一章…019 【白銀の弾丸】
これまで散々、コンビであったのに隣国の助っとという流れでそれに至る。
それとはつまり賢者を加えた初のPTである。
しかし3人になったとしてもこの場のバトルリーダーはフレリッド。
彼の指示により皆が何をすべきかはすでに決まっていた。
魔法使いルク。
魔法使いといっても攻撃魔法だけが主力ではない。
回復も補助もお手の物。
称号は大魔導師なのだ。
隣国のためでなくとも王命で動き、決死隊としても即戦力。
ならばもし、ここで命果てることとなるなら、エクスダッシュ国にとっても大きな損失になり兼ねない。
無論それは剣士バキも同様である。
目の前の撃破対象はただ一匹の魔物だ。
魔族の種として地上のどの国の者たちもその種の生物に覚えがないという。
草原の国エクスダッシュを南下した地点に魔族が治める国がある。
パシャルバーと臣下が魔族の王を疑った。
腹を割って話合えば無実であると判明したが。
「そのような巨躯の魔物、こちらが知りたい」と魔族の王は語っていた。
◇
「いくぜ──ッ! 速圧波動斬っ!」
フロア内の熱量が入室時とほぼ同じになっていた。
息継ぎができたのはわずかな間だけだった。
フレリッドが漏らした抜け出せなかったループ。
だがその窮地もまた一瞬で安地へと切り返したのがバキだ。
「助太刀感謝する、バキ! ヴァルファーよ、我が民たちの犠牲の報いを今こそ受けるがいい」
街の者たちの二の舞にしてやるのだと意気込んだヴァルファーの表情が青ざめる。
紅蓮の炎が瞬時に握りつぶされ、吐き出した高熱をあっさりと外に流されてしまったことに意表をつかれたようだ。その上、自分をここまで追いかけて来てなおも外の民のように容易く恐怖を植え込めなかったフレリッドが氷冷の使い手であることはすでに知り得ていたことだろう。
大きな街に地獄を与え、大勢の人命を雑草のように焼き尽くした。
レクイエムには不釣り合いな悪魔の高笑いをフレリッドは忘れはしない。
「……ッ!」
燃え盛る火炎を剣でさばきながらバキが目を見開いた。
ヴァルファーに一番近いのは彼だ。先頭に立って屋外へその熱気を逃がしながら。
背後のフレリッドに意識を傾ける。
いよいよ賢者の詠唱が発動に達するのだと知ると、バキはフレリッドの攻撃の軌道を確保するべく、じりじりと後ずさりをし始めた。
ずっと後方にルクがいて、いかなる攻めにも持ちこたえられるように守りを固めてくれている。
体力一時倍化、ダメージ軽減、魔力暴走陣、火炎耐性、さらにダメージを被る前から広範囲に樹木天恵水を。その手数は非凡であった。
樹木天恵水は毒素も取り除く回復魔法だが、魔力を受け付けないバキのために自然界の精霊と契約した貴重な加護系魔法でもあった。草木なら蘇生すら叶う自然治癒力がある。
手前の町でのモリビタンSも、精霊の力を借りた精霊魔法だった。
土地の精霊の加護なら呪いをスルーして地上の民を癒すことが可能なのだ。
それでバキも魔法効果の恩恵にあずかっていたのだ。
それこそがバキの唯一の救いの法となる、いわば精霊召喚である。
精霊は魔族の力を有していないエネルギーポッド(力の根源)なのだ。
フレリッドとバキ。
剣を扱う2人を前に自分が声を大にして回復役を買ってでる。
「さあ、お手並み拝見と参りましょうぞ」
「うん」
フレリッドの放つ氷結系の軌道を確保したバキも良き返事をした。
2人の呼吸を見計らって間を縫うように、フレリッドの声がフロアに轟く。
「来たれ! 創生の渦氷河ッ!」
言い放ったフレリッドはそのまま奴の首根っこ目掛けて大砲の玉と化した。
その姿は白銀となり、氷河を全身にまとうように真っ白な塊と化した。
「なに……それ? 賢者かっけぇ──っ!!」
人影が武装しながらかっ飛んでいく光景などなかなかお目にかかれない。
バキが思わず驚嘆する。
「バキ、気を弛めるでないぞ。賢者どのが奴に氷の塊となり激突する! その衝撃波に備えるのじゃ!」
「わ、わかってらぁ!」
賢者フレリッドの創生の渦氷河は魔法弾ではなく術者というエネルギーポッドごと威力を増幅しながら自身が大砲化するとんでもない爆裂技だった。
「ぐごごごごぉぉぉおおおおおッッ!!!」
ヴァルファーは生まれて初めてその身にあり得ない屈辱と痛みを覚えたことだろう。
巨躯の肉体はみるみる凍てつき、結晶化するかのように固まっていった。
隆々と体に浮き上がっていた血管が委縮していく。
真っ赤な火炎の象徴でもあった獄炎魔人の姿は床に落下した。
はためかせていた背中の翼は、羽ばたく機能を失ったようだ。
冷え性を患う、老人のように。哀れに無惨に、そしていまは廃人のように。
肉塊も骨もみな、砕け散るがごとく半球状の痕がそこには窺えた。
フレリッドの創生の渦氷河をまともに喰らい、瀕死状態。
なんともあっけない最後なのだろうか。
かろうじて口を利くことが許されているのか、呻き声を吐いている。
「賢者さん、とどめを刺しましょうよ!」
バキがぐったりしている怪物の喉元に剣先を向けていった。




