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妖怪マニアの転生ギルド生活 その3  作者: 音喜多子平
ギルドミッション:グライダー
11/37

3-1

 夜。


 アルルが拵えてくれていた弁当を早々に平らげた俺達はいよいよ『グライダー』事件を解決するために『中立の家』の玄関に集っていた。


 昼間に俺が頼んだ調査依頼が難航しているのか、ラトネッカリ以外のメンバーは外に出たっきりまだ帰ってきていない。だから必然的に彼女一人に見送られる形となっている。


「じゃあ行ってきます」

「うむ。気を付けたまえよ」

「ありがとう、ラトネッカリ。みんなが戻ってきたらよろしく言っておいて」

「OKだ」


 そろそろ日が沈む頃合いだ。ウィアード退治に出向くにはお誂え向きな時間だが、まだ戻ってこないメンバーは反対に心配になる。尤も夜道で悪漢に襲われたところで、返り討ちにしてしまいそうな面子ばかりだが。それでも心配が全くないと言えばウソになる。


 とはいってもこちらも出発しない訳にはいかない。玄関のドアを閉めるのと一緒に、俺は一切の憂いを置き去りにした。改めて今回同行してくれる四人を見て決意を新たにする。


 四人も同じように自信に満ちた表情で応えてくれる。それはこのメンバーなら何が起こっても絶対に大丈夫と言う確信めいた何かを感じさせた。


 ところで意気込んで出発しようとしたとき、ナグワーが疑問を一つぶつけてきた。どうやら昼間にはしていなかった俺の頭についた装備が気になったようだった。


「ところで隊長。そのゴーグルは何でありますか?」

「あ、これ? もしかしたらまたナグワーに乗っけてもらって空を飛ぶかもしれないなぁと思ってたら、ラトネッカリが貸してくれたんだ」


 以前、朧車を追いかけるためにナグワーに乗せてもらった時、確かに力強い飛翔に助けられたのだが、襲い掛かる風圧にまともに正面を見ることすら難しかった。今回、空を飛ぶウィアードを相手取ると先の会議で話したとき、そこまで予見して道具箱の中から引っ張り出してくれたらしい。


 しかもラトネッカリによる改造を施し済みらしく、望遠機能や熱感知などなど機能が盛り沢山。つまりは見た目以上に多機能な防風ゴーグルという訳だ。


 その旨を伝えるとナグワーは安心したように言った。


「でしたら早速乗ってください。ミグ通りまでお連れ致します」

「その方が手っ取り早いか…みんなは大丈夫?」

「うむ。勿論だ。さっさと片付けてしまおう」


 速度の面でナグワーに後れを取るタネモネとサーシャはさっさとミグ地区を目指して飛んでいった。ハヴァはと言えばいつの間にか煙のように消え失せてしまっている。でもきっとミグ地区に辿り着いてから呼べば、さも最初からそこにいたかのように現れてくれるに違いない。


 俺は家一軒程はあろうかと言う黒龍の背へと乗せてもらう。つい先日もこうして乗せてもらったのだが、些か様子が違う。なんと転落防止用に鞍と手綱が備えつけられていた。一体いつ用意したのか…そもそもどうやって付けたのかなどと色々疑問が浮かんだが深く考えない事にした。それを言い出すと黒龍と人型の姿を使い分けているナグワーそのものに疑問は尽きなくなるからだ。


 まあ、アレだ。ヱデンキアには魔法があるから。理由はそれでいいのだ。


 俺はナグワーに跨るとゴーグルを付けて、彼女に合図をした。すぐさま『了解』という声が聞こえてきたかと思えば、次の瞬間には夜空へと飛び出していた。


 魔法が存在する異世界とはいえ、『ランプラー組』のおかげで電気や電灯もある世界だ。夜に真上から見下ろす町は暖色の光を放ち、イルミネーションのように見えた。ラトネッカリから借りたゴーグルも頗る調子がいい。風を受けても何の問題もなく、絶好の夜景を楽しむことができたのだから。


 ◇


 一番最後に出たナグワーが最初に現場に到着したのは流石の一言だ。ミグ地区は事前の情報通り、夜市が出ており昼と見紛うばかりの活気を見せている。屋台から漂ってくる色々な料理の匂いのせいで、弁当を食べたはずのお腹がぐぅとなった。やっぱり十代の体は違うなあと、つい前世の記憶と今の自分を重ねておっさんじみた感想を述べてしまう。もうこの体とも十余年の付き合いなのにね。


 地区の中継用の広場に降り立ってもナグワーは中々に変身を解かなかった。こうしておいた方が、後から飛んでくるであろうサーシャとタネモネの目印になるだろうという配慮だった。


 そうしている内に、まずはサーシャが降臨と言った方が相応しいような動きで舞い降りてきた。次いで大量の蝙蝠たちが幾重にも折り重なるように集合し、あっという間にタネモネの姿に変わった。そして最後に俺はハヴァの名前を呼ぶ。すると地中からホログラムのように音もなく現れたのだ。


 全員が劇的な方法で待ち合わせ場所に来たというのに、街の人たちは日常を崩しはしない。未だに前世の記憶や価値観を持っている俺は、そんなところにムズムズとも、ワクワクとも表現できる感覚を抱いてしまう。


 むしろ異なる四つのギルドの名うての所属メンバーが揃っていることに人々は驚いている様子だ。しかも隠密が信条のハヴァを除けば、残りの三人はそこそこの有名人だ。遠巻きに騒めく気配や同じギルドに所属しているであろう人たちから声を掛けられたりと、あまり長居をできる雰囲気ではなかった。


 というか、全員が揃った上でこの場に留まる理由がない。俺は改めて四人に命じる。


「それじゃあ昼間の打ち合わせ通りに動いてウィアードが出てくるのを待とうか。もしかしたらウィアードが絡んでいない事件って可能性も多いにあるけどね。みんな俺より実績あるから言うのもなんだけど、油断しないように気をつけてね」


 我ながら生意気だとは思うが、一応はリーダーなのだから注意喚起は言って然るべきだろう。それはみんな分かっているから、何も言わず素直に頷いてくれた。


読んで頂きありがとうございます。


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