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妖怪マニアの転生ギルド生活 その3  作者: 音喜多子平
ギルドマスターとしての生活:結託
35/37

6-1


 牛打ち坊退治は実際の戦いよりも、その下準備と後片付けの方が大変だったように思える。


 特に後片付け。


 爆発四散した小屋の撤去。

 ボヤ騒ぎとはいえ発生した火災の後始末。

 俺達を労い賛辞の言葉を送るギルド民やファンへの応対。

 避難の際に転倒などした怪我人の手当て。

 騒ぎを聞きつけやってきた『ハバッカス社』の取材への対応。

 公園使用後による報告書の提出。


 などなど…。


 使いを出して『中立の家』のみんなが来てくれなかったらと思うとゾッとする。彼女たちのおかげで何とか日を跨ぐくらいの時間には万事を終わらせて帰宅することが叶った。


 ところで帰路の道中、皆の心配の声が痛かった。自覚はなかったが俺は物凄く青い顔をしていたらしい。確かに魔法は全力で立て続けに貸与術も使用していた。それに『中立の家』に入ってからは連戦に次ぐ連戦だったし、皆が優秀で正誤性が高い情報を仕入れくれたおかげで毎晩のように対策と計画を練るばかりで寝る間も惜しんでいたのだ。


 いい加減に体力も限界かも知れない。


 妖怪の事となるとついテンションが上がってしまう。前世での失敗から何も学んでいない。これはアレだな、アホだな。


 いつかの学生時代にヤーリンと一緒に魔法の特訓をした時も似た様な事があった気がする。興味を持つと歯止めが利きにくくなるのは自覚しているのに、気が付くと燃え尽きるまでやってしまう。ここまでくると性分だから仕方としか言えない。しかも死んでも治らない筋金入りだ。


 やがて『中立の家』に戻ると、否応なしに寝るように指示された。当然ながら女性十人を言いくるめることなどできるはずもなく、大人しくシャワーで泥を落とした後、俺はとけるようにベットに寝入ってしまった。


 ◇


 ヲルカを自室に押し込めた後、十人は皆で会議室に集まっていた。他ならぬワドワーレが召集を掛けたせいだ。呼び出した者が呼び出した者だけに皆はそこはかとなく緊張感を抱いている。


「とりあえずウィアード退治と後片付け、お疲れ様」

「ええ。お疲れ様でした。それで本題は何でしょうか?」


 サーシャが単刀直入に、お得意の眼光と共に鋭い言葉を飛ばす。しかしその程度の事でワドワーレがペースを崩す事などはなかった。むしろ反対に彼女は全員が目を丸くするようなことを言い出した。


「ちょっと柄にないことするから、せいぜい驚いてくれる?」

「柄にもないこと?」


 そう言ってワドワーレは姿勢を正し、深々と頭を下げた。


「いつもの調子で今までは大分調子に乗った言動をしてしまいました。これまでの全員に対する非礼をお詫びします」

「「…!?」」

「その上で提案したい。当面はオレ達全員が手を取り合って協力することできないかしら?」


 今度こそ全員が狼狽の色を露わにした。中には椅子から立ち上がる者さえいた。それだけの異常事態だったのだ。


 いつか誰かが協定の案を持ち出すだろうとは全員が心のどこかで予想していた。だが、それは恐らく調和を重んじる『アネルマ連』、連帯を尊ぶ『ナゴルデム団』、損益を優先する『タールポーネ局』、規則を体現する『サモン議会』のいずれかのギルド員から持ち掛けれると誰しもが思っていた。


 それと同時に享楽主義の『ワドルドーベ家』が協力を持ちかける事だけは絶対にないとも確信していた。


 だからこその反応だった。


「ワド…ちょっと、どうしちゃったの?」

「ちょっと思う事があってね」

「詳しく聞かせてもらおうかのう」

「んー。口で説明するのがなんとも苦手なんだけど…抽象的な答えでいい?」

「ボクは構わないよ。切り返して君の真意を問おうじゃないか」

「まずは…ハニーといると面白そうだからって理由かな。この十一人の奇妙な共同生活も含めてね」

「ふむ。実に君らしい答えだね。少年が繰り広げる言動は興味深いと言うのは同意見だ」

「そう。だから極力この関係性を維持することに協力的になっても罰は当たらないと思ってる訳よ。少し前に話にも出てたが、このギルドの瓦解はここの全員にとっての不利益だ。その点においては意見が一致するだろう?」


 当然ながら、それを否定する者はいない。


 今はヲルカとの友好的な関係を築き上げる事が何よりも大切だと言うのはその通りだったからだ。


 ワドワーレは言葉を続ける。


「と、思っていた矢先。あんな青い顔して帰ってくるんだもの。ウィアードを相手にできるのは現状ハニーだけなんだから、それ以外のところで心労を掛けたくないじゃん? ま、あんたら全員、『お前が言うな』って思ってるだろうけど」


 それは図星だった。


 するとヤーリンが降って沸いた疑問を口にした。


「えと…このギルドの瓦解ってどういう事ですか? そんな話してましたか?」

「ああ。実はお前らが『パック・オブ・ウルブズ』の事件に向かってるときに、残ったメンツでこうやって集まったんだよ。ハニーがいないときじゃないとできない話もあるだろ?」

「アタシも初耳…」

「ウチも何だけど」

「その時に何か話が出たのかや?」


 ワドワーレはカウォンら『パック・オブ・ウルブズ』の事件に駆り出されていた四人の疑問を肯定した。そうしてヲルカがここにいる十人の裏の目的に気が付いていることを示唆する。


「ハヴァが指摘してきたんだけどね…ハニーはオレ達の目論見に気が付いているかも知れないと」

「はい。左様でございます」

「目論見…って何ですか?」

「とぼけなくてもいいよ、ヤーリン。目論見ってのはつまりヲルカ・ヲセットを色仕掛けでも何でもいいから誘惑して自分たちのギルドに引き込めって命令だ」

「…っ」


 そう言われてヤーリンは一気に青ざめた。確かにそういう類の任務も受けてこのギルドにやってきていたからだ。しかし、それが悟られているというのはまだ経験の浅い彼女にとっては予想外の事だったのだ。


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