【怒りと涙】
目が覚めると暖かい空間の中で自分がベッドにいる事にカリンダが気がつく。フカフカの毛布は柔らかで、とても落ち着いた。まるで今までの事はきっと夢だったのでは無いか?
___だが足を見た時、悪い奴らから逃げた時に出来た傷が確認出来た
「やっぱり…夢じゃない」
最後にみた光景は…あの大きく、それは大きい筋肉であった
「トライン…本当に助けにきてくれたんだ…」
部屋のドアが開き、何者かが姿を表した
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【スレーン王国領】【ヌタの森】【トライン家】
時刻が夕方から夜になる頃だろうか、マーリン一同を見送ったトラインは日課のトレーニングをやっていた
「はぁはぁはぁはぁ」
汗をダラダラにかき、下は汗の水溜まりが出来る、周りは蒸気で温度も上がっている。普段であればトレーニングを終わらせ満足をする所だが、今回だけは満足出来なかった
「ダメだ」
持ち上げていた重さ500キロほどの岩を降ろす
「今日はなぜかトレーニングが捗らねぇ…なぜだ、全ての筋トレメニューが通常の三分の1程度でバテてしまう。腹筋に至っては5000回しか今日はやっていないぞ…」
トラインは思い当たる節があった。こうやってトレーニングに身が入らない時ほど何かを悩んでいる時だ。そして何で悩んでいるのか
「マーリン達は無事に済んでいるだろうか…」
マーリンが約束をしたという人物…きっとこの国の犯罪者だろう…犯罪者が律儀に約束を守るのだろうか…不安が過ぎる
そして、ふとカリンダとの約束を思い出す
「俺はカリンダを安心させるために約束をした…しかし本当にこのままでいいのか?カリンダは俺の両腕の筋肉を褒めてくれた。初めて褒めてくれたんだ。俺の一番好きな筋肉を…そんな彼女を差し置いて、俺はこのままトレーニングを続けていいのだろうか…」
ふと筋肉が大きく揺れる
「なんだ!?筋肉が反応している!!」
必死に筋肉を押さえ込もうとするが、筋肉はどんどん揺れる
「うわぁぁぁ!!!!」
驚きのあまり地面に倒れ込む
空を見つめていると、雨が降り出した
「そうか…」
雨粒が痛々しく体に降り注がれる
俺は約束をした。しかもこの筋肉に掛けて約束をしたのだ。俺にとって筋肉とは人生だ。つまり約束を破れば俺は死ななければならない。それだけ大きな約束をしたのだ。なのに全力で約束を守らずしてトレーニングだと?ふざけるな!俺の筋肉はそんな安い物なのか!
「そうか…俺の筋肉!そういうことだよな!」
トラインは雨が降るなか全力で走り出した。マーリン達が向かった方向、そこに洞窟はあるはずだ。トラインは全速力で走る。トラインは馬よりも速く走れるのだ
しばらく走ると、筋肉がピクピクと痙攣を始める。
「なんだ!この感覚!」
一度だけ経験がある。過去に一度だけ殺し屋に狙われたことがあったが、殺し屋の殺気が自分の筋肉に反応し、万事を逃れたことがあった。極限まで鍛え上げられた筋肉は周りの殺気や音など様々な物に反応をすることが出来る。
筋肉は鍛え上げられると大きくなり、やがて敏感にもなる。耳が無くても筋肉から音が分かるし、舌が無くても筋肉から味が分かるほどだ
「だがこの反応は殺気では無い。誰かが困ってる。そんな感覚が筋肉から伝わる!」
トラインは筋肉の思うがまま我れ走る。遠くの方で二人の男が少女を襲っているのが見えた。その女の子がカリンダであることも筋肉で感じ取る
一人の男はナイフを持っていた。すかさず男を殴りつける。男は馬10頭分ほど遠くに飛ばされた。たぶん即死だ。もう一人の男は俺を見るや恐怖で後ろに仰け反り後退する
カリンダの意識を確認すると、幸いにも気絶してるだけであった。
「後は俺に任せろ」
ここまでブチ切れたのは人生でも初めてだろうか。気が付けば、その男の頭を片手一本で持ち上げていた
「痛い!やめてくれ!助けてくれ!!!」
「他にも獣人が3人いたはずだ…どこにいる」
「ほ!他の獣人は洞窟にいる!本当だ!」
「洞窟の場所は?」
「この先を真っ直ぐ行った場所だ!嘘じゃない!お願いだ!命だけは助けてくれ」
「良いだろう…もう二度と俺とその子の前に現れるな。さすれば殺す。二度目は無い」
トラインは男を離す。男は地面に尻もちをつき、その場から走り出す。トラインはカリンダを柔らかい茂みに一旦置くと洞窟の方を向いて歩き出した
だがしかし、背後からあの男が剣を抜いて襲いかかったのだ
「馬鹿野郎!このままコケにされて黙って逃げるかボケぇ!」
男はトラインの背中を大きく斬りつけるも、無情にもトラインの僧帽筋は鉄より硬かった。剣が弾けると男はまた尻もちをつく。
トラインはじわじわと後ろを振り向く
「二度は無いと言ったはずだ」
______【オリエルトスの洞窟】
マーリンは手錠で縛られ見るも無惨な姿となっていた、その傍ではダンブが部下に激昂していた
「くそっ!まだ連れてこないのか!遅すぎるぞ!」
「ダンブ様、落ち着いてください。流石に少女の足では遠くまでは行けませんから、きっともうすぐ連れてきますよ」
ダンブの激昂を部下がなだめる
ダンブは剣を抜き部下を切りつけた
「誰に落ち着けだぁ?」
「グハァ…ッ!」
部下は倒れ込み絶命した
ダンブは兵士の一人に質問をする
「おいっお前さんところの取引相手はいつ来るんだ!?」
「もうすぐ来ると思う。だが向こうも忙しいので、まだ掛かるかもしれん」
「ちっ!」
「焦ってるようだな…」
マーリンが口を出す
「あぁ?」
「お前が誰と取引してるか、粗方想像が付く。兵士が協力してるってことは間違いなくスレイン王国の関係者。そしてカリンダを狙ってるってことは魔術師関連者。その中でも特に大物だ…」
頭から血が垂れながらも淡々と喋るマーリンに、ダンブと兵士達は少し薄気味悪くなった
「そうだ…お前の取引相手は王宮魔術師だ…この国でもトップの魔法を誇る。もし取引に失敗すればお前の命ですら簡単に消されるだろうな」
ダンブは頭に血が昇り、マーリンをさらに痛めつける
「黙れ!この死に損ないが!」
だが、どれだけ痛めつけてもマーリンは動じない
ダンブは座り込んでマーリンの髪を掴み上げる
「本当ならすぐにでも殺してやりたい。だがまだだ…あの子犬が戻ってきたら、二度と逃げられないように目の前で…お前の指や足を少しづつ切り落としてやる。逆らえばどうなるか教えてやる…」
さらにダンブは立ち上がり手を広げ余裕の表情を作る
「お前は勘違いしているようだな。俺の命が消される?そんなのは有り得ない」
ダンブは隠してあった宝石細工のチェストから一本の杖を取り出した
「みろ。この炎の魔式杖を!この杖は予め強力な火炎魔法の魔力が込められている!魔法が使えぬ私でも扱える杖だ。使い捨てだがその威力は王宮魔術師も引けを取らない!」
杖をマーリンに突き出しダンブは質問をする
「それにしてもだ…お前のその余裕はなんだ?あの子犬が捕まるは時間の問題だ…なのになぜそこまで冷静なんだ?死を目前にして生きる気力を失ったのか?」
「余裕…か…」
マーリンもまた余裕を見せ、笑みをこぼす
「なぜだろうか…今になってあの男のことを思い出したんだ…」
「あの男だぁ…?」
「見た目だけならオークと勘違いするほどの巨大な人間だ…とても優しい…真に透き通った目を持っていた…」
「だからなんだ?」
「あの男が…約束してくれたんだ…妹は必ず守るって…」
「馬鹿めここは辺境の地だぞ…誰も助けになんかこない」
「そうだろうな…でも…なぜか考えちゃうんだ…もしかしたら…有り得ないだろうけど…もしかしたらって…」
マーリンは吐血し意識が朦朧としながらも顔を上げ、鋭い眼でダンブを睨みつける
「アンタを…ぶっ飛ばしに来るって…」
___その時であった、大きな衝撃音が洞窟内を響き渡る
「何事だ!?」
外にいた部下が中に入る
「大変です!」
「どうした!」
「オークです!オークが攻めてきました!」
「オークだと…?まさか!?」
「と…トライン…さん…?」
大きな衝撃音は少しづつ、こちらに近づいてる事が分かる、壁や天井の岩肌は揺れによって土埃が舞っていた
「部下は全員武器を持って迎え!奴は体が大きいだけのただの人間だ!何も怖がることはない!おいっ兵士共も始末してこい!!」
ほぼ全員の兵士や部下が対処しに向かう。ダンブは一人だけ部下を引き止めた
「待て〝ガイル〟…お前はここに残って俺を護衛しろ」
入口でマーリンを案内した大柄の男であった
衝撃音と共に兵士や部下たちの声が聞こえる。やがて衝撃音が消え、部下や兵士の声も聞こえなくなった
「やったのか…?」
足音が徐々に近づいてることが分かる
姿を表したのは巨大な____
____半裸のマッチョであった
「まさか部下や兵士が全員やられただと!?」
トラインは瀕死のマーリンを目にする。その横ではシーリンやレクゼの死体が積まれていた
トラインは全身に血管が浮き出し目が血走る。筋肉という筋肉が揺れ動き、蒸気となって周りを包み込む
「ば!化け物!?」
トラインはマーリンに近付き、拘束具をぶち壊す
「ト…トライン…さん…カリンダ…は…?」
「大丈夫だ安全な場所にいる。安心してくれ」
「あ、ありがとう…ございます」
「マーリン…もう少し我慢してくれ…奴を片付ける」
トラインはマーリンを横に寝かせると、ダンブを睨みつけ、その身から覇気を見せつける
「お前だけは生かしておけねぇ…」
その勢いにダンブは後退し部下に指示をする
「ガイル!奴を殺せ!!!」
「御意…」
ガイルは服を破り捨て、己の肉体をトラインに見せつける。その筋肉にトラインは感心する
「ほう…お前の筋肉は中々見事だ」
「毎日、ダンブ様のために鍛えている…」
「なるほど…まさかこんな場所で同志に出会うとは…だが、こんな形で出会いたくは無かった」
ガイルは剣を構える
「お前は武器を持たないのか…」
トラインはフロントダブルバイセップスのポーズで答える
「武器ならもうある…己の筋肉だ」
ガイルは瞬時にトラインに迫り、剣を振り下ろす。剣はトラインの両腕に振り下ろすも、トラインは瞬時に筋肉に力を入れ、剣が砕ける
「なに!?」
ガイルはすかさず間合いを取り剣の柄を捨てる。トラインは両腕から血が出ている事に気がつく
「俺の筋肉に傷を付けるとは…流石だ…」
「なるほど…剣をも砕く筋肉…俺も鍛えているが、お前ほどの筋肉は見たことがない…」
二人の死闘の最中、ダンブは思考を巡らしていた
「ちっ…もう取引は中止だ…ガイルは負ける…このままじゃ俺様も殺される…ならば…使い捨てだが仕方ないッ!」
ダンブは杖を突き出しガイルに叫ぶ
「ガイル!!!俺に忠義を見せろ!!!!」
その言葉を聞きガイルは動揺するも、次には覚悟を決める
「御意…」
ガイルはトラインの腹に目掛け突進しトラインに抱き込み、動かないように抑えた
「なにをする!?」
ダンブは杖を突き出し魔法を唱える
「喰らえ!王宮魔術師にも匹敵する火炎魔法を!!【ギガンファイアクス】!!!」
突如として眩い魔法陣が形成され、その杖から煌々たる火球が飛び出し、勢いよくトラインとガイルに迫る。トラインは必死で抵抗するもガイルは頑固として離さない
「何をしてる!!このままじゃお前も死ぬんだぞ!」
「私はダンブ様に忠誠を誓った。私の犠牲が必要なら従うまでだッ」
火の玉はトラインに到達するや、強烈な火の竜巻となりトラインを飲み込む。魔法の壁が現れ、その炎を包み込み、中は太陽の光のような眩しさを放っていた
「みろ!!!これが魔式の杖の威力だ!!!強力な炎を魔法で覆い閉じ込め、中を蒸し焼きにする!!!どれだけ鍛えようが所詮は、ただのデカいだけの肉塊!!一瞬で消し炭にしてくれる!!!」
炎は徐々に弱まり火の手が収まる、辺りは焦げ臭い匂いで包まれ、黒煙が舞い、ダンブの持っていた使い捨ての杖は灰になる
「ふふふ…はっはっは!!どうだ!みたか!俺様に逆らうものは全員死刑だ!!!!はっはっはっはー!!」
だが黒煙から現れたものは灰ではなく……
____巨大な筋肉であった
「な…に…!?」
筋肉が少し焦げたトラインと、真っ黒に焦げたガイルの姿がそこにあった。トラインはガイルをゆっくりと横に寝かせる
「そんな馬鹿な!王宮魔術師並の魔法だぞ!!なぜ傷が浅いんだ!!!!」
そんな言葉を無視し、黒焦げになったガイルにトラインは語りかける
「ガイル…お前は肉体も精神も素晴らしい男であった…だがお前の最大の失敗は…忠義を尽くす人間を間違えたことだ」
トラインは立ち上がり拳を鳴らす
「さぁ覚悟はいいな」
ダンブは恐怖で発汗し命乞いを始める
「す!素晴らしい!気に入った!どうだ!?俺の手下にならないか?金ならいくらでもある!贅沢できるぞぉ!酒や女も用意する!悪い話じゃないだろぉ!!!豪華な暮らしが出来るぞぉ!」
「うるせぇ…黙って死ね」
「許してくれ!お願いだ!!なんでもする!!命だけは助けてくれぇ!!!」
「そうやって許しを乞うた者を何人殺してきた?」
「そ…それは…」
「順番がお前に来ただけだ…諦めろ」
「ヒッ!!!」
ダンブは体の震えと涙が止まらず、ショックで小便を漏らす
「なんだよ!テメェ!刃物も通らない!王宮魔術並の魔法も効かない!なぜだ!魔法か!?神の加護か!?」
「いいだろう…死ぬ前に一つだけ教えてやる」
トラインは語りながら、じわじわとダンブに迫る
「俺はここに来る前に一通り全箇所の筋トレをし、有酸素運動も行った」
「だからなんだ…?」
「それにより筋肉が通常より大きくなり、血の巡りもよくなった」
「だからなんだんだよ!!!!」
「だから!!!筋トレ後の筋肉が一番輝くんだよぉぉおおおお!!!!!」
「だからッなんなんだよぉおおおぉぉぉぉおお!!!!」
大きな一撃がダンブの溝内目掛け炸裂する。
「グハッッッ!!!」
ダンブは衝撃で目が飛び出るほど前に突き出し、顎が外れるほど大きく口が開かれ、血が飛び出す。だが悲鳴を与える隙もなく次々とパンチをお見舞する。おもに胸や腹へ目掛け何十発もの重たい拳は音速の如くダンブに目掛け炸裂する
「グボババババボババババババババブババババボバババビババブババババボババババババババグバババ!!!!!」
何百ものパンチをお見舞いしたトラインは最後の全力の1発をダンブに喰らわせる
「パワァァァァァァァアア!!!!!!!!!!!」
ダンブの肉塊は思い切り吹き飛んで壁に衝突し、衝撃音と共に数メートルほど壁の中までめり込んだ
崩れゆく瓦礫に埋まるダンブにトラインは一言添える
「お前の敗因はただ一つ…大胸筋と腹筋群を鍛えなかったことだ」
トラインは瀕死のマーリン、そしてシーリンやレクゼを背中に抱え洞窟を後にしようとする。傍らで黒焦げになったガイルが起き上がり、肉塊と化したかつての主人を見つける
「なるほど…私は…負けたのか…」
「生きていたか…」
「フッ…何を言う…お前が大量の汗で俺を包み込んで守ったんだろう?」
「助かるかどうかは分からなかった。だが、見殺しにするのも惜しいと思っただけだ」
「ふっ…かつて全てを失い路頭に迷った俺をダンブが拾った。ダンブが最低な奴だというのは十分に分かっていた。だがダンブに拾われなければ俺はとっくに死んでいた。その恩に答えるように俺は筋肉を鍛え、この身を捧げてきたのだ」
黙って洞窟を後にしようとするトラインにガイルは訊ねる
「お前…聞かせてくれ!私はこれからどうすればいい!全てを失った私は、どうやって生きればいいというんだ!」
トラインは立ち止まりその質問に答える
「さぁな…俺には分からない…だが一つだけ言える。お前はまだ全てを失ってはいない…
___その鍛えられた筋肉があるだろう」
その言葉を聞くとガイルは、悔しさのあまり拳を地面に何度も叩きつけ、声にならない声をあげた
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【ヌタの森】【トライン家】
寝ていたカリンダの部屋に入ってきたのはトラインであった
「どうだ?体は痛くはないか?」
「トライン…私は何日眠っていたの?」
「丸一日ってところだ…」
トラインはゆっくりと子椅子に座り、カリンダに事の顛末を説明した。カリンダは泣くことも取り乱すこともなく、ただ下を見つめ黙って話を聞いていた
「じゃあ…お兄ちゃんは…」
「あぁついてきてほしい」
トラインはカリンダをお姫様抱っこし、家の外に出る。家の前は畑になっており、その横には二つの墓標があった
「二つ…」
トラインはカリンダを墓の前に降ろす
「一つはシーリンとレクゼだ。夫婦だから一緒の墓がいいと思ってな」
もう一つの墓標にはマーリンの名前が掘ってあった
「俺は…すぐに信頼出来る医者へ行こうとした…だがもう長くはなかった…マーリンは俺を引き止めると、ただ一言、俺に言って旅立ってしまった…」
「兄は…なんて…?」
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マーリンを抱え森を必死に走るトライン
「まって…トライン…さん」
トラインはマーリンに語りかける
「どうした!大丈夫か?」
「トライン…さん…ありが…とう…本当に…あり…がとう…」
「感謝の言葉はあとだ!俺が長年信頼してる医者の方にいく!その人なら獣人でも治療してくれるはずだ!」
マーリンはトラインの袖を強く掴む
「最後に…カリンダに……伝えてくれ…
【愛している】と…」
その言葉を最後にマーリンの体から力が無くなるのを感じた、トラインは立ち止まり必死にマーリンを呼び掛けるも、マーリンが二度と目を覚ますことはなかった
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カリンダはマーリンの墓の前で泣いていた。一通り泣くとカリンダはトラインに訊ねる
「一つだけ聞いてもいいですか?」
「………なんだ?」
「お兄ちゃんは…苦しんで死んだのですか…?」
トラインは腕を組んで雲ひとつない青空を見つめると、目から一筋の光が零れた
「いや…安らかだったよ」
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【オリエルトスの洞窟】【入口手前】
「やれやれ…これじゃ私の計画がパーですよ…」
いかにも立派な魔道ローブを着た魔術師の青年が立っており、そこへ兵士がやってきた
「状況を説明します!ダンブの一味全員、そして派遣した兵士も数名死亡を確認!生き残ったのは兵士二名のみです!」
「チッ…汚らわしい犯罪者が…まともな取引も出来ないのか…ほかには?」
「はい!遺体を確認した所、少女は発見出来ませんでした!」
「ほう…力を解放したのか…いや、それとも獣に食われた?そもそも最初から少女を用意出来なかった?…決めつけるには情報が少ないな…周囲を組まなく捜索しろ、少しの痕跡も逃すな」
「了解!」
「救護班、何か分かったか?」
「はい!生き残った兵士によれば、最後に見た光景は…大柄のオーク…」
「オーク?」
「いえ!オーク並に体が大きい人間だそうです!」
「オークのような人間…ほう…面白いそうだ…」
魔術師は兵士に命令する
「その人間を捜索しろ!牢獄にいれて監禁するんだ。私が行くまで何もするな、私自ら尋問をする!」
「了解です!【王宮魔術師】様!」
洞窟を見つめ青年は笑みを浮かべる
「フッフッフッ絶対に逃がしませんよ…カリンダ……
なぜなら貴方は……
___【神に選ばれし者】なのだから…」