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それから飛行チームと別れて会議室へと入る。
アルルが気を利かせてお茶を出してくれたというのに、それに口をつける間もなく俺は急くように聞いた。
「それで? どうだった?」
「報告を円滑に進めるために、ボクが先に概要をまとめておいた」
「そうなんだ。ありがとう」
ラトネッカリがレポートを差し出してきた。斜め読みしただけだが、噂の正誤と一緒に怪しげな情報などが事細かにまとめられていて正直メチャクチャ読みやすい。大学でレポートを書くのに散々苦労してきた俺からしてみれば、これが一番魔法に思える。
「え、ヤバ。こんな短時間でここまでまとめられるんですか?」
「ふふふ。いいよ、もっと褒めてくれたまえ。それを見れば分かると思うがボク、ヤーリン君、マルカ君は渡された資料の真偽正誤の確認に勤しんだ。結果はそこのレポートにまとめてある通りだ」
「てことは…」
俺は今名前の出なかった三人の顔を見た。それぞれが物言いたげな表情を浮かべながらジッと俺を見てきた。俺はそこから悲壮感や焦燥感を感じ取っていた。
「アルルとカウォンとワドワーレは何か別の進展が?」
「オレの場合は特別任務の方だ。言われたような場所とかに当たりはつけておいたぜ」
「そっか。ありがとう」
「儂とアルルは少し妙な事件に出くわした」
「妙な事件?」
自分の鼻がピクリと反応したのが分かった。我ながら悲しい性分だ。
「うむ。被害に遭った者たちが似通っているから恐らくは同じ事件だと思うが、そもそもウィアードが絡んでいる事件かどうかの判断すらできていない。最終的な判断はヲルカに任せようと思っての」
「どんな…事件だったの? てか、二人とも大丈夫なの?」
「うん、ウチらはその事件の話を聞いただけだから」
「ただし確実に『カカラスマ座』と『アネルマ連』に実害が出ておる。もしウィアードの絡んだ事件だとしたら…迅速な対応を願いたい」
「まずは聞かせて」
オレは二人の話を懇切に聞き始めた。
まずアルルの話はこうだった。
数カ月前から『マドゴン院』の医師までが匙を投げるような奇病が『アネルマ連』のギベル商店街で流行しているらしい。その病にかかると高熱を出し、まるで毒を盛られたかのように苦しみ悶え、やがて死に至るという。
この病気が奇病たる所以はそれを患う者達に特徴があった。
どういう訳かケンタウロス族だけがその奇病に罹ってしまうのだ。その致死性は凄まじく今現在を持って患者の死亡率は100%で老若男女問わず亡くなっているらしい。不幸中の幸いなのは病気に罹る人数が少なく、それでいてどうやら周囲に感染することはない点だ。
次いでカウォンの話はこうだ。
というよりも大よその概要はアルルの話と似通っていた。『カカラスマ座』のギルド員の中で謎の奇病が流行している。症状もやはりそっくりだが、患うのはミノタウロス族という点が異なっている。
むしろここまでの話を統括するとケンタウロス族とミノタウロス族だけが罹る病気のような気さえする。
「どうじゃろうか?」
「『アネルマ連』はケンタウロス、『カカラスマ座』はミノタウロスが原因不明の病か…」
ベルギ商店街のあるワフル地区とズキア劇場のあるチモタボ地区は隣合わせ。仮にウィアードが関わっているとしても整合性は取れている。問題は被害に遭っている種族だ。
「ウィアードは人間を襲うのが普通だけど…」
種族が幅広いヱデンキアだと亜人も人間扱いされるのか? それにしたって種族が偏り過ぎてる。てことはひょっとして亜人としての特徴に関連してるのかな。つまりはケンタウロスは馬、ミノタロスは牛の性質も兼ね揃えている観点から考えてそれらを襲う妖怪だとは考えらないだろうか。
馬や牛を狙って襲う妖怪には…一つ心当たりがある。
ともすれば。
「カウォン、アルル。もっと詳しく調べてほしいことがある。聞いてほしいことを後でまとめるから、聞いてきてもらってもいい?」
「是非もない。何でも言うてくれ」
「ウチも。すぐにだって出られるよ」
「今日は無理にしても、明日の朝くらいまでにはまとめておくから」
もしもオレが想定している妖怪だとすれば対応レベルを最優先にしないといけない。人間を襲う事はないが、亜人が被害に遭うのはヱデンキアにおいては人死にと一緒だ。しかも被害者はアルルとカウォンに近しい人たちもいる。
それだけが理由ではないが、俺の中に一つの熱が生まれた。
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