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妖怪マニアの転生ギルド生活 その3  作者: 音喜多子平
ギルドミッション:グライダー
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3-9


 未だに完全に気付ができていないサーシャとタネモネを路地裏に運ぶと、俺はもう一度全員に怪我や体調不良がないかを確かめた。本当はもっといいところで休ませたいが、そもそも満足に歩けないから仕方がない。


 ともあれ何とかギルド員、市民共に負傷者を出さずに『グライダー』事件を終わらせることができた。いや、正確に言えば一体のウィアードの逃走を許してしまっているので完全な幕切れではないのだけれど。それでも今は全員の働きを労ってもいいはずだ。


 夜の路地裏は当然の如く真っ暗だったが、街灯はギリギリ届く範囲であったしフェリゴの妖精特有の青白い光も相まってお互いの顔位なら問題なく見ることができる。


 俺がみんなにお疲れ様の一言でも言おうとした瞬間、出鼻を挫くようにフェリゴの方が先に声を出した。


「いやあ、マジですごいな。ヲルカ」

「こっちこそ助かったよ」


 そうだ。今回の立役者はコイツかもしれない。あの時フェリゴが助けてくれなかったとしたら本当に転落死していた。そう実感すると今更ながらにもう一度冷や汗が背中を伝った。


 するとフェリゴの正体を未だに掴めていないみんなを代表し、サーシャが俺に向かって聞いてきた。


「ところでヲルカ君、こちらの方は?」

「初めまして。フェリゴ・フルーリーと言いまして『ハバッカス社』の若輩でございます。まさか『サモン議会』の金色面紗こと、サーシャ・サイモンス様に自己紹介ができようとは夢にも思っておりませんでした」


 調子に乗って気障な男を演出したような挨拶を飛ばす。ところがサーシャはフェリゴの事よりも『ハヴァッカス社』という名前が気になったようだ。というかギルド名以外には感心すら持っていない様子だ。


「『ハバッカス社』ということはハヴァさんがギルドに助勢の申し出を?」

「いえ。私達は何も知りません」

「え、そうなの? 俺もてっきりそうだと思ってたのに」


 ん? だとしたら一個疑問がある。俺は反射的にそれを口に出してきいた。


「じゃあ、何でここにいたんだ?」

「たまたま。ホントにただの偶然」


 と、言い終わった後。フェリゴはさっきよりも更に芝居がかって大げさに「しかぁぁし」と声を上げた。そして懐から筒状に丸めた紙を取り出すと、それを広げた。出す時はフェリゴの手でつまめる位の大きさだったのに、出し切るとフェリゴの身体よりも大きい文書になっていた。アレだ、ドラえもんがどこでもドアをポケットから取り出す時の演出みたい。


 そして今度はゴマをすって言う。


「見れば親友と我らがギルドの重鎮たるハヴァさんがいらっしゃるじゃないですか。ここは機会を伺い、あわよくばアピールをしてハヴァさんに推薦状を書いてもらおうと思いまして」

「推薦状?」

「そうそう。あるプロジェクトに参加したいんだけど、新入社員の俺にはまだ実績がないからね、『ハヴァッカス社』の有力者の推薦でもないと」


 くるりと半回転したフェリゴは魔法の影響で青白く光る紙をハヴァへと差し出す。すると遜って頭を下げた。


「今回の働きを鑑みて、こちらにサインを頂けないでしょうか?」

「…現在、『ハバッカス社』は全ギルド員ウィアード関連の事件に許可なく関与してはならないと命令を出しています。それを破った認識は持っていますか?」

「いえ、全く」

「え?」


 聞き耳を立てていた俺はついそんな声を出した。それには二つの意味がった。


 一つは『ハヴァッカス社』がウィアードへの接触を禁じている事。もう一つはがっつりそのルールを破っておいて白を切るフェリゴに対してだ。コイツがウィアードに対して関わっている事は俺とハヴァだけでなく、伝達を受けた他のメンバーだって目撃しているはず。


 しかし当の本人はあっけらかんとして反論をした。

 

「私はウィアードに自らの意思で関わってはいません。やった事と言えば学生時代の親友が屋根から落ちたのを助けた事と、その後に立ち去ろうとした彼に引き留められ、彼の依頼で情報を指定された人物に伝えた上、業務中に出くわしたギルドの先輩の危機に助力しただけです。前者は人として当然の行いですし、後者は『ハバッカス社』のギルド員として当然の行いです。私が自分の意思ではなく業務の最中に突発的にウィアード絡みの事件に巻き込まれたことは親友であり、不肖ながら…えっと、今はまだ名もなきあなたがたの現在のギルドマスターであるヲルカ・ヲセット殿が証言してくれるはずです。な、ヲルカ」

「…確かに、結果として巻き込んでしまった…と言えなくもないかな?」


 フェリゴの言い分は確かに筋が通っているし、なにも間違ったことは言っていない。なのに俺はいまひとつ釈然としなかった。


 それはハヴァも同じだったようだが、彼女の場合は顔が一向に変わらないのであくまでも俺の推測だが。彼女は強張った雰囲気をそのまま声に乗せてフェリゴに詰問をする。


「左様でございますか。ではこのたまたまこの推薦状を持って、たまたまミグ通り近くに出くわし、たまたまヲルカ殿を助けたという事ですね」

「出世の種はどこに転がっているか分かりませんから」

「わかりました。確かに突発的な事態に対処できる能力はもっと上で発揮する方が『ハバッカス社』の益になるでしょう。私達の名前で推薦をいたします」

「ひゃっほう!!」


 今まで続いていた堅く緊張した雰囲気を払拭するかのような歓喜の声だった。まるでミュージカルのように全身を使って喜びを表現している。だがそれが如何に計画的なものだったのかは言われずとも明白だ。


「中々に強かな新人がいて羨ましい限りだ」

「恐れ入ります」


 タネモネ達は呆れるのと褒めるのと同時に行っていた。確かにこの出世欲と行動力は見習うべきかもしれないとも思う。


 そうしてここまでの流れに一端の小休止が生まれた。俺を除く四人が各々息を整えている隙に俺はフェリゴに近寄って久々の再会を喜ぶような、今のやり取りを言及するような、それでいてやっぱり友達に会えたことが嬉しく感じているようなことを言った。


「お前、全然変わってないな」

「当たり前だろ。そう簡単に変わるかよ」

「もしクビにでもなってたらどうするつもりだったんだ? せっかく入れたギルドだろ?」

「そん時はお前に泣きついて、お前のギルドに入れてもらおうかなって」

「ちゃっかりしてるな」

「つーかよ、さっきの話で思い出した。お前のやってるギルドの名前はまだ決まんないのかよ? 待てど暮らせど、名前がないから記事とか書くのが大変なんだぜ」


 話が進むうちにいつしかフェリゴから恨み節が飛んできた。確かに今までは形式的に『十一番目のギルド』などと呼んでいたが、確かに格好は悪い。特に新聞や雑誌の掲載を担当している『ハヴァッカス社』からしてみるとヤキモキしている事態ではあったのだろう。


 確かに忙しさにかまけて優先度は下がっていたが、決して考えていなかったわけじゃない。今日のウィアード調査が終わった暁には、『中立の家』でみんなに発表しようと思っていたくらいだ。そう思っていたのに、俺はつい言いたがりが出てしまった。


「実は一個思いついたんだけど」

「そうなのですか?」

「お? 何ていうんだ?」

「まだ自分のところのギルド員にも伝えてないのに、何で部外者に最初に教えなきゃなんないんだよ」

「細かいことは気にすんなって」

「自分たちも気になります。教えてください、隊長」

「隊長?」


 例によってナグワーの隊長呼びにクエスチョンマークを浮かべたフェリゴだったが、俺はその奥にいた皆の視線にも気が付いた。気が付けばフェリゴだけでなく、他の四人も興味津々にギルド名を聞くべく顔を向けてきていた。流石にこの瞳を無視する度胸は俺にはない。


 しかもあまり引っ張り過ぎるとハードルばかりを上げてしまう。正直、俺は自分のネーミングセンスに自信はないのだ。色々と足りない時間と頭を駆使したところで、俺は「十一」という数字から切り離して名前を考えることができなかった。しかも十一に因んだものだってトランプのジャックくらいしか思いつかない始末だ。俺はそのジャックにいつかどこかで聞きかじったジャックの古称をくっつけてギルド名として採用したのだ。


 俺は短絡的な名前を付けた恥ずかしさで蚊の鳴くような大きさの声で言った。


「『ジャックネイヴ』…ていうのはどうかな?」


 俺は五人の反応を確認する。


 実は本当に恥ずかしいことはもう一つある。


 ジャックネイヴって名前は結構カッコいいんじゃないか、と思っている事だ。


読んで頂きありがとうございます。


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