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妖怪マニアの転生ギルド生活 その3  作者: 音喜多子平
ギルドマスターとしての生活:信頼
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1-2

 何これ? どういう事?


 ワドワーレはしばらくは何も言わずただじっと天井を見ている。その間俺は手持ち無沙汰になり、ワドワーレの顔を見ることしかできなかった。化粧をしているというのもあるが、やっぱり顔立ちは凄い整っていると改めて思う。


 個人としては濃いメイクは結構好きなのだが、ワドワーレの場合は元の顔を損なうメイクになっているような気がする。尤も俺には化粧のうんちくなどは一切ないのだが。


 そんな事を考えていると、ワドワーレはようやく口を開いた。


「やっぱり好きなんじゃないの? ヤーリンのこと」


「幼馴染だって…まあそうは言っても顔はいいから、言い寄られると意識はしちゃうけど」


「へえ。ちゃんと意識はしてんだ。ちゃんと女の子が好きなようで安心した」


 ワドワーレは軽くはにかみながらブラウスのボタンを外していく。次第に胸元が肌蹴ていくのだが、俺は軽くあしらってやった。からかう気満々なのが透けて見えるからだ。


「脱ぐなよ」


 俺がそう言い放つと、まるで玩具への興味を失った猫のようにあっけなくそっぽを向いて立ち上がった。


「ま、流石にオレだって女だから寝起きのまま抱いてもらいたくはない」


「がっつり支度したって抱かねーけどな」


 そうして部屋の冷蔵庫から瓶ビールを取り出してそれをあおり始めた。そのついでのように俺にはジュースを差し出してくれたので、ありがたく頂戴する。


「でも、あの子を連れていって危ないとか心配とか思わないの? あ、それとも自分の保身? だったらナグワーとか連れて行く方が安心じゃない?」


「全部的外れだよ」


 ワドワーレは何も言わなかったが、目だけがどういう意味かと問いかけてきていた。


「昨日、ヤーリンと話してみて思ったんだ。『ヤウェンチカ大学校』の命令でここにきて、あいつはすごいプレッシャーを感じてる。成果を急いでいるような気がするんだ。だから自暴自棄になられても困るし、それに多少は危ない目に遭う事だって覚悟していた。そりゃ危ないことはしてもらいたくはないけど、やるやらないは俺が決めることじゃない」


「ふうん」


 そんな納得したんだがしていないんだかよくわからない返事をしてきた。彼女に合わせて俺もオレンジジュースを傾けると、もののついでに俺はワドワーレに対して思っていることも吐露してしまう事にした。


「それに」


「それに?」


「ワドワーレにもチャンスを作ってあげたいし」


「はい?」


「次に調査に行くメンバーはもう決めてるんだ。それで気が付いたんだけど、ワドワーレだけが『中立の家』に来てからウィアードと遭遇してない事になるんだよね。色々とみんなのリーダーとして足りないところは多いとは思うけど、ウィアードの情報をギルドに報告するためにも来てるんだろ、きっとさ。だからせめてウィアードを目の当たりにする機会だけは、みんな平等になるようにしたいなってさ」


 昨日ワドワーレはこの『中立の家』に派遣された十人が、俺を篭絡するために指示を受けているはずだと教えてくれた。そう言われると思い当たる節が多いし、俺自身も少々訝しんでいた点でもある。十あるギルドの全てが綺麗どころの女性ばかり推薦しているのは、話が出来過ぎだ。その上、ほぼ初対面の全員が積極的に距離を詰めてきているし…。


 しかしこの家にいる以上、少なくとも妖怪に対しては機会を平等にしてあげたいのも本心だ。ギルドの内情は俺には知る由もないが秘密裏にギルドから指令を受けているという事は、何かしらの成果をあげないとペナルティを課せられたりするかもしれない。


 そりゃ俺を引き込めれば最高の点稼ぎになるかもしれないが、俺がギルドに加盟する可能性はほとんどない。だからこそ、せめてウィアード関連の情報だけでも教えて置いておきたい。それは決して無駄な事じゃないはずだ。俺自身も過去に一度しか経験がないが、退治したことのある妖怪がまた別の地点で観測されたこともある。


 つまりは一度退治すればそれで終わりという訳ではなくなっているんだ。


 だからこそ、ウィアードと接触できる機会にはまだ価値を見出せるはず。それができるうちはまだ彼女たちの立場を危うくはしないだろう…素人考えかもしれないが、波風を立てずに事を運ぶにはこの方法しか思いつかない。


 俺が持っているウィアードの知識を全て共有するという事も考えたが、やはりウィアード対策室での事を鑑みると、知識を悪用されることが怖くてそれもできなかった。


 とまあ、俺は俺なりに色々と考えてはみたものの、その気持ちは結果として全然伝わってないような事を言われてしまった。


「なんか二股の言い訳聞いてるみたい。あ、ヲルカの場合は十股か」


「なんでだよ。別にみんなと付き合ってる訳じゃないし」


 そういうとワドワーレは妖艶な笑みを浮かべながらコツコツとヒールの音を部屋に響かせながらこちらに近づいてきた。そして白い指を差し出し、俺の胸をつんっと押しながら言った。


「けどオレ達はみんなお前と男女の仲になりたいと思ってるんだぜ?」


「ギルドのために?」


「オレは昨日まではそうだったね」


「昨日まで?」


「昨日まではヲルカの言う通り、ギルドのために他の奴らを蹴落としてでもって思ってたけど……昨日あんな事があったから」


 徐々にワドワーレの声のトーンが落ちていく。目は潤み、しおらしくなって心なしか頬に赤みが増した気がする。伏し目がちな顔からは表情を読み取ることができなくて、俺は動揺以外の反応ができない。


「え? え?」


「オレのことをかばってくれたから妙に意識しちゃって、さ……一人の男の子として見ちゃってる」


 そして本当に恥ずかしがって、


「…好き」


 と、聞こえるようで聞こえないような、それでいてしっかりと俺の耳に届く声で囁かれた。


「いや、その」


 狼狽。


 国語辞典で索引するよりも、狼狽の意味を伝えられると思えるほどに俺は狼狽した。


 ワドワーレはやはり伏し目で恥じらいながら、そんな俺の手を取った。が、次の瞬間には冷たいまでに真顔に戻ってしまった。


「こういう攻め方のが効きそうだな。今度からそうするか」


 俺は絶句し、それからすぐに腹立たしさが込み上げてきた。この腹立たしさはワドワーレに対してと、傍から見てもチョロすぎる俺に対して込み上げてきたものだ。思わず奥歯を噛みしめてしまい、気が付いた時にはこめかみが痛くなっていた。


「おーい」


 固まるばかりの俺にワドワーレが手を振って正気を確かめてきた。それを合図代わりに俺は口火を切る。


「俺も…」


「あん?」


「ワドワーレのメイクと髪は可愛いと思う」


 …。


 …どうだ?


 前世からカウントしても片手で数えるほどしか女の人を褒めたことのない男の褒め殺しはの味は。こういうのは何を言うかじゃなくて、どう言うかなんだって何かの雑誌で読んだ事がある。からかわれた悔しさが動機ではあるが、可愛いと思っているのは事実だ。その上、褒め慣れていないから純朴さもアピールできる。


 けど、ワドワーレはまたさっきの顔つきに戻り、照れ顔をわずかに反らしながら


「ありがと」


 と言った。


 それを見て可愛らしさと年上の女性をからかおうとした後悔とが一気に羞恥心として押し寄せてきてしまい、俺は顔から火が出るのではないかと思わんばかりに赤面した。オレにできることと言えば、パクパクと口を動かした後、素直に謝罪することだけだった。


「負けました」


 ワドワーレはご機嫌な笑顔を見せると再び冷蔵庫からお酒を取り出して、祝杯としたのだった。


 酔いかそれとも俺の無様な姿と言う肴が良かったのか、ワドワーレは上機嫌になって続ける。


「とりあえず、この紙に書いてあるような場所とか店を考えておけばいいのね」


「うん。お願い」


「はいはい」


 そう言ってメモの紙をヒラヒラとさせると、いきなり握りつぶした。少し驚いたが握った拳を広げると一輪の小さい赤い花ができたので、そこで初めて手品を見せられていたのだと気が付く。


 からかったことへの償いの意味かどうなのかは分からないが、それを差し出してきたのでありがたく頂戴した。


「じゃ、また後の会議で」


「バイバイ」


 そうして二度目の訪問は、一度目に比べれればはるかに平和的に終わったのだった。


読んで頂きありがとうございます。


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