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「ところでヲルカ達の方はどうだったの?」
するとヤーリンが話題を変えてきた。急だったので俺は何も取り繕うことなく今日起こった事を口にしてしまう。
「一瞬、十階から落ちて死にかけた」
「え!?」
驚いたのはヤーリンだけではない。その場の全員が立ち上がったりしてどういう事かと聞いてきた。そりゃそうだろう。変なポーズを見せて元気なのをアピールしつつ弁明をする。
「でもこうしてピンピンしてるよ。あ、そうそう。なんとさ、フェリゴが助けてくれたんだよ」
「え、フェリゴってあのフェリゴ君?」
「そうそう。あいつがいなかったらマジで死んでかも…」
「でも、なんで?」
「今『ハバッカス社』に入ってるのは知ってるだろうけど、ハヴァさんに取り入ろうとしてオレ達のこと調べてたみたい。うまく出し抜かれてハヴァさんに重要そうな書類にサインしてもらってた」
「相変わらずだね…」
俺とヤーリンは込み上げてきた懐かしさで破顔した。ケラケラという笑いが響いたが、すぐにカウォンの冷水のような冷たい声にかき消されてしまう。
「二人とも、察するに共通の友人の話題で盛り上がってるようじゃが、今すべき話かのう?」
「あ」
「ご、ごめんなさい」
そうだった。まだみんながいてギルドの任務の最中だった。
慌てて謝罪の言葉を述べると何故かマルカが口をとがらせてふてくされたような顔をこちらに向けてきていた。
「むー。やっぱ、ヤーリンちゃんの幼馴染キャラは強いよね。お姉ちゃんもヲル君と思い出話で盛り上がりたいなあ。エッチな話でもいいけど」
「なんですか、それ!」
エッチなと言う単語にヤーリンは露骨に反応した。思春期だからしょうがないね。前世の中学での記憶が思い返された。
その時ラトネッカリが好奇心に満ちた瞳でこちらに近寄って聞いてきた。
「そう言えば今回新しく捕まえたのはどういうウィアードなんだい? 部屋の中で飛ぶ以外にも能力はあるんだろう?」
「山地乳ってウィアードなんだけど…」
俺は早速、山地乳を体に貸与して見せた。ムササビのような皮膜が現れ、先に見せた浮遊能力と一緒に空中での立ち回りが可能になった事を説明する。
「ふむ。空中戦術は有意義だが、他のウェアードに比べるとウィアードらしさに欠けるな。まるで普通の野生動物のような…」
「他にもあるよ。夜な夜な寝てる人の口から寝息を吸って寿命を変えることができるんだ」
俺がそう言うとマルカがキャッと短い悲鳴を上げた。
「それってヲル君は誰でも寝込みを襲ってキスできる能力を手に入れたって事?」
「ちょっとヲルカ! どういう事!?」
「解釈の仕方がおかしいだろ! そんな事は一言も言ってねえ!」
「そんなウィアードの力を使わなくたってこの家にいる奴らはみんなOKしてくれるだろ?」
「うむ。ボクはいつでも歓迎だ」
「むしろキスだけで事足りるのう?」
「いや、ウチはまだ心の準備が…」
「なんで俺が寝込みを襲う前提で話を進めてんだ。しないから!」
俺がそう叫んだ瞬間から部屋がしんっと静まり返った。誰しもがしょんぼりとして意味深な瞳を向けてきている。
皆さん、残念そうにしないでもらえます?
ちょっと子供には見せられない妄想が始まっちゃうから。
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