第十二章 虎相童子 肆
「タ、タイコウ。立ったままというのも疲れるし、どこかに座ろうか」
「それもそうだね。なら、そこは? さっきリクスウが切っちゃった木」
返事する間もあればこそ。オウメイは足早に倒木に進むと、その端に俯いたまま座り込む。
「オウメイ、なんだかおかしいけど、大丈夫? お腹痛いの? その子、重いなら代わろうか?」
心配そうに歩み寄るタイコウ。
オウメイの中で、腹がよじれると苦しみながら樂葉が笑っている。タイコウの様がまるで妻の身を案じる夫のようで、樂葉のつぼに完全にはまったらしい。
オウメイは未だに火照ったままの頬を少しでも冷やそうと、力いっぱい首を振った。
「大丈夫、ホントに大丈夫だから」
実際のところは大丈夫ではない。樂葉の笑い声が騒々しくて仕方がない。そして、その原因はタイコウだ。などとは、オウメイの口から洩れることもない。
タイコウが歩み寄るたびに、オウメイはずるずると倒木に座ったまま逃げていく。
「そう? ならいいんだけど」
いまいち腑に落ちていないという具合で一応は納得してみせるタイコウ。息をつき心を落ち着かせると、オウメイは心中で未だに笑い転げている樂葉へと意識を向ける。
(まったく、もう! 妙な事言わないでよ、樂葉!)
まだ、落ち着かせきれていないとは思うが、とにかくオウメイは樂葉に抗議した。
(せや言うたかて、ウチが陽気が好きなんは知ってるやろ? 親が子の寝顔見て顔綻ばせる姿。まさに天下泰平、幸福絶頂、家族愛万々歳。大いに結構な事やないの。おばちゃん、こういうのも大好きなんやわぁ)
(はいはい、それは良うございましたね。樂葉の陽気好きはわかったから、これ以上アタシの心を混ぜっ返すのは止めてね)
(どうやろう。それは約束しきる自信は、ウチには無いなぁ)
(自信持って。お願い)
(ところで、あんまりウチにばっか気を取られるのはあかんで。ほれ、旦那様がまた心配そうな顔して……)
「五月蝿い、樂葉!」
怒鳴ってからオウメイは樂葉の言葉を思い出し、タイコウへと振り向いた。視線の先には急な怒声に目を白黒させるタイコウ。
「あ、その、ごめんなさい。ちょっといろいろとあったものだから」
「僕こそ、ごめん。でも、その子が……」
萎縮しながら彼女と彼女が抱いたままの少女を見比べるタイコウに、オウメイは少女へと視線を落とした。
「う……うぅん……」
どうやら樂葉と話しているうちにオウメイの腕にも力が入ってしまったらしく、胸元に押し付けられる形になった少女が苦しそうに呻く。
慌てて力を緩めるオウメイ。だが、先程の一声に少女は確実に目覚め始めていた。
(あいやー、起こしてしもうたか)
(誰のせいよ、誰の)
(そりゃあ、もちろん。どこぞの娘さんの大きぃ声で……)
再び樂葉との不毛な口論を起こしそうになりながらも、オウメイはその気持ちを抑えて少女の様子を見ることへ集中する。
タイコウとオウメイが覗き込む中、赤毛の少女はうっすらと瞼を動かす。そして、彼等の存在を認識した途端、バチリと目を見開いた。
「え……?」
オウメイが声を上げる間もなし。少女はオウメイの腕を振りほどいて跳ね起きると、大きく跳ね飛んで二人と距離をとった。
「おまえ、誰!」
明らかな警戒の色を見せて声を張る少女を前に、タイコウとオウメイは唖然としたまま動けないでいた。二度三度と瞬きをすると、互いの顔を見合わせる。
二人が驚いたのは少女の並外れた運動能力でも、起床と同時に機敏な動きを見せる少女の寝起きの良さでもない。驚くべきは、見た目は人の子とはいえ遭遇した時は獣のような反応をしていた少女が片言でも喋った事だ。
「これって……」
「デイコウさんの仕掛けた術の、影響……かしら?」
驚いたまま警戒をすることもせずにいるタイコウ達の態度に焦れたのか、少女は二人を睨みつけさらに声を上げる。
「おまえ、アタシ、いじめる、悪者!」
「ま、待って、待って。アタシ達はあなたをいじめたりするつもりはないの」
少女の言葉に慌てて弁明を試みるオウメイ。
「悪者、違うか?」
「悪者じゃないの。あなたと仲良くなりたいのよ」
「仲良く?」
少女の問いかけにタイコウが小さく溜息をついた。未だに警戒の色は濃いが、どうやら少女が問答無用で飛び掛ってくる事はないらしい。
「そうね、まずは自己紹介をするわ。アタシはオウメイ。こっちはタイコウ。あなたのお名前は?」
穏やかに微笑んでそう告げると、少女はどうしたものかと悩みながらも口を開く。
「……フロウ」
「フロウ。君はこの村の子じゃないようだけど、いったいどこから来たの? 歳はいくつ? お父さんやお母さんは一緒じゃないの? ここで何をしていたの?」
少女が名乗った。話をする気があると知ったタイコウは、気になっていた事柄を次々と尋ねる。
しかし、赤毛の少女フロウはしかめっ面をしたまま小さく唸るばかりで、何一つ答えようとはしない。沈黙するフロウを前に、タイコウは困り顔で頭を掻く。
「えーっと……フロウ?」
「タイコウ。そんなにいっぺんに聞いても答えきれないわよ。そうね、フロウは誰かと一緒なの?」
聞き手交代。解答に逸るタイコウを下がらせ、オウメイが代わって尋ねる。フロウは少し寂しげに、俯くようにして頷いた。
「アタシ、寝てた。起きた。お父、お母、友達、全部、誰も、いない」
フロウの言葉にタイコウとオウメイは再び顔を見合わせ、互いに表情を曇らせた。
(目ぇ覚ましたら一人で誰もいんかった。そう言いたいんか?)
樂葉が確かめるように問う。解釈を同じくするオウメイは内心頷く。
それから、タイコウ達は少しずつフロウの事を尋ねようと試みた。
ただ、二人の問いかけに対する少女の答えは首を振って「わからない」「覚えてない」のどちらかだけ。親の名、出身、歳、仲間の行方、自分が今いる場所の事もわからない。唯一の知り得た情報は、フロウはお腹が空いているという事だけだ。
いや、収穫がもう一つ。懇々と尋ねるオウメイの姿にフロウの警戒が次第に薄まり、タイコウの差し出した御握りで完全に陥落した。
(気ぃ付いたら嬢ちゃん一人。孤独のまま彷徨って、飢えを凌ぐために偶然見つけたゼンギョウの畑を襲ったっちゅうわけか。畑荒らしとはいえ、なんやチィと不憫な話やなぁ)
無心で御握りにかぶりつくフロウを見守るオウメイ。その胸中で樂葉の溜息混じりの声が響く。
「畑荒らしの一件。被害もそう大きくはないし、事情がわかれば村長も大目に見てくれるんじゃないかな」
樂葉の言葉にか、タイコウの言葉にか。オウメイは頷いてフロウの赤毛を撫でた。フロウはオウメイの手を気にすることもなく御握りを平らげ、掌についた米粒を舐め取っている。
少女の様子を見るうちに、タイコウの心中にふと疑問が湧いた。疑問はすぐに膨れ上がり、その重みに負けるように対抗は首を傾げる。
「それにしても、フロウってデイコウさんの言ってた虎人なのかなぁ」
「うーん、確かに虎には化けたけど……。でも、虎人の血筋は遥か昔に途絶えたとも言っていたし……」
虎に化ける少女。途絶えた虎人の血。矛盾する情報から導き出される新たな可能性。その一つとして二人の頭によぎったのは、人や虎に化ける妖魔。だが……。
「美味かった。もう無いか?」
そう言って無邪気に笑う少女の顔を見ては、それを疑う気にはとてもなれない。
「虎人以外にも、そういった種族が残っていたんじゃないかな?」
「いや、虎人は他に類を見ない特異な種族だ。その娘は虎人で間違いないだろう」
タイコウの考察をきっぱりと否定するデイコウの声。タイコウとオウメイは声のしたほうへと振り返り、フロウは再び警戒の意思を露にする。
フロウの警戒も無理は無い。彼等の元に戻ってきたデイコウの背後に、昨晩闘ったリクスウの姿を認めたのだ。
リクスウに対する敵意ともとれる警戒色の視線の線上にいながら、デイコウは大して気にもしていない様子でフロウを観察する。
「ふむ。思ったよりも目覚めが早かったな……」
呟くデイコウ。それを誤魔化すかのように、少女の目覚め促進に一役買ってしまったオウメイが道士の先の発言に反論した。
「でも、デイコウさんの話では、虎人の種族は滅んでしまったと……」
確かに、虎人は滅んだとデイコウ自身が言ったのだ。フロウがその虎人だとするなら、滅んだと思われていたが生き延びていたということか。
そして、デイコウは虎人の消滅を認めて頷き返す。
「或いは、虎人の血が混じったものは少なからずいるかもしれないが、純粋な虎人の血統でなければ虎に化ける事はない。そういう意味では虎人は滅んだと言っていいだろうな」
赤毛の少女フロウは虎人。その虎人の種族は滅びている。
矛盾するデイコウの返答にタイコウとオウメイは眉をひそめ、帰還の道中にデイコウから話を聞いていたリクスウは複雑な表情を作った。
「滅びている。転じて、かつては存在したということ。娘は存在した時代からの来訪者なのだよ」
およそ信じられない事をさらりと言うデイコウに対し、その突飛な発想を言葉の上では理解しつつも納得はできないとタイコウ、オウメイは首を傾げる。
「そんな滅茶苦茶な……」
苦笑いとともにそう呟いたのは、果たしてどちらだったのか。どちらにしても、彼、もしくは彼女の仲間であるリクスウによって否定されることになる。
「俺もおよそ信じ難い話ではあるんだがよ。ありえねぇ話じゃねぇらしいんだわ、これが」
その口ぶりから、リクスウ自身納得しきっているわけではないらしい。しかし、二人ほど否定的でもない。
それは、デイコウと同行し、行き着いた先で目の当たりにした光景ゆえに。
「ふむ。どこから説明したものかな……」
未だ不信感から脱していないタイコウ達の様子に、デイコウはそう言って髭を撫でた。
デイコウがホウ大国三大道士の一人にされたのは、実力もさる事ながらホウ大国中で妖魔を退治しているというその実績からだ。その彼がホウ大国を漫遊する中、妖魔出没の噂を聞きつけ退治に出向いた先で、妖魔出没と前後して周辺住民が神隠しにあったという別の噂を耳にすることがあった。
普通の者ならば、人生に一度あるかないか。一度遭遇したらそこで人生の終演を迎えかねない妖魔出没という現象を、その実力ゆえに数多く経験したデイコウは当然神隠しの噂を聞く機会も増えた。
そして、行き着いたのが異界の妖魔が辿る道の存在である。
妖魔は異界もしくは魔界と呼ばれる異世界から、異界の門と呼ばれる時空の歪みをくぐってこのホウ大国が存在する世界へ到達する。
異界の門が如何にして発生するものかは判明していないが、それはある日突然起きる現象。その規模もさまざまであり、門の大きさによって出没する妖魔も変わっていく。
通り雨のような僅かな時間。小雨のような小規模な門の発生ならば、妖魔が訪れることもなく、誰も知らないうちに発生から消失までの工程を終わらせる事もある。だが、雨季の長雨、雷を纏う大嵐のような規模となれば、妖魔の数も増えて強力な者の来訪も起きやすい。
そんな異界の門を妖魔が異界からくぐってくるように、この世界のものがこちらから門をくぐるとどうなるか。
鍛冶場で聞いた見慣れない少女の存在に違和感を覚えたデイコウは、妖魔鬼蜘蛛の出没によってその仮説を確かめる好機を得た。そして、指南車を頼りに森を捜し歩いた結果発見したのが静まりつつある時空の綻び、異界の門の発見だった。
「異界の門が消える瞬間に、その門にいた者がどうなるか。その娘、フロウの様子からすれば、門の消失とともにこの世界が持つ時間の概念の外の存在となるらしいな」
一人納得顔のデイコウを前に、タイコウが待ったをかける。
「つ、つまりですよ。フロウは遥か昔に発生した異界の門と一緒に消えて、この数日のうちに発生した異界の門と一緒にこの世界に帰ってきた、と?」
「虎人の滅亡から数百年。異界の門が再現されるまでの間、この世界の時間から外れていたからこそ、フロウが少女の姿を保っていられたのであろうな。でなければ異界の門の中で天寿をまっとうしているはずだ」
デイコウが頷き返す中、一同の目が話題の中心人物フロウへと向く。
どうやらフロウにはデイコウの説明が難し過ぎたらしく、話についていけずにただただ退屈そうに大口を開けて欠伸をしている。
「出来ることなら、元の時代に戻してあげたいけど……」
いたたまれない気持ちに洩れ出たオウメイの言葉に、良い返事が出来る者はいない。
「もじゃ子の時間は異界の門と一緒に消えることで微塵も動きはしなかったかもしれねぇが、それは逆戻しに動く事もねぇからなぁ」
「アタシ、もじゃ子、違う。フロウだ」
今ばかりは困り顔で言うリクスウに、フロウが牙を剥いて返す。タイコウ達に打ち解けつつあるフロウだが、どうにもリクスウとは反りが合わないらしい。
「とにかく、フロウは保護しよう」
言ってデイコウはフロウの頭を撫でる。
「村の子として育てるなら、それも良い。いや、もし村長が許してくれるようなら……」
リクスウといがみ合っていたフロウは僅かに驚き目を見開いた。だが、頭に触れる道士の大きな手に最早会う事も叶わない父のそれを思い出したのか、抗いもせず心地良さそうに喉を鳴らす。
そんな少女の様子にデイコウは頷き、途切れさせていた言葉を続けた。
「フロウを儂の娘として育てようと思うのだ」
太く渋い声で放たれたデイコウの提案。
今日一番の衝撃に呆然とするタイコウ達の脇を、一陣の風が過ぎていった。
空は青く、漂う綿雲はたなびく風によって少しずつその姿を変えていく。リクスウは、ただただぼんやりと空を見ていた。
いつもと変わらない平穏そのものの天気。心が荒んでいる者ならば空一面に広がる青に心洗われ清々しくなるか、でなければその晴天さえも気に入らないと心を暗雲に曇らせるだろう。
頭を上げる事も無く空を見ているリクスウ。見上げなくても見える。そう、彼は大地にその身を大の字にして寝かせていた。
「立てるかね?」
リクスウにそう尋ねてきたのは、ホウ大国三大道士デイコウ。
蒼天へと向けられた視線を遮るようにして覗き込むデイコウに、リクスウは力無く笑い返した。
「問題ねぇと言いてぇところなんだが……。こいつはちょいとばかり当たり所が悪かったなー。全く、まーったく、足に力が入らねぇよ」
その言葉に偽りは無い。全身に受けた痛みに四肢が痺れ、感覚こそあるものの脳から伝わっているはずの「動け」の指令に従おうともしない。
リクスウに痛みを与えたのは、眼前のデイコウ。
赤毛の虎人フロウを保護した翌日、彼等は早朝から組み手を行っていた。リクスウがオウメイに立禅を命じられた経緯を知ったデイコウが提案したのだ。
曰く、リクスウの気を集中させるなら立禅の静の中よりも健闘の動の中に身を置いたほうが成長が早そう。
どちらから開始を告げるでもなく始まった組み手は一方的な展開だった。飛び掛るリクスウに対してデイコウが殴る、蹴る、投げ飛ばす、デコピン等々、対処こそ違えどもリクスウが返り討ちにあうという結果は総じて同じ。
数日前、タイコウと組み手をしていた時と同じ立場になった今のリクスウに、空の青がやけに高く遠く思える。数日前のリクスウの立ち位置にあたるデイコウが空を見上げる姿を視界の端に捉え、リクスウはもう一度力無く笑った。
上には上がいる。リクスウは今、それを文字通り痛感している。地に寝そべるタイコウに対して空を見上げ言った自身の言葉が、空から振り落ちてきたようだ。
そして、リクスウが強いと認めたデイコウでさえ、まだ上を見上げている。
(全く、まーったく、武の高みってのは呆れるほどに高ぇなぁ……)
青年の顔に、空を映す隻眼に、道士は何を見たのか。デイコウは休憩を告げるでも無くリクスウの隣に座り込み、息をついた。
「儂もまだまだ青いな。若さを目の当たりにして、つい加減を忘れた」
「手加減無し、か。ありがてぇ。それでこそ価値もあるってもんだ」
二人がしばしの休息に入る中、その輪の中に入るものがいた。
軋む木戸の音にリクスウ達が目をやると、そこからのそりと顔を出したのはタイコウ。
タイコウは晴天を眩しそうに見上げたあと、足元に転がっているリクスウの姿にぎょっとする。
「タイコウ、大丈夫?」
「おまえの面ほどじゃねぇよ」
心配そうに覗き込むタイコウに言って返すリクスウ。
タイコウの顔はさほど悪いものではない。凛々しいとは言えないが、年の割には幼さが見える整った顔立ち。少なくともゼンギョウ村の主婦達が総じて可愛いと評するぐらいは良い。
ただ、弱々しく笑う今のタイコウは目の下にくまを作り、いくらか見た目が悪くなっていた。
「さすがに徹夜で研ぎばかりだったから、ちょっと疲れたかなぁ」
ゼンギョウの村人達から追加で頼まれた研ぎの依頼を、彼は一晩中かけて仕上げていたのである。
タイコウも何も普段から無茶な依頼のこなし方をしたりはしない。ひとえに、間近となった旅の再開の為だ。
「顔洗ってこいよ。少しは目も覚めるだろ」
リクスウの進言にタイコウは素直に頷き、ぼんやりとしたまま小屋裏の井戸へと歩いていく。
「あれもまた、若さか……」
髭を撫でながら呟くデイコウの横で、リクスウはようやく体の自由を取り戻した半身を起こした。
「全く、まーったく、あいつもおっとりしてるかと思えば、たまに無茶をしやがる。いや、無茶と言えばオッサンもだ。あのもじゃ子を養子にするとはな」
「虎人は勇猛な一族と伝えられている。フロウも類に洩れぬ。このゼンギョウ村の娘として平穏に過ごしてもらいたいところだが、いずれは平穏に耐えられず村を飛び出すだろう。ならば、いっそ儂とともに国を巡りながら生きる術を学ばせるべきだと思ったのだ」
デイコウにとって、フロウは養子でもあり弟子でもある。三大道士に才を認められた虎娘の将来を思ったリクスウは、ニヤリと笑みを浮かべた。
フロウが大国に名を馳せた時、ホウ大国に四大道士ありと呼ばれるのか。それとも、次世代の三大としてデイコウの座に代わって君臨するのか。
「もじゃ子の成長が楽しみだ」
「それこそ親の醍醐味というものだろう?」
休憩終了とばかりに言葉を交わし、二人は再び立ち上がり構える。
張り詰められていく弓のように、リクスウとデイコウの間で空気が張り詰めていく。
「そう言えば、噂のもじゃ子はまだ寝てんのかい?」
「いや、フロウならオウメイ君と一緒だ。森で暮らすうちに随分と体が汚れてしまっているのでな。一緒に行水をすると言って二人で裏の井戸へ……」
デイコウの言葉が詰まり、張り詰められていた空気が一気に弛緩した。
「しくった!」
「これはいかん!」
二人が顔を引きつらせるのと同時に、小屋の裏からオウメイの悲鳴が上がった。
~次回予告、オウメイ語り~
旅を続けるアタシ達に立ちふさがる大河。
ホウ大国最大の河川、紫髭を前にして、アタシ達は足止めにあう事になりました。
渡河しようにも船はある人物の一言で、出航を禁じられてしまっているのです。
その者の名はメイケイ。
アタシと同じ巫女であり、紫龍を崇める拝紫教の教主。
お偉い巫女の御信託。河を渡るは相成らぬ。
神が怒っちゃ敵わぬと、大河を前に立ち往生。
信じる者は救われる?
次回『第十三章 神龍教主』に乞うご期待♪