一章…024 【王子の過去】
「フレリッド王子は奴を倒したのだから英雄じゃないですか? 奴は滅んだことだしもっと喜んでもいいと俺は思いますけど」
「や……やめてくれっ! 私はそんな英雄になる資格などない男なのだ!!」
バキが陰気臭い雰囲気を吹き飛ばそうと王子を英雄だと讃え、持ち上げて見るとより一層険悪の方向へと転じたみたいだ。
ルクも首を傾げて問う。
「資格がないとは穏やかじゃありませんな、フレリッド殿?」
やれやれという表情でバキとルクは顔を突き合せた。
「うーむ。その理由を聞かせてはもらえませんかの?」
ルクの問いかけにフレリッドは取り乱したことを恥じ入るように詫びた。
続けて率直に過去を打ち明けると伝えて来た。
「どうか、このことは二人の胸に仕舞ってくれると約束してくれ」
ふたりは真剣な眼差しを向け、静かに頷き同意した。
「私はクロニクルの王子フレリッド。父のプレリュド王は魔法使いの血を引いており、幼い頃から魔法を教わって来ました……」
「王様も混血だとは伺っています」
バキが相槌をいれるとフレリッドは「そうか」といった。
フレリッドは緊張の面持ちで一言付け加えた。
「そなたらは混血だという理解を示してくれるが、ジキルのような魔族を見れば魔族の血を引きし者の蔑視を受け、半魔族と呼ぶ者もいる」
「わしも魔法使いをやっておりますじゃ。気になさらんでくだされ」
「そうですよ、その力を何に振る舞えるかが大事じゃないですか、王子様」
フレリッドは相好を崩した。
「──その後は剣技も習いました。父は幼い私に言って聞かせた『あらゆる魔法と剣技を極めた者を賢者と呼ぶ』だが全ての稽古を付けてはやれぬと。私は未熟ゆえに幾多の試練を乗り越えるための旅に出ることになった」
「なんと……」
「どうして賢者の道へ進まれたのですか? お世継ぎの選択肢があるのに」
フレリッドはバキの問いかけに目を細めた。
「父が私にそう願ったのだ。跡継ぎよりも立派な賢者に成り、魔物の侵攻によって国の危機に瀕するとき、人々の力になることを! 血筋の象徴の魔力を平和のために……」
それを誰よりも深く胸に刻んで生きて来たのがプレリュド王だったと。
フレリッドは誇らしげに語った。
「私は父を敬愛するとともに五歳になると修行の長旅に出され、二十数年を経て修行から戻って来たのです」
そのような幼子を修行の旅に送り出すとは、バキとルクは息を呑む。
「しかし──
父は病に侵されており毎日のうわ言ように私の名を呼んでいたそうだ…。
そして父は私の成長した姿を見届けることも出来ぬまま次第に冷たくなりこの世を去ってしまったんです……うっ……ううっ……」
瞳に浮かべた大粒の涙を隠す様に彼は横を向いて、声を殺して堪えた。
「会えなかったってことか……」
バキは思わずそう漏らしていた。
涙を振り切るようにふたりに向き直ったフレリッドは続けた。
「私は弔い合戦を始めたのです。昔の父の面影しかなかった私は父の念願を成就させるために……最後の修行をこの塔で行おうとしたのです」
「この塔ってことは……つまり魔法の修行……」
「以前訪れたフェスタークの学者たちから聞かされたワープ魔法の実験だ。エネルギー摩擦によって重力空間に亀裂現象を生じさせ時間の短縮移動を可能にする……あの幻のワープ魔法をこの手で開発しようと試みた。
ほとんど実験だ、魔力を異常なほど消耗するので封鎖されたこの塔に来たのだ。
魔力の回復もできる魔法陣の中でなら大幅に消耗せず、おまけに魔法陣を空間の出入り口にできればと。
そして私は天に祈り、雷と竜巻を呼び起こし強大なエネルギー摩擦で空間亀裂を起こし竜巻の引力を重力空間の変化に応用しようと思いました……」
はわわわわ……何だか超絶いやな予感に包まれたバキは情けない声を漏らす。
ルクも感嘆の声を上げた。
「ムムム…………あの幻の魔法をのぅ…………それで?」
「魔法は成功したかのように思えました。ところが私はとんでもない場所にたどり着いたのです。
その光景を目の当たりにしたときは言葉もありませんでした。
……今考えるとそこはこのジキルが住んでいたという魔界だということを悟ったのです! あのときだけは流石に焦りました。
初めての試みで力加減がわからず、その限度を超えたエネルギーの異常に気づいたらしい何十人かの邪悪なる者の気配をいち早く感じ取った私は何とかこっちの世界に戻ることに成功しました。
ほっとした私はすぐその足で城に帰ったのでした…………」
青ざめた表情で真実を語るフレリッドの言いたい答えを見抜くようにルクが口を開く。バキも察してルクのローブを千切れんばかりに引っ張った。
「そんな恐ろしいことをわざわざ指摘すんなよ!」とガクブルで引きつりながら。
「──じゃが、そのジキルという魔界の者が出口の閉じる寸前、巻き込まれて付いてきてしまったというワケか!」
「で、で、でもさ。ジキルはもう死んだことだし何も問題なんてないんだろ?」
ルクの表情がやけに硬い。
バキだって本当の馬鹿ではない、恐怖が胸に押し寄せているのを感じていた。
フレリッドは深刻な顔で口を開く。
「やはり……あなたたちは知らないのですね? ジキルが現れる前に途轍もなく大きな地震が起こった原因を……」
深刻な表情はルクもおなじだった。
「この世界にあれだけの規模の地震など起きた歴史はないがな……」
フレリッドが世継ぎの話を嘆くのには相応の理由があるだろうと、ルクはバキが見たことのないほどの真顔でその文言を吐いた。
バキは、ルクと王子の会話に翻弄され、右往左往して混乱のあまり自分の頭を掻きむしる他はなかった。




