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妖怪マニアの転生ギルド生活 その3  作者: 音喜多子平
ギルドマスターとしての生活:信頼
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1-5

 そう言った途端、みんなが今までの確執を一旦すべて忘れて、きりっとした表情になる。やっぱり長年ギルドに従事してきたプロって違うんだなぁと、のんきな事を思うくらいには俺も余裕を取り戻していた。


「今回、調査しにいく『グライダー』事件なんだけど、思い当たる節があるウィアードが数体いるんだ。特定できていないから、弱点とか対処法とかは現地で確立するって形になると思う」

「相手が空を飛ぶウィアードであることは間違いないのですか?」

「うん。それは十中八九間違いないと思う。思い当たっているどのウィアードの場合でも空を飛んだり滑空したりするはずだから」

「ですと、空を飛べる者を選出するのは正しい判断かと思います」

「あ、それで確認なんだけどさ、みんなはどうやって飛ぶの?」


 俺がそう聞くと、全員が言葉に詰まりお互いの目を見て若干の狼狽を見せた。何と言っていいのか、みんなが言葉に困っている様子だ。


「どう、と言われても困ってしまうな。普通に飛ぶとしか…」

「そっか…でも俺は飛べないから普通が分からないんだけど」


 普通に飛べないからね、俺。けど反対に、例えば足のない種族にどうやって歩くのか、と聞かれたとしたら同じように返事に困っていたとも思う。


 するとまたしてもサーシャが提案をしてきてくれた。助かる。


「では、一人ずつ細かく確認してはどうでしょうか。わたくし達は確かに飛べますが、飛び方も癖もまるで違いますから」

「そうだね。じゃあ早速、サーシャから聞かせてもらってもいい?」

「わかりました」


 言うが早いか、サーシャは椅子から立ち上がり少し下がってスペースを確保した。そして背中に生えている雪が黒く見えるような純白の翼を惜しげもなく広げた。


 それだけである種の神々しさがあり、少しだけサーシャが光って見えた。本人の美貌とも相まって、下手をしたら目がつぶれてしまうかも知れないと半ば本気で思ってしまった。


「わたくしは天使族ですので、御覧の通りこの背中の翼で飛びます。その関係で室内や羽を広げられるほどの広さのない通路では動きが制限されてしまいますが」

「あ、それもそっか」

「ヱデンキアは狭い路地も多く、そう言ったところでの飛行が求められるとお役には立てません」


 確かに、空を飛ぶって便利な能力だとは思うけど制限は多そうだ。サーシャの言う通り、各人の飛び方の癖や必要な条件は頭に頭に叩き込んでおかないと、いざという時に足元をすくわれてしまうかも知れない。


 そうなると…。


「空を飛ぶとなって、気になる事ってあとは何だろう?」


 確認したい事がありすぎて、反対に何を聞けばいいのか分からなくなってしまっている。すると今度はナグワーが助け舟を出してくれたのだった。


「『ナゴルデム団』では飛行可能な種族に対して積載重量も確認を取ります。救助や護送をする機会が多いので」

「ああ、なるほどね」


 確かにどれだけ重いものを持てるのかは重要だ。文字通りね。


「それでいいますと、私は人間一人を抱きかかえて飛ぶのがやっとですね。ただ、そうした場合剣や魔法を使うのも難しいかと」

「ふむふむ」


 俺は手帳を開き、サーシャの教えてくれたことを殴り書きにする。後で覚えるから字が汚いのには目をつむろう。


 そして一つ質問が思い浮かぶと、それが呼び水となって連鎖的に気になる事が分かり始めた。


「じゃあ滞空時間は? あとホバリングっていうのかな? 移動しないで空中には居続けられるの?」

「十分に羽ばたけるスペースがあれば可能です。滞空時間は…厳密に計ったはことはありませんが、特別な事をしなければ半日程度は止まらずに飛び続けられるはずです」

「すごい。半日も? 疲れないの?」


 疲れるに決まっているのに、アホなことを聞いてしまった。


 サーシャはそんな質問にクスリと笑ってから答えてくれる。


「勿論、疲労は蓄積します。連日に渡って半日以上も飛ぶとなると流石に…」

「そりゃそうだよね。オレだって半日歩きっぱなしだったら疲れるし」

「はい。ですので、わたくしの翼は人間の足の感覚とほぼ同じと思ってもらって構いません」


 移動するために使う体の部位と考えれば、翼と足は似た様なものか。まあ、タネモネとハヴァは翼で飛んでいる訳じゃないから、やっぱり確認は必要だけど。


「じゃあサーシャとの話をまとめると、『飛ぶための地理的な条件』、『積載重量』、『滞空時間』、『空中で留まれるか』を教えてもらおうかな。次は順番にナグワーで」

「了解であります」


 サーシャを起点に時計回りで飛行能力の詳細を聞く流れができた。


 ナグワーは起立すると、如何にも兵隊さんのようにキッとした口調で自分の身体的特徴について解説を始める。


「自分はドラゴニュートであります。その為に飛ぶ場合は変身を必要とします」

「今朝のやつか」


 頭の中に今朝の訓練場での場面が思い浮かぶ。『黒龍』ってやっぱカッコイイな、と改めて思った。まあ、アレだ。龍が嫌いな男子はいないだろう。


「はい。ご覧になって頂いたのでお分かりかと思いますが、サイモンス殿よりも更に広いスペースを必要とします。条件としてはこの中の誰よりも難題になるかと思います」

「確かに」

「次に積載重量ですが、持ち物の形状などを無視して単純な重量で考えれば1t程度のモノなら運べます」

「い、1t!? マジで?」

「はい。しかし体力の消耗は激しく日に精々二、三時間程度しか飛び続けることはできません。それに同じ場所に留まることは苦手であります」

「ふむふむ」


 てことは要するにパワータイプって事かな。大がかりな事を任せるならナグワーに頼る機会が増えそうだ。そして経験上、大がかりな出来事は起こるんだ。このヱデンキアでは。

読んで頂きありがとうございます。


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