフを口にした。

 そのような体質であるなら、ルクと組んだとしても、コンビになるメリットがほとんどないように思われるが。しかし2人は組んで国内最強と謳われている。2人には何か互いの得になる秘密があるのかもしれない。


 その特殊な体質の割に、さきほど馬車のなかで氷結耐性の魔法を施されていた。

 バキの抱える闇に、ルクの存在が光となっているのは間違いなさそうだ。


「バキよ、未来にだって辛いことが待っているのが人生じゃ。わざわざ辛い過去に打ち(ひし)がれる必要などないのじゃ。任務が無事に済んだら酒の呑み方でも享受してやるからの」


 ルクの掛けた言葉が心に刺さったのか、バキは照れくさそうに小さく肯いた。

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