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妖怪マニアの転生ギルド生活 その3  作者: 音喜多子平
ギルドマスターとしての生活:信頼
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1-6


「えと、じゃあ次は」

「私達ですね」


 目線を送るよりもまず先にハヴァが返事をした。


 すると目の前の机を通り抜けて円卓の中央に立ち、俺に体の向きを合わせた。


「レイスですので飛行というよりも浮遊と呼んだ方が正しいかもしれません。浮かぶための条件は特にございません。室内であっても普通の壁であればすり抜けることもできます」

「それは知ってる」

「それと私達は反対に着地する機会がほとんどありません。ずっと浮かんでおりますので滞空時間という点では無限ということになるのでしょうか。物を掴むときは思念を送って動かすのですが、あまり重たいモノは無理です」

「どのくらいのものまでならイケるの?」

「正確ではありませんが、人間一人を浮かばせるのが精一杯かと」

「わかった。ありがとう」


 聞く前から分かっていたことだが、ハヴァにはやはり諜報活動的な事を任せる機会が多いだろう。元々『ハバッカス社』はそれで成り立っているギルドな訳だから、お手の物。普通なら入れないような場所に入れるのは、具体的な例を挙げられなくても重宝するのが目に見えている。


「では、最後は我であるな」

「うん。お願い」


 そして最後にタネモネの番となった。


「知っての通り、我は吸血鬼である。どちらかと言えばハヴァ殿と同じく浮遊に近い飛び方をする。だから別段、飛ぶために場所などは選ばない。滞空も得意だ。荷も人間10人程度の重さなら運搬できる。スピードは落ちるがな」

「あ」


 タネモネのスピードという単語を聞いてまた着想を得た。そう言えば速度の事を聞いていない。ただ、今タネモネの話の腰を折る必要もないから、俺は手帳の隅に覚書として「スピード」と書いた。


「それともう一つ、我は全身、もしくは一部を蝙蝠に変身させて飛ぶこともある。最大で五十匹程度にはなるから、広範囲の散策などが必要な際は申し出てもらいたい」

「ええと、飛べる時間は?」


 そう聞くと、タネモネは少しだけ渋い顔になった。何か落ち目があるのか?


「うむ、それなのだが…夜のうちはいくらでも飛び続けられる。だが、陽の光を直接浴びているとそれも難しい。その日の体調によっては飛ぶ事も儘ならなくなってしまう」

「あ、そうなんだ」

「うむ。基本的にウィアードを相手取る時は夜が多いので、そこまで気にすることではないとは思うが、念頭に入れておいてもらえるとありがたい」


 やっぱり何だかんだで吸血鬼なのだから陽の光に弱いのは当然か。まあ、アレだ。灰になったりしなくてよかったけど。それに本人の言う通り、妖怪退治は基本的には陽が沈んでからになる。大きく行動を制限されることはまずないだろう。


「各人の飛行能力についてはこのようなところでしょうか」

「あ、あとタネモネが言って気が付いたんだけど、速度って言うのかな? みんなどのくらいの速さで飛べるの?」


 すると、またしても全員がお互いの顔を見合わせる。みんなが一度は他のメンバーが飛ぶところを見たことはあるだろうから、頭の中でイメージしているのかもしれない。


「例えば単純な競争をした場合、距離にもよりますが、まずナグワーさんが圧勝でしょう」

「時点でサーシャ様、そしてタネモネ様といった具合でしょうか。私は人間の駆け足くらいの速さしか出すことができません」

「そっか。やっぱりこうして聞いてみると、みんな色々と特徴あるんだね。参考にするよ」


 みんなの特色について俺なりに簡単にノートにまとめてみる。そうしていると、ふと子供じみた妄想が浮かんできてペンを止めてしまった。そして神妙な顔でもしていたのか、ハヴァが様子を尋ねてくる。


「どうかしましたか?」

「え? ああ、いや空を飛べるっていいなって思ってさ。俺も自分で飛べたらいいなって何度か思ったことあるし」

「我は生まれた時から飛べることが当たり前だったからな。ヲルカ殿の感覚はよく分からぬな」

「こんなに魔法が溢れてるんだからさ、飛べる魔法とかってないのかな?」


 するとハヴァ以外の全員が、ふっと笑った。ひょっとしたら空を飛ぶのを羨ましがられるのはこれが初めてじゃないのかもしれない。その度に空を飛ぶ魔法の話題が出てきていたりして。


「自分は、古の青魔法に魔力で翼を作るものがあったと聞いた事があります。が、現代ではほぼ不可能といってよろしいかと。飛行可能な種族に生まれなかった以上、飛行動物や魔力駆動の機械を頼るほかありません」

「うむ。ヲルカ殿がお望みとあらば、我はいつでも貴公を抱えてでも空中散歩に出かけるつもりであるぞ」

「わたくしもいつかのようにこの翼を君のために羽ばたかせますよ?」


 タネモネとサーシャがそんなアピールをしつつ胸を張り、手を差し伸べてくる。天使と吸血鬼に空中散歩に誘われるというのは、中々に感慨深いシチュエーションだ。ただ二人ともプロポーションが良いので、そんな堂々とされると目のやり場に少々困ってしまう。


「あるいはヲルカ様も死んでレイスになれば、飛ぶことは可能です」


 まごまごしている内にハヴァが、聞こえるか聞こえないか分からずそれでいてしっかりと聞こえる声で呟いた。


 俺を含めて全員が言葉を失ってしまった。冗談なのかどうなのかが分かり辛いのも性質が悪い。


「それは…遠慮しておくね」


 何とかその一言だけをひねり出したが、妙な空気を一新することはできなかった。


読んで頂きありがとうございます。


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