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妖怪マニアの転生ギルド生活 その3  作者: 音喜多子平
ギルドミッション:グライダー
18/37

3-8

 ヲルカが一反木綿を倒したのと同じ頃。


 ハヴァはフェリゴと共に風狸の逃亡を食い止めていた。途中まではヲルカのところにおびき出すことに成功していたのだが、突如として進行方向を変えて逃げの一手に切り替えていたのだ。


 名の通り狸と似た四足の獣の様な風体をしている風狸は見た目通りすばしっこく、その上空を自在に飛ぶのが厄介極まりなかった。


 ウィアード相手には魔法が通用しない関係上、物理的な手段でしか妨害が叶わない。しかし、幽霊の一種たるレイスのハヴァと体躯が小さいフェアリーであるフェリゴは物理的な身体能力が極めて低く、風狸を食い止めるのに苦労していた。


 唯一の救いは攻撃魔法や束縛魔法にはかなりの耐性を誇っていたウィアードに対して、妨害系の魔法が若干の効き目があったという点だろう。それに気が付いてからはハヴァは幻覚を、フェリゴは目くらましの呪文を駆使して風狸の退路を地道に潰していた。


 その時、フェリゴは目の端に待望の人物がこちらに迫っている事に気が付き、嬉々とした声を挙げる。


「来ました、ハヴァさん。ヲルカです!」


 ヲルカがギルドのメンバーを率いて応援に駆け付け…もとい飛び付けてくれているのが、ハヴァの目にも入った。しかし、それが油断を招いた。安心感からかハヴァとフェリゴに一瞬の隙が生まれてしまったことを風狸は見逃さなかったのだ。


 二人の術を強引に突破した風狸はあろうことか、こちらにやってきているヲルカ達に向かって突進した。その意外すぎる行動に全員の思考が混乱した。しかも飛んで逃げるのは分が悪いとみて、地面をものすごい速さで駆けて行く。


 ヲルカとナグワーは急な方向転換が叶わず対応が間に合わなかった。しかもナグワーの巨体が妨げとなり、ハヴァとフェリゴは追跡するための道を封じられている。つまり風狸を追いかけることができたのは、サーシャとタネモネの二人だけとなってしまった。


 サーシャは上昇し、タネモネは身体を数十匹の蝙蝠へと変えた。


 そして逃亡する風狸を追いかけ始めたのだが、ヲルカがそれを慌てて制止した。


「サーシャ、タネモネ! ダメだ、追うなっ!」


 だがヲルカの制止よりも風狸の仕掛けた攻撃の方が早く二人の下に届く結果となってしまう。


 ◇


 風狸は別名を風生獣、風母、平猴とも言い、日本及び中国に多くの伝承を残す妖怪だ。


 狸のような大きさをしており、場合によっては猿に似ているとも言われる。赤い目に短い尾を有し、豹のような文様のある体には背骨にかけて青い毛が一直線に生えていると『本草綱目』には記されている。


 同書には蜘蛛や香木の香を餌にする他に、刀の刃を通さず火であぶっても殺すことができないが頭を強く打つと死ぬ、たとえ死んでも口に風を受けると蘇る、などと書かれておりマイナーな割には詳細や文献が多く残されている妖怪だ。


 しかし俺が二人を引き留めたのはもう一つ、『耳嚢』という日本の奇譚をまとめた本に記述されていた特性が理由だった。風狸は獲物を捕らえる際に、何かの植物をかざす。その草をかざされた獲物は忽ちのうちに気を失ってしまうというのだ。


 ―――


 そして俺の予感は的中した。


 風狸はかざしただけで効果のある草を、あろうことか追跡してきているサーシャとタネモネに向かって投げつけてきたのだ。風に乗ったその草は広範囲に霧散して、もはや躱すことができない程に路地を埋め尽くした。その草が当たるとサーシャと蝙蝠たちはバタバタと翼を畳み地面に向かって真っ逆さまに落ち出した。


 俺は貸与術を解いて強引に着地すると、受け身も取らずに大急ぎで路地に千疋狼を走らせる。受け止めることはできないが、せめて落下の衝撃を抑えられるクッションにするつもりだった。


 幸いにも俺の目論見はうまく行き、サーシャもタネモネも大事に至ることはなかった。


 結局のところは風狸を逃がしてしまう形で決着したが、五体いる内のウィアードを四体倒すほどの大立ち回りの末、全員が無事なのだから十分な成果を出したと言っていいだろう。


 互いに安否を確認し、全員が落ち着きを取り戻したところで俺は地面に散らばっている風狸のばら撒いた草を見た。俺はその草を知っている。


「これは…野蒜だ」


 野蒜。ニラに似た匂いの植物、葉と球根は食用になる。


 野蒜だから相手は気絶して延びる…。


 え? これダジャレだったの?


読んで頂きありがとうございます。


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